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第一章
家名御免
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ロースター軍曹と行動を共にして、約二ヶ月が過ぎた。
軍曹の仕事どころか軍に入って間もなかった俺は、軍人としての基本的な事もわかっていなかったので、ロースター軍曹に軍人として一から鍛えてもらう事になった。
お人好しの世話焼きなロースター軍曹の指導は素晴らしく、おかげで最近、やっと軍曹としての仕事が1人で出来る様になってきた。
いやぁ、ロースター軍曹には感謝しかないね。
そんなある日、俺は領主であり、領軍の司令官でもあるダウスター男爵から呼び出された。
俺は隊舎とは別にある領軍練兵場内の司令官室に出頭した。
そこには相変わらず筋骨隆々の男爵が難しい顔で椅子に座って書き物をしていた。
似合わない、何て書類仕事が似合わない人なんだ。
それも事もなげにやっているから余計に違和感がある。
おっと、そんな事より挨拶をしないとな。
「リクト軍曹、出頭致しました!」
男爵に向かって敬礼をする。
すると、男爵はゆっくり顔を起こして視線を合わせた。
「ああ、楽にしてくれ」
そう言いながら、自身の首元を太い手でマッサージしている。
たまにゴキッゴキッと聴こえているが、大丈夫なのだろうか?
「近頃、処理せんといかん書類が増えてな。この前の戦争の事後処理だが、半分は貴官のせいでもある」
「小官のせい……ですか?」
聞くと書類の大半は前回のライエル男爵との戦争関連らしい。
戦後の賠償金や領土の割譲範囲、論功行賞の結果、その上、戦争の顛末まで報告しないといけないそうだ。
それに加えて俺の5階級特進だ。
軍令部の人事課が認めたとはいえ、特殊な論功行賞だったので、その他の部署にも経緯を報告せねばならず、その報告書を纏めるのが大変だったそうだ。
なんせ部署によっては『荒唐無稽過ぎる』と更に詳細を求めてくる場合まであるらしい。
「しかし、これは領軍司令官として責務だ。他に任せる訳にはいかないからな。つまらん愚痴だ。聞き流せ」
「はぁ……では、小官がここに呼ばれた理由は何でしょうか?」
まさか愚痴を聞かされるためだけに呼ばれたわけでもないだろう。
「貴官の階位についてだ。お前も下士官である軍曹になったからな。辞令が下りてから階位申請をしておいたんだが、その許可証が今日届いた。今日からお前の階位は現在の平民から名士となる」
「えっ! あ、ありがとうございます!」
やったぁ!
まさか、昇進の上に階位まで上がるとは思わなかった!
名士は《第九位》で《第十位》の平民の一つ上の階位て、名誉ある平民の事で、貴族からの扱いとしては平民と大差ない。
ただ、一つだけ大きな違いがある。
「名士となったからには、お前も家名を名乗れる事になるからな。何か考えておけよ。言っておくが、現存するしないに関わらず貴族家と同じ家名は厄介事の種になるから止めておけ」
そう、《第九位》の名士となると《家名御免》となり、家名を名乗る事が許されるようになるのだ。
別になくても生活には困らないが、帝都や公都には家名のない者には利用できない店があるというから、家名があるに越した事はない。
しかし、面倒なのはさっき男爵も言っていた通り、自分で家名を考えないといけない事だ。
その上、貴族家と同じ家名は使ってはいけないという暗黙の決まりがある。
下手に同じ家名を名乗ると後継問題に巻き込まれたり、言いがかりをつけられたりするそうだ。
だから新たに家名を名乗る際はちゅういがひつようとなるんだが、帝国には貴族家が結構あるので適当に付けるわけにもいかない。
さて、どうするかな。
「悩んでいるようだが、すぐにとは言わん。ロースター軍曹やサイモン上級曹長に相談するといい。用件はそれだけだ。行っていいぞ」
「はっ! ありがとうございます! 帝国軍人に恥じない家名を考え、より一層帝国のために尽くす所存であります! では、失礼します!」
俺は司令官室を後にし、隊舎に向かって歩き出した。
男爵の手前、考えてみるとは言ったものの、どうしたらいいか全く見当がつかないんだよなぁ。
出来ればかっこいい家名がいいが、俺にはどんな家名がかっこいいかすらわからない。
俺が今、知っている家名といえばダウスターとライエルくらいだが、これがかっこいいのかわからないし、第一これは貴族家だから使えない。
うーん、悩んでも仕方ないか。
ここは男爵の仰るとおりロースター軍曹かサイモン上級曹長に相談してみよう。
「よしっ! 先ずはロースター軍曹を探すとするか。多分今は隊舎の方にいるはずだ」
俺は隊舎に向かって走り出した。
軍曹の仕事どころか軍に入って間もなかった俺は、軍人としての基本的な事もわかっていなかったので、ロースター軍曹に軍人として一から鍛えてもらう事になった。
お人好しの世話焼きなロースター軍曹の指導は素晴らしく、おかげで最近、やっと軍曹としての仕事が1人で出来る様になってきた。
いやぁ、ロースター軍曹には感謝しかないね。
そんなある日、俺は領主であり、領軍の司令官でもあるダウスター男爵から呼び出された。
俺は隊舎とは別にある領軍練兵場内の司令官室に出頭した。
そこには相変わらず筋骨隆々の男爵が難しい顔で椅子に座って書き物をしていた。
似合わない、何て書類仕事が似合わない人なんだ。
それも事もなげにやっているから余計に違和感がある。
おっと、そんな事より挨拶をしないとな。
「リクト軍曹、出頭致しました!」
男爵に向かって敬礼をする。
すると、男爵はゆっくり顔を起こして視線を合わせた。
「ああ、楽にしてくれ」
そう言いながら、自身の首元を太い手でマッサージしている。
たまにゴキッゴキッと聴こえているが、大丈夫なのだろうか?
