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第十話「ピアニストの階段」2
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音読をするだけで我慢できず眠ってしまった翌日。
朝食後、自室のベッドでゴロゴロしながら、朝から私はどうすれば演劇を無事にやり遂げられるのか心底心配になりアタフタしていた。
そういえば昨日、夕食の後に光は今日デートで出掛けるって話してたっけ。
「うぅー、むりむりむり! 全然進歩してる気がしないよ……」
デートに出掛けるということで指導を頼み込むのは遠慮するべきところだけど、私は早くも一人で練習するには荷が重すぎると思い、光に泣きつき頼み込むことにした。
「光、あの、神楽さんとどこに出掛けるのか決まってるのかな? かな? かな?」
申し訳ない気持ちを込めて遠慮がちに光の部屋にやってきた私は猫撫で声のような上擦った声で、落ち着きのないまま光に恐る恐る聞いた。
「えっ? まだ決まってなくて、今、ちょうど考えていたところだけど」
話しによれば二人は付き合ってもう長いとは聞いていたけど、出掛ける先は決まってないのか、これはチャンスかもしれない、私はここぞとばかりに一つの提案をすることにした。
「じゃあ、うちでお茶するのはどうかな? ついでに練習に付き合ってくれると嬉しいのだけど……」
「お姉ちゃん、一人で寂しいの?」
「さ、さささ、寂しいわけじゃないの、台本読んでて、分からないところとか教えてくれると嬉しいなぁって」
私はストレートに真理を付かれ焦った勢いで手をブンブン振りながら、否定したが、露骨なリアクションのせいで光には全部お見通しだった。
「僕も昨日今日で読み込んでるわけじゃないのに、いいの?」
「うんうんうん、全然大丈夫、二人の邪魔するつもりは一ミリもないからっ!」
私は大きく頷いて見せたが、光は目が泳いでいる私を見て呆れた様子だった。
舞台を優先すべき状況であることは分かり切っているのに、遠慮がちな私の姿を光は可哀想な目で見ているようだった。
「そう? 別にいいけど、手伝うと約束したから。千歳に聞いてみるね」
(普段、ち、千歳って呼んでるんだ……っ)
「お姉ちゃん、何か言った?」
光の疑いの目が私に向かって注がれる。光と神楽さんの恋路につい興味津々になってしまう私の心情は筒抜けなのかもしれないと思い怖くなった。
「いえいえいえっ! 何にも言ってないからね! 仲睦まじくてお姉ちゃん安心したなぁーって、それだけだよ」
「お姉ちゃん、千歳のこと、学園外では神楽さんて呼んだらダメだよ?」
隣に立つ光が落ち着きない私にそう言った。
特別な関係と境遇にある二人には譲れないルールくらいはあることは私もなんとなく理解していた。
「そうだよね、学園の中でだけ男装して通ってるんだもんね。
普段は神楽さんじゃないんだもんね……」
光に言われて、恋愛経験皆無の私は信用ないのかと思い、早々に自分に自信を失くしそうになったが、なんとか気持ちを落ち着かせて、間違いないようにしようと改めて心を入れ替えた。
夕陽千歳ちゃんか……、実際にあったことはないけど、写真を見て、今風のカジュアルな感じがして、誰が見てもかわいい、これぞ女子高生といった女の子だった。
(……でも、学園で会う神楽さんと、写真で光と写ってる千歳さん、それとフィギュアスケートで氷上を滑る千歳さん、どれも雰囲気違うから、ちょっと会うのは不安だなぁ)
なんて最初に話しかければいいんだろう? うちの弟がお世話になってます? それで正しいのかな? まるで分からない……、何か根本的に間違ってる気がする。
「お姉ちゃん……、小声でぶつぶつ言ってるの、聞こえてるからね」
「あれ? 本当? 気にしないでね。心配することは何もないから」
