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二章 ウィダー王国編
種
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鬼哭啾啾。
リューネは正に鬼のような形相で執事の胸ぐらを思いっきり掴んでいた。そ、そんな事をして大丈夫なのか? 仮にも辺境伯の家人だろ? 下手をすれば不敬罪になる可能性も……や、やばくないか?
「き、貴様……何のつもりだ! 無礼者め! この汚らしい手を離しなさい!」
執事は顔面蒼白になりながらもリューネに対して罵声をあげていた。リューネは何も喋らない。ど、どうしたらいいんだ?
「リューネ」
げっ! 辺境伯の綺麗な眉間にも皺ができてるぞ! は、早く止めないと……っ!?
「リュ、リューネ! や、やめ……」
「その者には今を持って暇をやる! 好きにせよ」
「「マリエール様っ!?」」
リューネと執事から同時に声が上がった。す、好きにせよって、そんな事を言ったらリューネは間違いなく殴るぞ! 執事もそれがわかっているのか顔色が青を通り越して白くなっちゃってる!
「マ、マリエール様っ!? 何故そのような御無体を!? エマは……エマはマリエール様の名誉のために……!」
「貴賤で人を見るなど、お前は私をベロリン王と同じ愚者だと言いたいのか? 貴様のような不忠者は我が家にはいらぬ! リューネ!」
「かしこまりました!」
荒々しい語気と共にリューネは渾身の力で、執事のエマの顔面を殴り飛ばした。文字通り、殴り飛ばされたエマは様々な体液を撒き散らしながら転げ回り、壁に嫌というほど身体を打ちつけて止まった。一応、リューネも手加減はしたみたいで、生きてはいけるけど……これはエグい。
「見事。さて、煩いのがいなくなったので話を戻すが、リューネよ。私からの依頼を受けられない理由はなんだ? それぐらいは教えてくれてもいいだろ?」
いや、サラッと話を続けるんかい! 見て! あっちで人が一人、ぐったりしてますよ! 誰か呼ばなくていいんですか!?
「閣下。私はここにいるセイゴに勝負で負けたのです。私はこれからの生涯、一生セイゴに尽くすと決めました。ですので、依頼をお受けする事ができません。申し訳ありません」
「なに? お前が負けたのか? そうか。掟ならば仕方ないな。お前の事は諦めよう。しかし、逆にセイゴに興味が湧いたぞ?」
「はっ? あの、それはどういう意味でしょうか? 閣下」
「この男は私の圧に耐えた。そして、リューネに勝るのは大した男ではないか。どうだ? セイゴ、私に種を植える気はないか?」
「た、種……?」
「マリエール様! 由緒正しきマリエール家の当主がなんたる事を! それに、だ、駄目です! セイゴは私のモノです!」
な、なんだ? 何の話をしているんだ? 種って、なんか作物とか作る気なのか? 俺には農耕の知識はないぞ? それにリューネはリューネで顔を真っ赤にして必死に拒否してるし、今はどういう状況なんだ? 状況がわからないってのはマジで怖い。
「ケチな事を言う。別に私のモノにしようというわけではない。ただ、たまには変わった種を取り入れてみようという心意気だ」
「駄目です! そのような心意気はおやめくださいませ! ウィダー王家とも関わりのあるマリエール辺境伯家の……」
「ああ、わかったわかった。そう声を荒げるな。仕方ない、そいつの種は諦めよう。卿の恨みは厄介そうだからな」
「マ、マリエール様っ!? お、お戯れを……」
「おいおい、戯れはないだろ? 私は本気だったんだぞ? しかし、あの男嫌いの卿がそんなに必死になるとは、お前心底セイゴに……」
「なっ!? と、とにかく依頼はお受けできません! し、失礼致します!」
一瀉千里。
全く会話についていけないまま話が終わってしまった。とりあえずお咎めも何もないみたいだし、俺もリューネに付いて部屋を出ていっていいよな?
「で、では、私もこれにて失礼を……」
「待て、セイゴ。卿に話がある」
「えっ? わ、私にでございますか?」
「ああ、そうだ。リューネを倒したという卿に興味があるのだ」
うっ……どうしよう。リューネは部屋を出て行っちゃったし、これはどうすればいいんだ?
