皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第二章 死がふたりを分かつとも

第52話 オメガの自由

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 男娼が気に入らない客をフる場合、饗宴までは涼しい顔で共に過ごし、客とともに居室に戻る。

 そして、いざ床入りという段階に進んだ際、『少々お待ち頂けますか?』等々の、曖昧な理由で寝所を出て行き、客が引ける時間まで戻らない。

 それが、公娼では位の高い男娼が客を『フる』流れの典型だ。
 ミハエルも、おそらくはこの常套手段じょうとうしゅだんで寝所を抜け出し、帰らなかったに違いない。

 公娼特有の慣習を熟知している常連客なら、男娼が『少々お待ち頂けますか』と口にした瞬間に、自分は今夜はフラれるのだなと推察する。


 それでも目当ての相手にモテなかった、無粋な自分のせいだと、男達は涙を呑む。
 男娼に指一本触れさせてもらえないまま、帰る時間になったとしても、文句を言うのは逆に男を下げるからだ。

 そんな色事いろごと機微きびが通用しない、野犬のようなダビデを、あえてのようにフッたとしか思えない。


「どうしてか、なんて決まってるだろう。それが自由ってもんじゃねえのかよ。違うのか?」

 ミハエルは丸々とした大きな目を更に見開き、即答した。


「自由……?」


「俺は十歳の時に、故郷だった国の郊外の農場主に買われた奴隷だった。そりゃあ、ひどい扱いだったさ。十歳の子供だろうと、二十歳の働き盛りだろうと、老人だろうと、区別はされない。日が昇る前から叩き起こされて、屋敷の掃除や主人の飯の支度をさせられてたし、昼間は日が暮れるまで農作業。夜になったら荷車で街に連れて行かれて、路上で物乞いをさせられた。俺は……、まあ、こんな顔だろ? ガキのうちは、思い切り哀れっぽくしてみせれば、それなりに同情は引きやすかった。だけど、決められた額の施しが受けられなかった夜なんか、屋敷に帰ると主人に鞭で打たれるんだ。『この役立たず!』って、罵られながら、それこそ服も破れて俺自身、ボロ屑みたいになるまでな」

 半袖膝丈の貫頭衣から伸びたミハエルの手足には、痛々しい無数の傷の痕がある。
 そのため、これほどの美貌と若さを誇りながら、最高位の昼三ではなく、ひとつ格下の寝所持ち止まりの位とされた。

 物乞いをさせられたのは十二、三歳前後までだったそうだが、成長するに従って、今度は農場での過酷な労働が待っていた。


 大地主が所有する農場で休む暇も与えられず、鳥の餌のような僅かばかりの食べ物で飢えをしのぐ。
 そのうえ主人の気分次第で、殴る蹴るの暴力にまで晒さらされる。

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