「近頃、処理せんといかん書類が増えてな。この前の戦争の事後処理だが、半分は貴官のせいでもある」
「小官のせい……ですか?」
聞くと書類の大半は前回のライエル男爵との戦争関連らしい。
戦後の賠償金や領土の割譲範囲、論功行賞の結果、その上、戦争の顛末まで報告しないといけないそうだ。
それに加えて俺の5階級特進だ。
軍令部の人事課が認めたとはいえ、特殊な論功行賞だったので、その他の部署にも経緯を報告せねばならず、その報告書を纏めるのが大変だったそうだ。
なんせ部署によっては『荒唐無稽過ぎる』と更に詳細を求めてくる場合まであるらしい。
「しかし、これは領軍司令官として責務だ。他に任せる訳にはいかないからな。つまらん愚痴だ。聞き流せ」
「はぁ……では、小官がここに呼ばれた理由は何でしょうか?」
まさか愚痴を聞かされるためだけに呼ばれたわけでもないだろう。
「貴官の階位についてだ。お前も下士官である軍曹になったからな。辞令が下りてから階位申請をしておいたんだが、その許可証が今日届いた。今日からお前の階位は現在の平民から名士となる」
「えっ! あ、ありがとうございます!」
やったぁ!
まさか、昇進の上に階位まで上がるとは思わなかった!
名士は《第九位》で《第十位》の平民の一つ上の階位て、名誉ある平民の事で、貴族からの扱いとしては平民と大差ない。
ただ、一つだけ大きな違いがある。
「名士となったからには、お前も家名を名乗れる事になるからな。何か考えておけよ。言っておくが、現存するしないに関わらず貴族家と同じ家名は厄介事の種になるから止めておけ」
そう、《第九位》の名士となると《家名御免》となり、家名を名乗る事が許されるようになるのだ。
別になくても生活には困らないが、帝都や公都には家名のない者には利用できない店があるというから、家名があるに越した事はない。
しかし、面倒なのはさっき男爵も言っていた通り、自分で家名を考えないといけない事だ。
その上、貴族家と同じ家名は使ってはいけないという暗黙の決まりがある。
下手に同じ家名を名乗ると後継問題に巻き込まれたり、言いがかりをつけられたりするそうだ。
だから新たに家名を名乗る際はちゅういがひつようとなるんだが、帝国には貴族家が結構あるので適当に付けるわけにもいかない。
さて、どうするかな。
「悩んでいるようだが、すぐにとは言わん。ロースター軍曹やサイモン上級曹長に相談するといい。用件はそれだけだ。行っていいぞ」
「はっ! ありがとうございます! 帝国軍人に恥じない家名を考え、より一層帝国のために尽くす所存であります! では、失礼します!」
俺は司令官室を後にし、隊舎に向かって歩き出した。
男爵の手前、考えてみるとは言ったものの、どうしたらいいか全く見当がつかないんだよなぁ。
出来ればかっこいい家名がいいが、俺にはどんな家名がかっこいいかすらわからない。
俺が今、知っている家名といえばダウスターとライエルくらいだが、これがかっこいいのかわからないし、第一これは貴族家だから使えない。
うーん、悩んでも仕方ないか。
ここは男爵の仰るとおりロースター軍曹かサイモン上級曹長に相談してみよう。
「よしっ! 先ずはロースター軍曹を探すとするか。多分今は隊舎の方にいるはずだ」
俺は隊舎に向かって走り出した。
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