「そう身構えるな。何もとって食いはせぬ。種はちと残念だったがな。それより卿目的を知りたいのだ」
「目的ですか?」
「そうだ。リューネを従え、この先は何とする? この国で男が成り上がるのは並大抵の事ではないぞ?」
「いえ、成り上がりには興味がありません」
「では、何のために生きる? 望むなら我が家の一員として生きる事も認めてやらなくもないぞ?」
貴族の一員か。そうなれば安定した生活は出来るだろうな。でも、それはきっと前と同じ人生だろうな。誰かに言われた事をして、毎日を淡々と生きる。それだけの人生。幸せなのかもしれない。それが当たり前なのかもしれない。だけど、やっぱり俺は冒険がしたい。ワクワクするような生き方をしたい。前からそう思っていた。そして、いつも諦めていた。でも、今は違う!
「閣下、申し訳ありません。俺は生きたいように生きたいのです。誰かのためじゃなく、誰かのせいでもなく、ただ自分のために。そして、生きたいように生きたら、後は野垂れ死ぬ。それが俺の目的です」
閣下が俺の眼をジッと見ている。何となく羨ましそうに見えたけど、きっと気のせいだよな。
「生きたいように生きて野垂れ死ぬ、か。なるほど。リューネが見初めただけの事はある。参ったな。やはり種が欲しくなってきたぞ。どうだ? リューネのいない間に私に……」
「マリエール様!」
扉を蹴破る勢いでリューネが部屋に戻ってきた。君、失礼のないようにって言ってなかったっけ?
「リューネ。仮にも辺境伯の部屋にその入り方はないだろ? 周りが煩いから気をつけよ」
「し、失礼しました! でも、セイゴはダメです! たとえマリエール様でも!」
「わかったわかった! セイゴよ、リューネの事を頼む。優秀な奴なんだが、直情的なところがあるんでな。手綱はしっかりと持っておれ。それと浮気は控えた方がいいぞ。リューネは怒ると怖いからな」
「マリエール様!」
う、浮気って……別に俺達は付き合ってるわけじゃないんですけど。まぁ、怒らせるのはやめておこう。今もピクリとも動かないあの執事みたいになりたくはないからね。
リューネは正に鬼のような形相で執事の胸ぐらを思いっきり掴んでいた。そ、そんな事をして大丈夫なのか? 仮にも辺境伯の家人だろ? 下手をすれば不敬罪になる可能性も……や、やばくないか?
「き、貴様……何のつもりだ! 無礼者め! この汚らしい手を離しなさい!」
執事は顔面蒼白になりながらもリューネに対して罵声をあげていた。リューネは何も喋らない。ど、どうしたらいいんだ?
「リューネ」
げっ! 辺境伯の綺麗な眉間にも皺ができてるぞ! は、早く止めないと……っ!?
「リュ、リューネ! や、やめ……」
「その者には今を持って暇をやる! 好きにせよ」
「「マリエール様っ!?」」
リューネと執事から同時に声が上がった。す、好きにせよって、そんな事を言ったらリューネは間違いなく殴るぞ! 執事もそれがわかっているのか顔色が青を通り越して白くなっちゃってる!
「マ、マリエール様っ!? 何故そのような御無体を!? エマは……エマはマリエール様の名誉のために……!」
「貴賤で人を見るなど、お前は私をベロリン王と同じ愚者だと言いたいのか? 貴様のような不忠者は我が家にはいらぬ! リューネ!」
「かしこまりました!」
荒々しい語気と共にリューネは渾身の力で、執事のエマの顔面を殴り飛ばした。文字通り、殴り飛ばされたエマは様々な体液を撒き散らしながら転げ回り、壁に嫌というほど身体を打ちつけて止まった。一応、リューネも手加減はしたみたいで、生きてはいけるけど……これはエグい。
「見事。さて、煩いのがいなくなったので話を戻すが、リューネよ。私からの依頼を受けられない理由はなんだ? それぐらいは教えてくれてもいいだろ?」
いや、サラッと話を続けるんかい! 見て! あっちで人が一人、ぐったりしてますよ! 誰か呼ばなくていいんですか!?
「閣下。私はここにいるセイゴに勝負で負けたのです。私はこれからの生涯、一生セイゴに尽くすと決めました。ですので、依頼をお受けする事ができません。申し訳ありません」
「なに? お前が負けたのか? そうか。掟ならば仕方ないな。お前の事は諦めよう。しかし、逆にセイゴに興味が湧いたぞ?」
「はっ? あの、それはどういう意味でしょうか? 閣下」
「この男は私の圧に耐えた。そして、リューネに勝るのは大した男ではないか。どうだ? セイゴ、私に種を植える気はないか?」
「た、種……?」
「マリエール様! 由緒正しきマリエール家の当主がなんたる事を! それに、だ、駄目です! セイゴは私のモノです!」
な、なんだ? 何の話をしているんだ? 種って、なんか作物とか作る気なのか? 俺には農耕の知識はないぞ? それにリューネはリューネで顔を真っ赤にして必死に拒否してるし、今はどういう状況なんだ? 状況がわからないってのはマジで怖い。
「ケチな事を言う。別に私のモノにしようというわけではない。ただ、たまには変わった種を取り入れてみようという心意気だ」
「駄目です! そのような心意気はおやめくださいませ! ウィダー王家とも関わりのあるマリエール辺境伯家の……」
「ああ、わかったわかった。そう声を荒げるな。仕方ない、そいつの種は諦めよう。卿の恨みは厄介そうだからな」
「マ、マリエール様っ!? お、お戯れを……」
「おいおい、戯れはないだろ? 私は本気だったんだぞ? しかし、あの男嫌いの卿がそんなに必死になるとは、お前心底セイゴに……」
「なっ!? と、とにかく依頼はお受けできません! し、失礼致します!」
一瀉千里。
全く会話についていけないまま話が終わってしまった。とりあえずお咎めも何もないみたいだし、俺もリューネに付いて部屋を出ていっていいよな?
「で、では、私もこれにて失礼を……」
「待て、セイゴ。卿に話がある」
「えっ? わ、私にでございますか?」
「ああ、そうだ。リューネを倒したという卿に興味があるのだ」
うっ……どうしよう。リューネは部屋を出て行っちゃったし、これはどうすればいいんだ?
「そう身構えるな。何もとって食いはせぬ。種はちと残念だったがな。それより卿目的を知りたいのだ」
「目的ですか?」
「そうだ。リューネを従え、この先は何とする? この国で男が成り上がるのは並大抵の事ではないぞ?」
「いえ、成り上がりには興味がありません」
「では、何のために生きる? 望むなら我が家の一員として生きる事も認めてやらなくもないぞ?」
貴族の一員か。そうなれば安定した生活は出来るだろうな。でも、それはきっと前と同じ人生だろうな。誰かに言われた事をして、毎日を淡々と生きる。それだけの人生。幸せなのかもしれない。それが当たり前なのかもしれない。だけど、やっぱり俺は冒険がしたい。ワクワクするような生き方をしたい。前からそう思っていた。そして、いつも諦めていた。でも、今は違う!
「閣下、申し訳ありません。俺は生きたいように生きたいのです。誰かのためじゃなく、誰かのせいでもなく、ただ自分のために。そして、生きたいように生きたら、後は野垂れ死ぬ。それが俺の目的です」
閣下が俺の眼をジッと見ている。何となく羨ましそうに見えたけど、きっと気のせいだよな。
「生きたいように生きて野垂れ死ぬ、か。なるほど。リューネが見初めただけの事はある。参ったな。やはり種が欲しくなってきたぞ。どうだ? リューネのいない間に私に……」
「マリエール様!」
扉を蹴破る勢いでリューネが部屋に戻ってきた。君、失礼のないようにって言ってなかったっけ?
「リューネ。仮にも辺境伯の部屋にその入り方はないだろ? 周りが煩いから気をつけよ」
「し、失礼しました! でも、セイゴはダメです! たとえマリエール様でも!」
「わかったわかった! セイゴよ、リューネの事を頼む。優秀な奴なんだが、直情的なところがあるんでな。手綱はしっかりと持っておれ。それと浮気は控えた方がいいぞ。リューネは怒ると怖いからな」
「マリエール様!」
う、浮気って……別に俺達は付き合ってるわけじゃないんですけど。まぁ、怒らせるのはやめておこう。今もピクリとも動かないあの執事みたいになりたくはないからね。
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