食うために軍人になりました【一人称版】

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第六章

中将の決断

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 会議室にゆっくり入ってきたのは帝国の女神と言われるシャーロット・フォン・ジェニングス中将だった。
 だが、その顔はまるで人形のように感情がなく、元々の美しさと相まって不気味に思えた。

「今の話は本当か?」

 冷たく小さい声だった。
 いつもの女神の如く美しい声は微塵も感じられない。
 地の底から這い出てきたような悍ましい声だ。
 こんな中将は初めて見た。

「シャ、シャーロット様……こ、これは……」

「こ、これは誤解です! わ、我々は決してフェンドラの顔色を窺っているわけではありません!」

「そうです! それを経験の浅い若輩者達がワーワーと喚き散らして……」

 なんだとっ!
 勝手な事ばかり言いやがって!
 喚いてるのはどっちだよっ!?

「そうか……では、これからの東方方面軍がどう展開するのか改めて聞こう」

 あれ? 怒らないのか?
 いつもの中将ならとっくに怒っているはずなんだけど……

「と、東方方面軍2万の内、警備隊5000をサザントールに展開し、倉庫区画の火災における消火、避難活動に充てます!」

「残りは?」

「の、残りはその……予備兵力として待機させて領都の防衛に……」

「……そうか」

 ジッと前を見つめたまま中将はそのまま一言も話さなかった。
 正直、幹部共の作戦は作戦とは呼べない。
 『事なかれ』に徹しているだけだ。
 敵が本当に攻めてくる可能性があるなら部隊を沿岸や主要施設に展開して、防衛線を敷いておかねばならない。
 そんな基本的な事がわからない中将ではない。
 なのに、全く反論もせずに黙ったままでいるというのはどういう事だ?
 それにあの神妙な面持ちは一体……

「よかろう。卿達の作戦でいく。帝都からの援軍については小隊編成で領都各所に展開。シュナイデン中佐には……単独任務を命じる」

「そ、そんなっ!?」

「待ってくださいぃ! 中将閣下ぁ!」

「承服しかねます! 理由をお聞かせください!」
 
「ジェニングス中将……貴女は……」

 中将の言葉に驚いたけど、4人のあまりにも早い反論に完全に出遅れてしまった。
 それにしても中将はどういうつもりだ?
 まさか、中将まで利権絡み……いや、それはないな。
 こんな怠慢は中将が最も嫌う事だからな。

「作戦に変更はない。各々、すぐに準備を整え、整い次第出撃せよ。以上だ」

「お待ちください! 閣下! 納得のいく説明を……」

「ヴォルガング少佐! 卿らは軍人であり、上官の命令に従う義務がある! 違うかっ!?」

 立ち去ろうとする中将に詰め寄った少佐に、中将はらしからぬ厳しい口調で冷たく言い放った。
 意外だな。

「閣下……了解致しました」

 呆然とする少佐と3人は頭を下げて命令を受諾した。
 それで見えなかったんだろうな。
 部屋から出て行く中将の『すまん』って声にならない声を。
 何か理由がありそうだな。
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