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第一章

リザードマン 中編

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 俺にしては高い買い物だったんだけど、あのシチュー以外に作り置きはないから仕方ないな。
 【保存】の箱の中から取り出したソレは、なんとも美味そうな見た目と匂いをしていた。
 この浸かっている汁だけでも飯が食えそうだ。
 思わず生唾を飲み込んでしまう。

「まぁ、3キロもあるんだから大丈夫だろう」

 肉の塊を縛る紐を解いてから、リザードマンのジョルダンのところに持っていくと、ちょうどシチューを食い尽くしたところだった。
 あのシチュー、5人分くらいあったはずなんだけどなぁ。

「うがぁああ。あっ? それは何だ?」

豚鬼オーク肉の焼豚だよ。まだ、腹に余裕があるなら食べるか?」

 テーブルに置いた焼豚を、リザードマンは元から大きな目を更に見開いてじっと見ている。

「豚鬼の焼豚? 食べた事のない料理だ! もちろんいただく!」

「なら、切り分けて……」

「美味ぇええええ!」

 はっ? 何で、もう食べてるの?
 げっ! こいつ、切らずに塊のまま食べてやがる!

「なんと柔らかくジューシーな肉なんだ! 焼いた豚鬼肉は固く、パサつくというのに、しっとりとしていて、噛むたびに旨味と肉汁が溢れ出してくる! それに、この甘く深い味わいはなんだっ!? 豚鬼の臭みも全くない! こんな料理は食べた事がないぞ!」

 おいおい……あれ、一個で500グラムはあるんだぞ。
 それを一口で食べやがった。
 しかも、二個、三個と次々に……こいつ、さっきシチュー5人前食べたよな?

「あああっ! 美味え! こんなに美味い豚鬼肉は初めてだ! あいつら、こんなに美味かったのか! 今度、集落ごと根絶やしにしてやらねばならんな!」

 肉を食いながら物騒な言葉を発すな!
 疎通の図れる種族じゃないけど、根絶は生態系を狂わせるから駄目です!
 それにしても、よく食うなぁ。
 ハッ! しまった!
 焼豚はここにあるので全部だ!
 つまり、この皿が空になったら……

「くはぁ! 美味い! 最後まで美味かったぞ!」

「あぁぁ……か、空になってる……お、俺の焼豚が……」

 テーブルにポツンと空になった皿だけが残されている。
 空虚だ……なんて虚しいんだ……
 お腹は減ってないけど、ひもじい気持ちでいっぱいだよ……

「むっ? どうかしたのか?」

「なんでもないよ……お腹いっぱいになってなによりだね」

「いや、まだ半分といったところだが、まだ何かないか?」

 このやろう!
 なんて嫌味の返し方してきやがるんだ!
 お前には赤い血が流れてるのか!?
 いや、リザードマンの血の色は知らんけど!

「もう何もないよ! だから……」

「そうか、わかった。では、待っているから頼む」

 はっ? 待ってる?
 何を言ってるんだ? 意味がわからなくて、固まっちまったぞ?

「次の料理が出来るまで待つ。さっきの料理で少しは待てそうだからな」
 
「え? いや、いやいや……そんな事言っても、食材が……」

「食材が無いのか? ならば、俺が獲ってこよう。少し待っていろ」

 そう言うと、三叉槍を担いでリザードマンは出て行った。
 どういうこと? えっ? な、何でこうなった?
 飯を食ったんだから、このまま街に行けばよくないか?
 何で獲物を獲ってきてまで、まだ此処で食べようとするんだよ?
 
「それに道に迷って餓死しかけてた奴が、また此処に戻って来れるのか? また餓死しかけるとか、勘弁して欲しいんだけど」

「うむ! 戻ったぞ!」

 はっや! めっちゃ早いやん!
 獲物が獲れなかったのかと思ったら、しっかり肩に担いで持ってきてるし!
 
栗丸猪くりまるいのしし山花大鳥さんかおおとり、この短時間でよく捕まえたな」

「簡単なことだ。それより、こいつで何か作ってくれ」

 そんなドヤった顔されても、此処は飯屋じゃないからね?
 面倒だなぁ。
 もう山道に迷わないみたいだし、ツヴァイの場所を教えて帰ってもらおうかな。

「あのさ、この道を下っていけば……」

「そう言えば、代金を払っていなかったな! うむ、さっきの料理であればこれぐらい出しても構わないぞ!」

 いや、急に金を出されても……えっ!?

「き、金貨……」

「うむ! さっきの料理は空腹を抜きにしても果てしなく美味かったからな! 王都の一流料理屋にも引けはとらん料理だった! だから、これぐらいは全然構わんぞ!」

 金貨は1枚、日本円で約10万だぞ?
 さっきのシチューと焼豚3キロで10万って……豚鬼肉が高いといっても、1キロ1万くらいだから……ボ、ボロ儲け過ぎるだろ。

「だが、次の料理の事を考えると、それだけでは足りないな。いいだろう、金貨をもう1枚出そう!」

「き、金貨をもう1枚っ!?」

 食材持ち込みで金貨2枚って……これだけあれば俺だけのために豚鬼肉も、上朱鶏じょうしゅどりも、色んな食材がたくさん買える。
 それに、これは誰にも知られない金だ。
 大金を持っていると狙われるリスクも無い……
 だったらやる事は一つ、だよな?
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