生体ネットワークのオンオフに気を取られがちで、動揺すると声が漏れがちになってしまっているのかも……、光の前だと気が抜けちゃうなぁ……。
そもそも彼女さんは私のことをどう思ってるんだろう。お邪魔虫に見られるとやだなぁ。
背が小さいから子どもに見られるのも苦しいのだけど、これでも一部分だけ成長はしている。それを自分から口にするのは破廉恥すぎて難しいけど……。
少し大きくなった胸を軽く自分で揉んでみる。うん、確かにここだけ4年前より明らかに大きくなってる、4年前は本当にぺちゃパイ(死語)だったから色気なんてまるでなかったけど……。
「お姉ちゃん、何してるの? 自分のおっぱい揉む性癖でもあったの?」
「えっ?! そんなのない! そんなのない! そんなのないよ!!」
「お姉ちゃん、動揺しすぎだよ……、今更何を気にしてるんだか……」
「私だって、成長してるとこ成長してるんだからっ!」
私は光に向かって、ムキになって言うが、光はまるで気にしない様子で冷静だった。
千歳さんという可愛い彼女がいるからか、すっかり光は女性慣れしてしまっているように見えて、私には手に余る相手になってしまっているようだ。
光は突然まくしてるように早口になる私に付いていけない様子で、すっとデバイス端末を取り出し千歳さんに連絡する。
神楽って名前も可愛いけど、千歳って名前も可愛いよね……、本当、二人並んでる写真を見ただけで、お姉ちゃん、初見でお似合いだ!って叫んじゃったよ。
「千歳、いいってさ、うちに遊びに来ることになったよ」
通話を終えて光は私に報告を入れた。
「ホント? それはよかったわね!」
「お姉ちゃんが言い出したんだよ……」
「大丈夫大丈夫大丈夫!! ちゃんと歓迎するから!!」
「心配だなぁ……、変なこと千歳に言わないでよ……?」
「大丈夫だから、お姉ちゃんを信じなさい!」
私は同い年だけど、つい胸を張ってお姉ちゃんぶって見せた。
千歳さんが遊びに来ることが決まり、私は心を落ち着かせるために自室に一旦戻って台本を読むことにした。
朝食後、自室のベッドでゴロゴロしながら、朝から私はどうすれば演劇を無事にやり遂げられるのか心底心配になりアタフタしていた。
そういえば昨日、夕食の後に光は今日デートで出掛けるって話してたっけ。
「うぅー、むりむりむり! 全然進歩してる気がしないよ……」
デートに出掛けるということで指導を頼み込むのは遠慮するべきところだけど、私は早くも一人で練習するには荷が重すぎると思い、光に泣きつき頼み込むことにした。
「光、あの、神楽さんとどこに出掛けるのか決まってるのかな? かな? かな?」
申し訳ない気持ちを込めて遠慮がちに光の部屋にやってきた私は猫撫で声のような上擦った声で、落ち着きのないまま光に恐る恐る聞いた。
「えっ? まだ決まってなくて、今、ちょうど考えていたところだけど」
話しによれば二人は付き合ってもう長いとは聞いていたけど、出掛ける先は決まってないのか、これはチャンスかもしれない、私はここぞとばかりに一つの提案をすることにした。
「じゃあ、うちでお茶するのはどうかな? ついでに練習に付き合ってくれると嬉しいのだけど……」
「お姉ちゃん、一人で寂しいの?」
「さ、さささ、寂しいわけじゃないの、台本読んでて、分からないところとか教えてくれると嬉しいなぁって」
私はストレートに真理を付かれ焦った勢いで手をブンブン振りながら、否定したが、露骨なリアクションのせいで光には全部お見通しだった。
「僕も昨日今日で読み込んでるわけじゃないのに、いいの?」
「うんうんうん、全然大丈夫、二人の邪魔するつもりは一ミリもないからっ!」
私は大きく頷いて見せたが、光は目が泳いでいる私を見て呆れた様子だった。
舞台を優先すべき状況であることは分かり切っているのに、遠慮がちな私の姿を光は可哀想な目で見ているようだった。
