食うために軍人になりました【一人称版】

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第六章

責任

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 俺は帝国貴族の当主として慎重に生涯の伴侶を決めないといけなかったと言うのに……よりによって、こんな事故みたいな事で決まるとは……

「な、な、なんで僕が君と結婚しないといけないんだよっ!?」

「俺にだって責任があるんだよ! 手を出して……この場合は口だけど、女性と濃密に関わっておいて、責任をとらないわけにはいかないだろ!」

「はぁ? ど、どういう事?」

 帝国の内情に疎いフォルネアが知らないのも無理はない。
 俺はなんとか息を整え、事情を説明する事にした。
 俺がフォルネアと結婚しないといけないのには帝国の抱えているある問題が絡んでいる。
 帝国では一夫多妻も一妻多夫も認められていて、権力者が伴侶を複数人抱えている事は珍しくない。
 しかし、近年の帝国ではそれによって大きな問題が生じていた。
 それは上級貴族と下級貴族の関係悪化だ。
 腐敗した上級貴族の馬鹿達が、下半身の赴くままに見境なく下級貴族の家の者に強引な婚姻を迫る事案が増えていた。
 中には二十人以上の妻を持つ貴族までいたそうだ。
 最初のうちは上級貴族と関係がもてると好意的だった下級貴族だったが、後継争いによる暗殺事件、金銭問題、更には結婚や婚約している者を無理やり別れさせて強引に結婚する事もあったと言う。
 こういった上級貴族の専横に対する下級貴族の不満が爆発し、関係が悪化する事が増えていたそうだ。
 戦争となれば一枚板となって戦わねばならないというのに、性欲のせいで内輪揉めが起きている状態だ。
 流石にこのままではいけないと、この状況を打破しようと動いたのが、俺の直属の上司でもあるウォーレイク元帥閣下だ。
 帝国の力を損ねる無駄な争いの原因である婚姻について、陛下に制度を厳格化するよう意見書を出した。
 当然、これに上級貴族達は猛反発。
『正統なる帝国貴族の血筋を増やす事は国力の強化に繋がる事であり、戦争屋が口を挟む問題ではない』とわけのわからない理屈で反論しているそうだ。
 陛下としてはウォーレイク閣下の意見に肯定的だが、門閥貴族を始め、多くの上級貴族達の反発もあって、明確な沙汰はまだ出していない。
 そんな時にウォーレイク閣下の直属の部下である俺が結婚する気もない女性に手を出した挙句、責任もとらないというのでは門閥貴族共の恰好の攻撃の的になってしまう。
 だから俺は女性関係には慎重にならないといけないし、手を出した以上は責任をとらないといけないんだ!

「わかったか? 俺が結婚しないといけない理由が?」

 懇切丁寧に力説した俺にフォルネアの視線は冷たかった。
 
「あのね~、君はそんなつまらない理由で結婚してくれなんて言って、相手が了承すると思うのかい?」

「ぐっ……お、思わない……だから俺は生涯の伴侶と決めた相手だけにしようと誓っていたんだよ!」

「はぁ……でも、ある意味納得したよ。おかしいと思ってたんだ。君の年齢の貴族が童貞なんて普通はあり得ないもん。性も貴族の嗜みだからね。普通は指南役がいて、もっと若いうちに経験しておくもんさ」

 確かにそんな話もあった。
 これは貴族の習いで、別の話だからとテラーズに話を持ちかけられた事もある。
 でも、俺にはそれが納得できなかった。
 貴族の習いだからと交わる事を強要されるなんて、それは他の腐敗貴族とやっている事が同じじゃないか。
 俺は奴等と同じ所に堕ちたくはない。
 だから、きっぱりと断った。
 テラーズも無理強いはしなかったし、それでいい筈だ。

「俺はそんなのは御免だね」

「あっそ。まぁ、まだ若いし、潔癖過ぎるのも仕方ないか……しかし、結婚か。うーん……」

 フォルネアも考え込んでいる。
 当然だ。
 生涯に一度の結婚だから、悩むのもわかる。
 俺の事を好きなわけもないし、こっちをチラチラ見てるから、なんとか断る方法を考えているのかも……

「案外、悪くないか……うん! いいよ! 僕はお前の嫁になるぞ!」

 ……軽すぎる。
 本当にこれでいいのか?
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