皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第三章 争奪戦

第54話 気を引いた罪

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「アルベルト……」

 サリオンは縋すがるような声で呼ぶ。舌が強張り、上擦った。

 ここから公娼の門前まで続く路面が突如として陥没し、黒くて深い大きな穴が開いてしまったかのように、足がすくんで動けない。

 けれどもアルベルトはサリオンの肩を強く抱き込み、勇猛果敢ゆうもうかかんに踏み出した。

 向かっているのは公娼の正門だ。


「アルベルト!」
「夜営業の開始時刻に遅れたのは、俺がお前を引き止めたからだ。館の主には、俺が経緯を説明する」

 定められた時刻までに、奴隷が帰館しなければ、逃走したとみなされる。
 直ちに逃亡奴隷を捕獲する請負人に依頼が行き、国中の似顔絵が貼られ、国境の検閲が強化される。

 捕らえられた逃亡奴隷に待っているのは、競技場で死ぬまで猛獣と戦わされる、上流階層の娯楽としての拷問か、額に灼熱の烙印を押されるなどの懲罰だ。


 しかし、今夜は門番が目視できる距離まで戻っていたのに留まらせたのは皇帝だ。
 門番も証言をするだろう。

 とはいえ必ずしも門番が、館の主に真実を報告するとは限らない。
 廻しの仕事は、男娼からも客からも恨みを買いやすい。


 金払いのいい太客に他の男娼を廻したら、廻されなかった男娼に、贔屓ひいきをしたと恨まれる。

 客は客で指名相手にフラれると、その男娼の機嫌を廻しが取り損ね、床入りにまで至らせなかった落ち度だと責められる。


 廻しに対して何らかの悪意を抱いだ人物が多少の金を渡したら、門番達は躊躇なく嘘をつくだろう。 
 それを案じてくれている。

 アルベルトの細やかな心遣いが胸を打つ。

 そんな彼を帝位を追われるかもしれない重大な政局に立たせている。
 その要因の一端になっている。

 サリオンは自ずと顔を伏せていた。


 心のどこかでアルベルトを拒みきれずにいた自分。
 邪険にしながら気を引いて、期待を持たせる真似をした。

 子供ができないオメガの奴隷に振り回されていなければ、もっと早くレナが孕んでいただろう。
 アルベルトの帝政を継ぐ皇太子を、だ。

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