皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第二章 死がふたりを分かつとも

第35話 恋人の浮気

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 それでもレナはアルベルトを健気に慕っている。

 客と男娼ではなくつがいになり、その想いの丈を訴えて、アルベルトの子を産みたいのだと縋っても、がんとしてアルベルトは首を縦に振ろうとしなかった。

 公娼の内風呂に浸って帰るのは、同衾どうきんしたように見せかけるためだと、レナはアルベルトに去られるたびに泣いていた。


 たとえ宴席を張ってもらっても、肝心の床入りを拒まれてしまったら、レナが『フラレた』ことになる。

 レナに恥をかかせることは本意ではないとアルベルトは言い、表向きは情交したように装ってくれている。

 このことは、アルベルトと共にレナの居室に入り、閉じられた寝所のドアの表で待機する護衛兵にも、箝口令かんこうれいが布しかれているとも聞いていた。

 その気遣いが一層つらくて切ないと、アルベルトが部屋を出た後に、必ずレナにぼやかれる。

 サリオンも、『フラレる』レナのやりきれなさの要因を、自分が作っているようで、いたたまれない気持ちにもなる。


 アルベルトがレナを買い占めた日は、今夜こそというレナの期待と、今夜もという落胆に翻弄されるレナが哀れでならない。ずっと胸を痛めてきた。

 ただ、二人の房事ぼうじの詳細を、知っていたとは言えない立場だ。


 レナとは故国のクルムで同じ年頃、同じ娼館に売られた身で、兄弟のように育ってきた。

 だからレナが嬉しいことも辛いことも、つぶさに自分に語るのは、自然なことかもしれないが、客とのねやの話まで、側付きに軽々しく愚痴るのは、最高位の昼三としての品格に欠けると、非難される恐れもある。


「お言葉ですが、陛下は今夜の宴席で、レナ様と睦まじく戯れておいででした。私は お二方が腰を抱き合い、寝室に入って行かれる所まで見ています。陛下が買い占めた男娼を、一晩どのように扱おうとも、側付きの私なんぞが口を挟むつもりは、ございません」


 一気呵成いっきかせいに述べたあと、サリオンは一度目をつぶる。

 薄暗い廊下の天井を、仰ぎ見ながら息を吸い、吐き出しながら眉を逆立て、めつけた。


「……とはいえ、今夜はレナ様に、情をかけるおつもりで、いらしたのではありませんか?」

 今までの二人がどうであれ、今夜こそアルベルトはレナを抱く気でいたはずだ。
 サリオンは、二人のこれまでの経緯を知っていたと答えるかわりに、アルベルト自身に矛先を向けてやる。

「それは……」

 
 首根っこでも掴まれたように、皇帝アルベルトが視線を泳がせ、言いよどむ。
 サリオンも、何だか自分が恋人の浮気を咎めているような、場違いな気分になっていた。

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