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第十二話「真奈と庭園の残り香」1

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 休日を利用して、浩二は真奈を近所の内藤診療所に連れていくことにした。
 浩二と唯花の幼馴染である内藤達也の父が院長として切り盛りする内藤診療所の隣には先代から所有する内藤家の豪邸があり、そこにある広い庭園が真奈のお気に入りの場所になっている。

 真奈は注射嫌いだが、植物園のようになっている内藤家の庭園は大好きで、その庭園に行くことを、診療所で検査を受けるご褒美として、上手く診療所に通えるようになっている。

 真奈の検査とワクチン予防接種を終えて、浩二は真奈の手を握り内藤家に入った。
 
 先に待っていた達也に挨拶を済ませ、そのまま達也と屋敷のような日本家屋の玄関をくぐる。廊下を歩いてゆったりとした清涼な空気の流れた縁側に真奈と浩二は座って、久々にのんびりと過ごしていると、一度奥に引っ込んでいた達也が水ようかんと緑茶を持ってやってきた。

「お疲れ様、真奈もしっかり者になったね」

 いつもの白衣に身を包んだ達也はお盆を手に優しい声で真奈に言う。診療所で大人しく注射を受けていた真奈の姿を褒めているところだった。

「お注射も、もう怖くないのだ!」

 そう言葉にする真奈は一見辛そうには見えないが、それは苦難の日々あってのことであることを二人はよくわかっていた。

「せっかくだからね、甘い物を食べて、休日を満喫してくれたまえ」

 柔らかくて甘い水ようかんは真奈も大好きで、一段とご機嫌になった。

「これはかんだいなかんげいであるな! たつやにぃ、ありがとうなのだ!」

 甘い物を食べた真奈は元気いっぱいで、すぐさま庭園の方に駆け出していく。
 春の陽気を象徴するように、真奈はスカートを翻して庭園の辺りを踊りながら、ちょうちょを追いかけていた。

「それで、真奈ちゃんの体調の方は最近、良好かな?」

 浩二と二人きりになって、縁側に並んで座った達也は神妙な面持ちで隣の浩二に向けて口を開いた。

「ああ、最近はずっと元気そうだな。寒暖差とか気圧とか季節的なものがあるのかな」
「それも少なからずあるだろうが、大切なことはあまりストレスを与えず、自由に外でのびのび遊ばせてあげることだ」

 それは当たり前のことのようにも聞こえるが、達也にとって、それ以上の回答は用意できなかった。

「診断した限りは問題ない。あまり心配しすぎない事だな」
「そうか……」

 浩二は、自分に出来ることはそう多くないことが悩みでもあった。
 また突然倒れられたら、そんな不安が、常に浩二の中にはあったからだ。

「3ヶ月前のことをいつまでも悔やんでも仕方ない」
「でも……」
「父は国の研究機関が生産しているワクチンで一定の効果が出ていると話していた。 詳しいことは僕も知らないけどね」

 ワクチンは国の研究機関で生産され、毎年改良されている。
 それが真奈の健康とも関係しているというのは、まだ分からない部分も多く、浩二にとって不安の残るところだった。
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