食うために軍人になりました。

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第一章

不安定

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 俺は遅い昼食を摂るために大尉と少尉を連れてある店に向かっていた。

「ごっはん~ごっはん~待ってて、ごっはん~逃げるな、ごっはん~」

 陽気に訳の分からない歌を歌う少尉は見た目も相まって、年齢より幼く見えた。
 実際の年齢は知らないけど、一般入隊は15歳からだし、士官学校は13歳からの入学で卒業には早くても3年はかかる。
 つまり少尉はどうあっても俺よりは歳上だ。

「ファンティーヌ。やめないか、恥ずかしいぞ」

 少し頬を赤らめた大尉は流石に大人だ。
 変な歌は歌っていない。
 大尉も幾つなんだろう?
 随分と若く見えるけど、大尉ってくらいだからやっぱり少尉よりは上かな?

「どうした? 軍曹。私の顔に何か付いているか?」

 年齢を考えていて、つい大尉の顔をボーッと眺めていたようだ。
 いかん、変質者だと思われる。
 ここは……誤魔化そう!

「いえ……大尉はこれだけの美人で俺と歳もそう違わないのに、ヴォルガング流剣術を極めておられてるんでしょ? その上、もう大尉とは、素直に凄いなぁと思っておりまして」

 我ながらなんて下手な誤魔化しだ!
 今時、こんな見え透いたお世辞に誰が乗るか!

「ま、まぁ、そうだな! それほどの事はないと思うが、確かに士官学校の同期の中では一番出世しているかな! び、美人というのは、その……人の好みによるからな! ぐ、軍曹から見て美人でも他の者から見れば違うかもしれないぞ? でも、まぁ、軍曹がそう言うならそう言うことにしておいてやろう! ふふふっ」

 乗るんかいっ!
 チョロ過ぎですよ、大尉!
 そんな凛とした顔が真っ赤なっていれば照れてるのが丸わかりです!
 おまけにたまに可愛く『ふふふっ』って言わないように!
 ギャップ萌えが大爆発ですよ!
 スケコマシにだけは注意してくださいね!

「……ふーん、リクト軍曹はヴォルガング大尉みたいな人が好みなんだぁ~! へぇ、なるほどねぇ!」

 ジト目で近づいてくる少尉。
 なんか嫌な予感がする。
 ここは……褒めよう!

「いやいや! 好みはまた色々ですよ! それに少尉だって愛らしい顔に抜群のプロポーションで、えっと……ま、守ってあげたくなるような、癒してもらえそうな……あー、そんな美少女って、非の打ち所がないですよね!」

 あっかぁぁぁぁぁん!
 これは駄目だっ!
 自分でも何を言っているのかわからないくらいグダグダだよ!
 俺って女性を褒める才能ないのかな?
 っていうか、女性を褒めるってこんなに難しいの?
 世の男達はいつもこんな苦労をしているのか!
 
「ふ……ふぅんっ! そ、そんな見え透いたお世辞は私には通用しませんよぉだ! で、でもぉ、非の打ち所がないってのは確かにそうかもぉ~。それに! 好みは色々だよねぇ! 大尉だけが好みってわけじゃないって事だよねぇ!」

 あんたもかっ!
 大尉も少尉もチョロ過ぎでしょ!
 それと腕を胸の前で組んだら、双丘が苦しそうじゃないですか!
 そんな状態で上目遣いされたら破壊力が上がるでしょ!
 少尉は特に気をつけないと、変な趣味の人に狙われたら大変だ!

「待て……軍曹。貴官は少尉の方が好みなのか? 先の私への言葉は食言しょくげんか? ならば、私は大尉として貴官を詰問せねばならんな」

「あれあれぇ~、大尉としてはなんて職権濫用は軍規違反ですよぉ、大尉殿ぉ?」

 な、なんか不穏な気配がする。
 向き合って睨み合うのは良しとしても、街中でそんな殺気を出さらたら困るんですけど……。
 何で急に仲が悪くなったんだ?
 ど、どうしよう……こんな時、どうしたらいいんだ?

「軍曹じゃないか? どうした? こんな所で何をしているんだ?」

 聴き覚えのある声に振り返ると、そこにはロースター軍曹が立っていた。

「ロースター軍曹! よ、良かった!」

「な、なんだ? そのホッとした顔は? それより、今日は非番じゃなかったのか? 何で軍服姿なんだ?」

「そ、それには事情がありまして……」

 言えない。
 大尉と少尉と出かけるのにまともな私服が無かったなんて……。

「おっ! そうそう、軍曹。さっき酒場のエイミーに会ったんだが、お前に会いたがっていて、よろしくと言っていたぞ。またエイミーハウスに顔を出したらどうだ?」

「エイミーがですか? そういえば最近会っていませんでしたね。実はちょうど今から……」

「「ちょっと待て!」」

 後ろから急に大声が響いた。
 見れば大尉と少尉が2人揃って険しい顔で俺に詰め寄ってくる。
 こ、今度は何?

「リクト軍曹! エイミーとは誰だっ? 貴官とはどういう関係だっ! よろしくとはどういう意味だっ!」

「私にも紹介してくれると嬉しいなぁ? 練兵場か墓地だと後の手間が無くていいんだけどぉ?」

 何で今度は殺気がこっちに向いているのですか!
 っていうか墓地で何する気だっ!

「エ、エイミーは酒場の店主の娘さんですよ。以前、お会いした時に気に入られて……」

「酒場の店主の娘か……いいだろう。私もどんな女か興味が湧いた……剣の錆に……失礼、同行させてもらおう」

「別にぃ、私は気にしないけどぉ。私も一緒に行くねぇ。あっ、一応、水系の魔法兵を近くに呼んどいてねぇ。火事になったら大変だからぁ」

 乱心だぁ! 何をする気だっ!
 この2人は何でこうも情緒が不安定なんだ?
 これが思春期ってやつか?

「大尉殿、少尉殿。エイミーはまだ5つの子どもです。そのように怖い顔をしていては泣いてしまいますよ」

 ロースター軍曹は物怖じせずに2人に落ち着いた口調で話しかけた。

「い、5つ? じ、じゃあ気に入られたってのは……」

「この間、リクト軍曹が留守の守りをしていたんですよ。意外と軍曹は子どもと遊ぶのが上手くて気に入られてましたね」

「ま、紛らわしい……もぉ! リクト軍曹! 言葉が足りな過ぎぃ! もう少しで恥をかくとこだったじゃないのぉ!」

「お、俺……小官のせいですか!?」

「そうよぉ! 罰として今から奢りでその店に行くよぉ!」

「それはいいアイデアだ。軍曹、世話になるぞ」

「えっ! いや……そんな……」

 大尉と少尉は揃って俺をひと睨みした後、エイミーの父が経営するエイミーハウスに向かって先を歩いていった。
 元々そこに向かっていたからいいんだけど、何で俺が奢らないといけないんだよ!
 はぁ……何でこんな目に……。
 項垂れた俺の肩にロースター軍曹がポンッと軽く手を置いてくれた。
 軍曹は優し……

「すまんな。馳走になる」

 そう言うと、ロースター軍曹は2人の後を追っていった。

 ……理不尽だ。

 
 


 





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