「そう? 別にいいけど、手伝うと約束したから。千歳に聞いてみるね」
(普段、ち、千歳って呼んでるんだ……っ)
「お姉ちゃん、何か言った?」
光の疑いの目が私に向かって注がれる。光と神楽さんの恋路につい興味津々になってしまう私の心情は筒抜けなのかもしれないと思い怖くなった。
「いえいえいえっ! 何にも言ってないからね! 仲睦まじくてお姉ちゃん安心したなぁーって、それだけだよ」
「お姉ちゃん、千歳のこと、学園外では神楽さんて呼んだらダメだよ?」
隣に立つ光が落ち着きない私にそう言った。
特別な関係と境遇にある二人には譲れないルールくらいはあることは私もなんとなく理解していた。
「そうだよね、学園の中でだけ男装して通ってるんだもんね。
普段は神楽さんじゃないんだもんね……」
光に言われて、恋愛経験皆無の私は信用ないのかと思い、早々に自分に自信を失くしそうになったが、なんとか気持ちを落ち着かせて、間違いないようにしようと改めて心を入れ替えた。
夕陽千歳ちゃんか……、実際にあったことはないけど、写真を見て、今風のカジュアルな感じがして、誰が見てもかわいい、これぞ女子高生といった女の子だった。
(……でも、学園で会う神楽さんと、写真で光と写ってる千歳さん、それとフィギュアスケートで氷上を滑る千歳さん、どれも雰囲気違うから、ちょっと会うのは不安だなぁ)
なんて最初に話しかければいいんだろう? うちの弟がお世話になってます? それで正しいのかな? まるで分からない……、何か根本的に間違ってる気がする。
「お姉ちゃん……、小声でぶつぶつ言ってるの、聞こえてるからね」
「あれ? 本当? 気にしないでね。心配することは何もないから」
生体ネットワークのオンオフに気を取られがちで、動揺すると声が漏れがちになってしまっているのかも……、光の前だと気が抜けちゃうなぁ……。
そもそも彼女さんは私のことをどう思ってるんだろう。お邪魔虫に見られるとやだなぁ。
背が小さいから子どもに見られるのも苦しいのだけど、これでも一部分だけ成長はしている。それを自分から口にするのは破廉恥すぎて難しいけど……。
少し大きくなった胸を軽く自分で揉んでみる。うん、確かにここだけ4年前より明らかに大きくなってる、4年前は本当にぺちゃパイ(死語)だったから色気なんてまるでなかったけど……。
「お姉ちゃん、何してるの? 自分のおっぱい揉む性癖でもあったの?」
「えっ?! そんなのない! そんなのない! そんなのないよ!!」
「お姉ちゃん、動揺しすぎだよ……、今更何を気にしてるんだか……」
「私だって、成長してるとこ成長してるんだからっ!」
私は光に向かって、ムキになって言うが、光はまるで気にしない様子で冷静だった。
千歳さんという可愛い彼女がいるからか、すっかり光は女性慣れしてしまっているように見えて、私には手に余る相手になってしまっているようだ。
光は突然まくしてるように早口になる私に付いていけない様子で、すっとデバイス端末を取り出し千歳さんに連絡する。
神楽って名前も可愛いけど、千歳って名前も可愛いよね……、本当、二人並んでる写真を見ただけで、お姉ちゃん、初見でお似合いだ!って叫んじゃったよ。
「千歳、いいってさ、うちに遊びに来ることになったよ」
通話を終えて光は私に報告を入れた。
「ホント? それはよかったわね!」
「お姉ちゃんが言い出したんだよ……」
「大丈夫大丈夫大丈夫!! ちゃんと歓迎するから!!」
「心配だなぁ……、変なこと千歳に言わないでよ……?」
「大丈夫だから、お姉ちゃんを信じなさい!」
私は同い年だけど、つい胸を張ってお姉ちゃんぶって見せた。
千歳さんが遊びに来ることが決まり、私は心を落ち着かせるために自室に一旦戻って台本を読むことにした。
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