食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第一章

ダウスター散策

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 俺を麾下に加えたい。
 俺にはそう聞こえたけど、俄に信じ難い。
 彼女は映えある帝国軍中将で帝国貴族の超エリートだ。
 大尉にしても少尉にしても帝国貴族の出自だし、俺とは雲泥の差がある。
 俺は最下階位の平民で、帝国軍人とは言っても田舎の領軍の軍曹でしかない。
 本気なんだろうか?
 
「閣下はたかが田舎の平民軍曹を御自身の麾下に加えたいと仰るのですか?」

「そうだ。この腐敗した帝国を立ち直らせるには、どうしても若く才能に溢れる者達が必要なのだ」

「しかし、小官が閣下のお役に立てるかどうか……」

「それはやってみなければわからない事だ。それに少なくとも大尉と少尉以上の戦闘力を持っていることは間違いない。役に立たないとは思えない」

 随分と俺を高く評価してくれるんだな。
 うーん、ここまで言われたら特に断る理由はないな。
 でも、男爵はどう思われるかな?
 一応、俺ってダウスター領軍の軍曹なんだけど、これで閣下の配下になったら裏切り者になるんじゃ……。
 チラッと男爵の方に視線をやると目が合ってしまった。

「私の事なら気にせんでいいぞ。貴官は領軍入隊とはいえ、帝国軍人には変わりない。軍令部からの辞令があれば転属する事もあり得るのだからな。それに私としても、我が領と中央とのパイプが出来たと考えれば悪い話ではない」

 むむむ、意外と腹が黒かったか。
 油断ならない人だなぁ。
 
「どうだ? 軍曹。私としてもここまで高待遇するのは今が最初で最後だと思って欲しい。後から言われても同じ条件とはいかないぞ」

 そんなに焦らせないでほしいな。
 まぁ、いいか。
 悩んでいても仕方ない。
 俺も腐敗臭が漂う社会で生きるのは嫌だからな。
 
「了解しました。リクト軍曹、ジェニングス中将閣下の麾下に加わらせていただきます」

 俺はその場に立ち上がり、最敬礼で閣下に返事をする。
 両隣にいた大尉と少尉が軽く歓声を上げたのは何故かわからないが、嫌がられるよりはいいか。

「うむ! よく決断してくれた! 貴官の生命はこのシャーロット・フォン・ジェニングスが預かる!」

「はっ!」

 こうして、俺はジェニングス中将直属の下士官となった。
 あれ? そういえば昇進は?

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 中将閣下との話の翌日、俺は大尉と少尉にダウスター領内を案内していた。

「……のどかな所だな」

「たまにはこういう所もいいねぇ……たまにはだけどぉ」

 2人が言いたい事はわかっている。
 『何もない』って言いたいんだろう。
 確かにダウスター領には名産とような品物はなく、観光名所も山や川といったいった自然が主で、のんびりする以外は何もない。
 帝国の中心でもある帝都出身の2人からすれば退屈なんだろうな。
 でも、逆に帝都には何があるんだろう。

「帝都には何があるんですか?」

「何があるかと聞かれても困るな。大抵のものはあると思うが」

「そうだねぇ。帝都には色んな物資が届くから、帝国以外にも王国や共和国の物まであるよぉ」

 大抵とか色んな物とか言われても、それが何なのかが俺には理解できない。
 それに王国の物や共和国の物が帝国の物とどう違うというのだろうか。
 首を傾げる俺を見て察したのか、大尉が少し考えてから口を開く。

「例えば道だ。ここは土を平ならしているだけだが、帝都では石畳で舗装されている。建物もここは平家が多いが、基本的に二階建てだ」

「お店の商品も種類が豊富で手頃な物から高級品まで色々だよぉ。武器や防具、魔道具も質の良いのが揃ってるからねぇ。他国の特産品なんかもかなりの種類があるよぉ。代わりに物価も高いけどねぇ」

 物価が高いのは嫌だなぁ。
 どれくらいするんだろう? 
 3割増とかかな?

「そうだな。ここと比べて帝都なら3倍はするだろう」

「さ、3倍っ! で、ありますか?」

「それぐらい普通だよぉ。下士官級だと生活がギリギリだから軍からの支給品とかで生活してる軍人も多いよぉ」

 3倍って……じゃあ食費も3倍か?
 要は一食が三食分の値段って事だろ?
 ……無理無理。
 どう考えたって俺には生活できないよ。

「小官は帝都では暮らす自信を無くしました」

「まぁ、そう言うな。閣下が貴官の昇進を上申してくださるし、それで階級が上がれば給金も上がる」

「そうだよぉ。将校になればだいぶ違うからねぇ」

「将校?」

「将校とは少尉から大尉までを指す。尉官とも言うな。ちなみに少佐から大佐までは高級将校で佐官、准将から元帥までを将官と言うのだ」

「下士官は上級曹長までだねぇ。ああ、兵長以下はただの兵だよぉ」

 そうなんだ。
 今の俺は下士官ってところか。
 ん? じゃああいつはどうなるんだ?

「准尉は下士官なんですか?」

「准尉は微妙な階級でな。准士官となる。下士官と尉官の中間と言ったところだ」

 よくわからないけど、中途半端なのはわかった。
 だからアルフレッドも中途半端だったのかな?
 いや、それは流石に他の准尉に失礼だな。

「それより軍曹ぉ、私お腹すいたよぉ~。どっか食べるところないのぉ?」

「そうだな。昼も過ぎた頃だろうし、少し腹が減ったな」

「隊舎に戻りますか? 今ならまだ食事が出来ると思いますが……」

 俺の言葉に明らかに不機嫌な顔になる大尉と少尉。

「えええええぇ! やだよぉ! せっかく来たんだから地元のご飯が食べたいよぉ!」

「軍曹、我々は帝都から遥々やって来たのだぞ? 隊舎の食事も悪くはなかったが、この辺りの郷土料理とか地酒を味わわせてくれてもいいんじゃないか?」

「でも、お口に合わないかもしれませんよ?」

「構わない。どんな味付けでも携帯食料レーションよりはマシだろう」

「あれはただの栄養補給用だから味は最低だからねぇ……」

 携帯食料レーションか。
 軍の備品管理で見た事はあるけど、食べた事はないな。
 さて、じゃあ何処の店にしよう。
 ダンクさんの店か、パルマ婆さんの店か。
 あっ、大尉が地酒って言ってたな。
 じゃあエイミーの酒場に行くか。
 
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