食うために軍人になりました【一人称版】

第一章

作戦終了

　何か独り言の最中だったみたいだけど、まぁいいか。
　ーーうん、完全に事切れてるな。
　よし、作戦の第一段階は成功だ。

「きゃああああああああああ！」

「ひ、ひぃ！　お、お許しを！」

　ずぶ濡れの身体で湖から上がり、刀に付いたライエル男爵の血を振るって落としていると周りの女の人達が騒ぎ出す。
　何か一人、男が混じってるけど。
　あぁ、さっきの商人か。
　近くで見ると更に胡散臭いな。
　おっと、それより護衛の5人だ。
　状況がわかってないのか棒立ちだけど、すぐ気づくだろう。
　ここはお先に行かせてもらうよ！

「て、てきしゅ、ぎゃあああああ！」

　俺は大声を出そうとしていた手前の一人を一刀の元に斬り捨て、残りの4人の動きを観察する。
　良かった！　4人共、俺に向かって来てくれた。
　しかも、全員が長柄槍ロングスピアを構えている。
　このまま突撃して間合いに入り込んでやる！

「うぎゃあああ！　お、俺の腕がぁあああああ！」

「怯むな！　相手は一人だ！　囲んで槍で……」

　俺は向かって来た一人目の兵の両腕を斬り落とし、指示を出そうとしていた二人目の兵の槍を躱しつつ、首を撥ねた。
　甘い甘い。
　こんなに接近してる相手に長柄槍ロングスピアは不利だよ。
　それに胸部鎧プレートメイルは首元が空いてるから、刀かたなの刃ならスッと入るのさ。
　三人目の兵が槍を捨てて、長剣ロングソードで斬りかかってくるが、怖気ついたのか動きが鈍い。
　兵士が上段に振りかぶったタイミングで長剣ロングソードの柄頭つかがしらを押さえて、ガラ空きの首に刀かたなを突き刺す。
　兵士の身体がビクビクッと震えた後に物言わぬ骸に変わってしまった。

「う、うわぁあああああ！　ま、待ってくれ！　降参……いや、と、投降するっ！　するから命だけは助けてくれ！」

　それを見たからか四人目の兵に刃を向けたところ、武器を捨てて降伏した。
　そういえば、一人目も両腕を斬り落としただけで生きてるんだっけ？
　ふぅ、何とかなってよかったよ。
　でも、これからどうしよう。
　周りには男爵と兵士の死体が転がっているし、女達は逃げずに頭を抱えてしゃがみ込み、ガタガタと震えている。
　あの商人はいないな。
　逃げ出したかな？
　まぁ、あいつは民間人みたいだし、逃していいだろうさ。
　さて、それにしても無事に男爵を討てたのはいいけど、これからどうすればいいんだ？
　そもそも斥候の任務だから敵将討伐時の対応なんて聞いてないんだよなぁ。
　
「あ、あの……」

　女性の一人が怯えながら声をかけて来た。
　
「何ですか？」

「い、命だけはお助けを……お願いします。どうかお慈悲を！」

「わ、私にもお慈悲を！」

「私も！」

「ウチも！」

　一人の女性の嘆願を皮切りに他の3人の女性も平伏して頼み込んできた。
　よく見ると平伏しながらもガタガタ震えているのがわかる。
　服は乱雑に扱われたのか所々破れており、その隙間から真新しい傷が見えた。
　このクソ貴族め、最低だな！
　俺はなるべく脅かさないように、優しく声をかけた。

「お姉さん達。俺はダウスター領軍の兵士だ。ライエル男爵こいつは俺が討ち取ったから安心して。もう大丈夫だから、早く家に帰りなよ」

　俺の言葉に一斉に顔を上げる4人。
　そしてボロボロと大粒の涙を流し始めた。
　貴族に虐げられる平民か。
　帝国ではこんな事が罷り通っているのか……虫唾が走るな。
　まぁ、何にしてもこれにて作戦終了だ！