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第一章 新しき世界

第13話 クーデター

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「へっへ~ん。もうあんたらの言うことは聞かないってことだよ~」

「ふ、やはり子供。力を手に入れたらすぐに反抗する」

 サクラさんが嬉しそうに声をあげると体よりも大きな大剣を取り出した。【マジックバッグ】を持っているようですね。モミジさんも持っているみたいで長い杖を取り出しています。
 グーダラ王は兵士達に視線を向けると合図を送る。一列に並んだ兵士達が槍を向けてくる。

「そんなの意味ないよ! は~っ!」

 勢いよく飛び出したサクラさん。一列に並んでいた兵士達を大剣の腹で薙ぎ払う。

「ちぃ。勇者と言うのは厄介ですね。ですが思惑通りですよ」

「ぐふふ」

 そんな状況でも余裕綽々の王様が声をあげるとダラクが不気味な笑みを浮かべる。
 その余裕の正体はサクラさんの足元にありました。魔法陣が彼女の足元で輝き収束していきます。

「隷属の魔法陣だ! これで勇者はこっちのもの!」

「そ、そんな! サクラ!」

「……」

 グーダラが嬉しそうに声をあげるとモミジさんが悲痛の声をあげる。さっきまで笑顔で表情豊かなサクラさんが無言で俯いている。

「【キュア】。ダメ治らない……」

 ミントさんがサクラさんを治すための魔法を放ちましたがサクラさんの様子に変わった様子はありません。

「ふふふ、ミント様。あなたには後でお話がありますのでご覚悟を」

「ん……」

「さあ、勇者サクラ! そのおっさんを細切れにしてしまいなさい!」

 ミントさんへと言葉を吐きかけるとすぐにサクラさんへと命令を飛ばす。その声に嬉しそうにしているダラク。まったく、親子そろって碌でもない。
 大剣を引きずりながらゆっくりと近づいてくるサクラさん。

「サクラさんは優しい子です元に戻ってください。【治ってください】」

「……あれ? 僕なにを」

 私が言葉を唱えるとサクラさんはすぐに元に戻る。半神の力は絶大ですね。

「ど、どういうこと父上!?」

「わ、私にもわからん」

 ダラクとグーダラは狼狽えてばかり。ミントさんが治せなかったように普通は出来ないことなんでしょうね。

「そ、そんなバカな……。隷属の魔法陣の力で勇者を手に入れこの世界を我が物にする夢が! このようなおかしな格好をした者に!」

 グーダラはそう言って頭を抱えだす。

「ギリル! ギリルはどこだ!」

「こちらに」

 グーダラの声に答える男性が現れました。その方の隣に誰かいますね。

「な!? なぜエルフが!」

「やーやー。これは奇遇ですねグーダラ王」

 ギリルと呼ばれた男の横にいた男性が棒読みでグーダラ王に答えています。耳が長い男性はエルフですか、映画で見たことがありますね。

「ぎ、ギリル貴様。裏切ったな」

「グーダラ王。お前は王に相応しくない!」

「な、なに~! 貴様~!」

 いつの間にか私達は蚊帳の外ですね。グーダラ王へと反旗を翻したギリルと言う男性。エルフの兵士も出てきてグーダラ王の兵士たちを圧倒していきます。これだけ強さが違うと勇者に頼りたくなるのも仕方ないですね。

「ち、ちきしょ~! わ、私は王だぞ!」

「策謀によって得た地位だろ! お前など誰も認めていない」

 グーダラ王の兵士達は全員負けて縄に縛られている。王の言葉にギリルさんが怒りをもって言葉を返していた。かなりの恨みがあるように感じますね。

「サクラ様、モミジ様。お騒がせいたしました」

「ギリル大臣」

 一段落してギリルさんが話しかけてきた。一部始終を傍観していましたけど、ギリルさんも中々強かったですね。魔法と剣で兵士を圧倒していました。

「無理やり召喚するだけでは飽き足らず隷属の魔法陣や首輪まで……。謝っても謝りたりません」

「ギリルさんは良くしてくれました。謝らないでください」

 ギリルさんは跪いて二人に謝っています。モミジさんは彼の人柄を理解しているようで許してあげていますね。

「ギリルのおじさん。こっちのおじさんにも謝ったら?」

「え? ということは召喚に巻き込んでしまいましたか?」

 サクラさんが声をあげると申し訳なさそうに私に頭を下げてくるギリルさん。なぜか親近感がわきます。社畜だったころの私のようですね。

「いえいえ、普通では味わえない体験をさせていただいております」

「申し訳ありません。こちらを気遣ってくれてそんな言葉を」

「あ、いえいえ。本当のことですよ。あちらにいた時には仕事をしても充実感など皆無でしたから。この世界に来て生きているという実感を得られました。本当にありがとうございます」

 ギリルさんのことを考えて言っている言葉ではありません。心の底から感謝しています。
 
「優しい方でよかったです」

「ギリルさん。私にも紹介してほしいのですが」

「あ、フィン様。失礼しました」

 ホッとしているギリルさんにエルフの方が声をかけてくる。

「こちらはエルフの国の王フィン様です」

「サクラさん、モミジさん、マモルさん。どうぞよろしく。ミントさんもよろしくお願いしますね」

 ギリルさんの紹介でお辞儀をしてくるフィンさん。王様なのに頭を下げてくれるなんてグーダラ王とは違うようですね。

「皆さまはこの後どうするおつもりですか?」

「フィン様?」

 フィンさんが質問してくる。ギリルさんが首を傾げています。

「このままこの国にいると色々と面倒でしょう? どうでしょうか? 私の国に来るというのは?」

「フィン様! 話が違います!」

 フィン様の提案にギリルさんが声を荒らげる。

「ん~、ギリルさんは優しいからここにいたいかな~」

「そうね。見知った方と一緒の方がいいと思うわ」

 サクラさんとモミジさんが声をもらす。するとギリルさんがホッと胸を撫でおろす。

「そうですか。それは残念です。気が変わったらすぐに連絡してくださいね」

「フィン様!」

「ははは、すみませんねギリルさん。私も王ですから、国の為になることならば努力せねば気が済まないのですよ。では私は国へと帰ります。石材の件をお忘れなく」

 フィンさんはそう言って玉座の間を兵士達と共に去っていく。

「石材とは?」

「エルフの国では木材を主体とした城壁や住宅がならんでいます。それを石材へと徐々に変える予定なのです。それを我々の国の商人にお願いするという話。簡単に言えば安く買いたたきたいという話です」

「なるほど」

 その話を持ち掛けるために、今回ギリルさんを助けたということでしょうかね。中々の商売人のようです。

「もっと時間がかかると思われましたが皆さんのおかげで早く話が済みました。隷属の魔法陣だけが気がかりだったんです」

 ギリルさんがそう言って微笑む。確かに勇者も隷属させてしまう魔法陣なんてやられたらたまったもんじゃないですものね。

「く、くっくっくっく。は~っはっはっはっは」

「な、なんだ。狂ったかグーダラ!」

 急に笑い出すグーダラ。ギリルさんが彼の胸倉をつかむと饒舌に語りだす。

「王である私を裏切ったお前には死を求めるほどの罰を! 【転移陣】!」

「な!」

「危ない!」

 ギリルさんの足元に魔法陣が描かれていく。この玉座の間には見えない魔法陣が無数に描かれているようですね。私は無我夢中に飛び出してギリルさんを魔法陣の外へとはじき出した。

「ま、マモルさん! ……」

 モミジさんの最後の言葉を最後に私の目に入る風景が地獄の風景になっていました。黒い大地に赤く燃え盛る山、どこでしょうここは……。
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