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第十話「ピアニストの階段」5

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 脚本通り私が四方晶子しほうあきこ役を務め、光が佐藤隆之介さとうりゅうのすけ役を担当して演技が始まる。

佐藤隆之介さとうりゅうのすけ
「また、いつかコンクールで会おう。その時までに入賞できるよう練習、頑張るよ」

四方晶子しほうあきこ
「うん、私も頑張る。隆ちゃんに負けないくらい、いっぱい練習して、一緒の舞台に立つよ」

佐藤隆之介
「待ってるよ、約束だよ」

四方晶子
「うん、二人だけの約束」

 眩しいほどに青春らしい卒業式の日のワンシーン、二人が別れる時の会話をシーンの様子をイメージしながら演じてみた。
 動的なシーンではないが、セリフを間違えれば台無しになる大事なシーンでもある。
 私は噛まないように何とか無事に演じ切ることができたが、本番では今以上に緊張することを考えると不安は残った。

「ここもそうだけど、ろ過去のシーンも結構セリフあるね」
「うん、登場人物が少ない分、私のセリフばっかりで、しかも過去のシーンも覚えて演じないといけないから……、憂鬱だよ……」
「そこはもう、覚悟を決めて頑張るしかないね」

 悲鳴を上げたって泣き言言ったって今更どうにも変更のしようがないのは承知の上だけど、本当に劇中の半分くらいが私のセリフで埋まっている。
 半月ほどでこれを全部覚えて、噛まないように仕上げて本番に臨まなければならないかと思うと、とても時間が足りる見通しがたたないものだった。

「条件は他のクラスも同じだから、私たちは私たちなりに出来ることを精一杯するしかないね」
「そうだよね。私たちは一年間演劇クラスを続けるって目標があるんだから。下手なものを見せないよう練習しないと」

 私は、私の至らなさで演劇クラスとして一年間活動出来なくなるのは嫌だった。
 たとえ、周りがそうは考えなくても、フォローしてくれたとしても、私のことを決して私を許せないだろう。
 どうしても負けることは許されない、その覚悟がなければ、私はこの舞台を乗り越えられないと考えていた。

「あの、一つお願いがあるの」

 私は台本を読みながら考えていたことを、二人に言葉にすることにした。

「どうしたの? 稗田さん」

 心配そうに千歳さんが聞いてくる、光も気持ちは同じようで、私の事を見ていた。

「あの、ピアノの練習もしておきたいの。四方晶子はピアニストだから、私、少しでも役に近づきたくて。
 お願い、最後のピアノコンクールのシーンでグランドピアノに触れる、その心情を少しでも身近に感じたくて」

 それは私の切なる願いだった。
 もっと役に入り込むために、四方晶子になりきるために。

「どう思う? 光? 千歳はそれもいいかなって思うけど、イメージを掴みやすくなって演技にも熱が入るのなら、賛成なんだけど」
「そうだね、あまりピアノを上手になることに執着しないのなら、グランドピアノに触れるのは難しくても、ピアノに触れてみるのはいいと思う」

 二人とも、私の意見に賛同してくれた。私はホッと息をついた。

「舞の使ってたピアノを使おうか。物入れに使ってる部屋に置いてあったはずだから、そこで演技と一緒に練習すればいいよ」

 光はそう言って、物置部屋まで案内してくれることになった。

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