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一章 ベロリン王国編

迫る足音

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 少ない。なんだ、この貧相で微々たる食事は。これが王の中の王である儂の正餐せいさんか。卓の所々に隙間が垣間見えるではないか。この者共は儂を愚弄しておるのか?

「陛下。本日のメニューは……」

「よもや、これで全てではなかろうな?」

「は……いえ、それがその……」

 料理長に確認をとると、額に汗を浮かべながら知性の乏しさをひけらかすが如く狼狽しおったわ。情けない事よ。

「料理長。料理などという雑務しか出来ぬとはいえ、もう少し教養を持つべきではないか?」

「も、申し訳……ございません」

「他国であればその低脳は極刑に値しようが、儂は寛容である。次からはテーブルを埋め尽くす程に皿を持て。王が貧相な食事をしているとなれば、嘲笑の的になる。わかったか?」

「……かしこまりました」

 やれやれ、すぐに返事も出来ぬとは無能の極み。おまけに料理の腕も……この程度か。使えんな。近々こいつも放逐せねばならないな。放逐と言えばあの今年のハズレはどうなったか?

「誰か大臣を呼べ」

「はっ!」

 騎士を走らせると、大臣は直ぐにやって来た。王の時間を慮っての行動、見事である。

「お呼びでしょうか、陛下」

「うむ。今年のハズレはどうなったか?」

「これはなんとお優しい事か。あのようなハズレにまでお気を留められるとは、名君の中の名君! いえ、失言でした。陛下以外に名君などおりませんでしたね。どうかお許しを」

 よくわかっておる。確かにこの世に儂以上の王はおらん。つまり、儂こそが絶対の王なのだ。それに気づいただけでも恩赦に値しよう。

「うむ。失敗は誰にでもある。許そう」

「有り難き御言葉。この御恩は陛下への忠義にて返させていただきます」

「うむ。それで、今年のハズレはどうしたのだ?」

「例年通りでございます。他国にハズレであった事を隠すため、衣服や持ち物は没収し、着替えさせて僅かな路銀を持たせて放逐致しました」

 ならば問題ない。異世界人の召喚は諸刃の剣だ。召喚してやった異世界人の持つ特殊能力タレントが当たりであれば敵対国に対する圧力となるが、ハズレの場合は増長させる危険性がある。よって、ハズレの場合は速やかに排除せねばならん。

「して、何処に放逐した?」

「デロリンに近い開拓村の辺りに捨てるよう命じました」

「なに? デロリンだと? あそこはウィダーに近い場所ではないか。他国に逃げられれば厄介だぞ」

「問題ありません。その開拓村がある森には人を喰らう狼がおりましてな。今頃は餌食なっているかと」

「そうか。それならば良い。しかし、よくあのような辺境の森の事まで知っておったな」

「村から討伐の陳情があったのを思い出しまして。これは使えるかと愚考した次第です」

「良い。だが、どうせ殺すのであればこの城で処刑すれば良いのではないか?」

「さすがは聡明な王。そこに気づかれるとは流石でございます。しかし、異世界人共は何と言いますか、仲間意識が強いものですぐに処刑したとなると、前線にいる異世界人共が不届な事を考えるやもしれません。ですので、自由にしてやった体裁を繕ってやっているのでございます」

 愚かな。仲間意識など何の役にも立たん。せっかく儂の役に立つ栄誉を与えるために喚んでやったと言うのに、不敬の極み。此度のマルタンとの戦が終わったら、その者達の再教育も考えねばならんな。

「王よ。質問をしても良いでしょうか?」

「許す」

「有り難き幸せにございます。ウィダーとの開戦ですが、時期はいつ頃をお考えかと」

「おお、それか。うむ、そうだな。次の10日にしよう」

「となると25日後ですね。浅学非才の我が身にその真意をお教え願えますかな?」

「南の離宮が出来てちょうど三年になる日だ」

「畏まりました。では、すぐに準備を整えてまいります」

 ウィダー相手にそこまで準備など必要ないと思うがな。まぁ何事も慎重に行動すべきである。さて、食事はもう良いか。

「おい、そこの。妃を寝屋に呼んだおけ」

「はっ! 今日はどなた様を?」

 そうだな。今宵はウィダーとの開戦前の景気つけに下位の妃で思う存分に楽しんでやるとするか。

「16番目と21番目、23番目だ」

「はっ! して、残された料理については?」

「捨ておけ。それと新たな料理長の選別をせよ。決まり次第、今の料理長を放逐だ」

「畏まりました!」

 うむ。あの騎士は素直でなかなかに見どころがあるな。走っていく背も様になっておるし、顔もなかなかだ。今度寝屋に呼んでみるか。具合がよければ、近衛に配属させてやるとしよう。

「マルタンとウィダー。この両国を落とし、そのままの勢いで中央諸国全てを平らげてくれるわ。そして、大陸の両端で二大国と呼ばれ、栄華を貪っているだけのガイレム、リュゼラレーンすらも支配してくれる。儂こそがこの世界に唯一の王であるからな。ふははははははっ!」
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