77 / 306
第二章 死がふたりを分かつとも
第53話 運が悪い
しおりを挟む
同じ奴隷身分でも、貴族の屋敷の単なる使用人になる者もいれば、都市の区役所に所有され、公衆浴場や円型競技場の雑務に携わるだけの労働者もいる。
しかし、ミハエルのように劣悪な主人に買われた運の悪い奴隷達は、『壊れる』まで酷使される運命だ。
壊れるとは、過労や病気や齢を取って衰弱死するか、主人の虐待が過ぎた結果、『つい、うっかり』殺される意味になる。
「ただ、俺の主人はアルファでも、オメガの男と寝る趣味だけはなかったからな。夜の相手をさせられない分、マシと言えばマシだった。俺も自分は運がいいと思っていたのは、それだけだったかもしれない。十五の時に、テオクウィントスの軍隊に侵略されるまでは、の話だけどな」
傾いだ木の椅子に腰かけたミハエルは自嘲した。
つまり、十五の時に、ミハエルの故国もテオクウィントスの属国にされ、軍に捕虜として連行されたミハエルは、奴隷商人に転売をされ、更に公娼に売られて性奴隷にさせられたと、言いたいのだろう。
幼い頃に娼館に売られ、性奴隷のオメガ達を間近に見ながら育ったサリオンやレナとは、男の劣情の捌け口にされる苦痛の度合いが違うのか。
ミハエルは寝所持ちとして優遇される今よりも、むしろ農場にいた頃の方を懐かしむような、遠い目をして黙り込む。
しかし、ミハエルのように劣悪な主人に買われた運の悪い奴隷達は、『壊れる』まで酷使される運命だ。
壊れるとは、過労や病気や齢を取って衰弱死するか、主人の虐待が過ぎた結果、『つい、うっかり』殺される意味になる。
「ただ、俺の主人はアルファでも、オメガの男と寝る趣味だけはなかったからな。夜の相手をさせられない分、マシと言えばマシだった。俺も自分は運がいいと思っていたのは、それだけだったかもしれない。十五の時に、テオクウィントスの軍隊に侵略されるまでは、の話だけどな」
傾いだ木の椅子に腰かけたミハエルは自嘲した。
つまり、十五の時に、ミハエルの故国もテオクウィントスの属国にされ、軍に捕虜として連行されたミハエルは、奴隷商人に転売をされ、更に公娼に売られて性奴隷にさせられたと、言いたいのだろう。
幼い頃に娼館に売られ、性奴隷のオメガ達を間近に見ながら育ったサリオンやレナとは、男の劣情の捌け口にされる苦痛の度合いが違うのか。
ミハエルは寝所持ちとして優遇される今よりも、むしろ農場にいた頃の方を懐かしむような、遠い目をして黙り込む。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる