食うために軍人になりました。

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第三章

有望

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 旦那様は食事を摂った後、すぐに部屋で寝てしまいましたか。
 まぁ多少ハードなスケジュールでしたから今回は大目に見ることにしましょう。
 それにその方が私にも都合が良いですからね。
 さて、そろそろ時間でしょうか?
 
「……聞こえるか?」

 素晴らしい。
 さすが時間に正確でいらっしゃる。
 ですが、まずは確認しませんとね

「今宵の月は?」

「赤く燃えている」

 ふむ、問題ないようですね。

「御連絡いただきまして誠にありがとうございます。陛下」

 姿無き陛下に頭を下げるのは思っていたよりも奇妙な事ですね。
 小型魔導通信機では御尊顔を拝せないのが残念です。
 しかし、大掛かりな設備なしで通信できるのですからやむを得得ないことでしょう。

「堅苦しい挨拶は不要だ、テラーズ。無事にロンドベルゲンに到着したようだな」

「はい。少々時間を取られてしまいましたが問題なく」

「ブルフェンの古狸か。あの成金貴族の姑息な手にあいつはどうした?」

 姿がみえなくともワクワクしているのがわかりますな。
 待つ事が苦手でせっかちなのは子どもの頃から変わらないですね。

「私の演技にも乗らずに冷静に対処していました。それに貴族の子弟という肩書にも物怖じせずに捕らえる事、利用された民には寛大な事。旦那様は意外に領主に向いている方かもしれません」

 これは本音です。
 腕が立つだけの若輩者と思っていましたが、妙に達観している節があるのです。
 今回の件でも全く動じていなかった事には正直驚きました。

「ほぅ。お前がそこまで言うとは珍しい。馬車内での教育も及第点か?」

「ええ。暗記などは苦手でしたが、思慮深く理論的で意外と現実主義者でした。『何でそうするのか?』『何の目的か?』と色々聞かれてしまいましたよ」

「それは重畳。ならば予定通り、シュナイデンにはロンドベルゲンの統治を任せる事にしよう。それとブルフェン子爵への賠償請求は餞別代わり私から命じてやる」

 これはありがたい申し出ですね。
 階位が下の者が上の者に賠償請求するのは面倒ですから。

「御配慮いただきまして感謝致します」

「気にする事はない。そもそもヤツに情報を流したのは私だ。シュナイデン卿がどうするか試したのだが、期待以上に有望だったからな」

 そう、旦那様は私が画策した事だと思っていたようですが、実は此度の事は陛下がお考えになった事。
 しかし、ロンドベルゲンに財政的な余裕がないとはいえ、それをこういう形で徴収するとは思いもしませんでしたよ。
 更にそれを旦那様の素質を見るための試験とするとは、やはりこの御方は抜け目がない。

「賠償金については任せておけ。たんまりふんだくってやるさ。ではな」

「お任せ致します。ありがとうございました」
 
 魔導通信機が小さな音を立てて通信が切れた。
 
「ふむ。これでひとまず街の発展の資金は得られるでしょう。後は貴方次第です。頑張ってください、有望な旦那様」

 

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