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第一章

元気な人間娘③

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 冒険者ギルドに戻った俺の姿を見て、溢れんばかりの笑顔を見せたのはミューさんだった。
 そんな顔するから、冒険者達からの食事の誘いがなくならないんだよ。

「おかえりなさい、リョウさん!」

「ただいま。ローハッツが30㎏入ってる。確認してくれ」

 俺はカウンターの上にどかっと袋を載せると、ミューさんの笑顔は安堵の表情へと変わった。
 大した依頼ではないとはいえ、ローハッツは酒場のおつまみの定番だ。
 つまり、依頼主は酒場の店主達だ。
 普段から荒くれ者の冒険者達の相手をしている店主達は、当然だけど一筋縄でいくような人達じゃない。
 結構な圧をかけられてたんだろう。

「はい。ローハッツ、30㎏。確認できました。本当にありがとうございます。これで依頼主に良い報告ができます」

「それは良かった。だけど、今度からは誰か定期的に受けれくれる人を探した方がいいよ。俺も毎回行けるとは限らないし」

 提案する形で俺は軽く釘を刺しておく。
 毎回俺ばかりを頼りにされても困るからね。
 あくまで今回だけだ。
 俺は普段の仕事の時は依頼のついでに自分で食べる用の素材も採っている。
 だから、毎回同じ依頼を受けてばかりもいられない。
 特にローハッツは一度食べたら止まらないからなぁ。
 あんまり家に置いておきたくない。

「わかっています。ですが、なかなか……素材採取自体が元々受け手が少ないので」

「事情はわかるけどね。でも、その辺りはオルテガともよく話しておいた方がいいよ。じゃ、俺はこれで」

 俺は報酬を受け取ると、頭を下げるミューさんに手を振ってギルドを出た。
 さて、これからどうしよう。
 本当なら今日は別の素材を採りに行く予定だったからなぁ。
 それがローハッツのせいで予定が狂ってしまった。
 今から採りに行くには時間がないし、今日の晩飯はどうしよう。
 大市の準備で今日は市も早仕舞してるから、魚は塩漬けの物以外は手に入らないだろうし、家に何か作り置きあったっけ?

「この前、良いツヴァイ地鶏が手に入ったから鶏の照り焼きを作ったのが……あっ、昨日ガンテスとヨハンが来て、全部食べていったな。そうそう、前に貰った豚鬼オーク肉で豚鬼肉丼を作ったん……あぁ……3日前にジョルダンが炊いておいた米ごと全部食っていったんだ。あっ! 前に市で珍しい大目出おおめでって鯛に似た魚を買って塩釜焼きにしておいたんだ! あれなら……5日前にオルテガとハウデルが食って帰ったな」

 自分で言ってて泣きたくなった。
 そうだ。
 作り置きが全て食われてしまったから、今日は色々採って帰って、なんか作ろうと思ってたんだ。
 なのに、今日は依頼とは別に採っておいたローハッツの実しかない。

「はぁ……もういいや。色々買うのは明日にして、今日はもう帰ろ」

 そう思って、【跳躍】のために路地裏に入ると、奥から声が聞こえてきた。
 こんな所に誰かいるのか?
 【跳躍】を見られたら困るから、一応確認しとくか。
 路地裏の奥へコソッと近づいていくと、奥には2人の男が1人の女を壁際に追いやっていた。
 あれは……さっきの女の人じゃないか!
 襲われているのか!?

「お前の依頼通り【水晶の角笛】を持ってきたぜ。さぁ、報酬の大金貨8枚を貰おうじゃねぇか」

「へへへっ、ついでにサービスもしてくれるんだったなぁ? たっぷり楽しませてもらうぜ」

 下卑た男達の顔に反吐が出そうになる。
 まったく、あの手の男はすぐに性欲が暴走しやがる。
 どうにも好きになれないな。
 それにしても【水晶の角笛】って、確か遺失物で捜索の依頼が出ていたはずだ。
 1ヶ月くらい前に商家から盗まれたって、大騒ぎになってた。
 何で奴等がそれを持ってるんだ?

「ありがとう。さすがね。でも、それって本物なの? 偽物なんか嫌よ?」

「安心しな。こいつは本物だよ。この商売は信用が第一だ。偽物掴ませて、捌けなくなったら盗み損だからな」

 こいつらが犯人かっ!?
 何が信用第一だよ! 
 さっさと盗品を捌きたいだけだろうがっ!
 これはすぐにでもハウデルに報告した方がいいんだろうけど、あの女の人が何者なのかも気になるし、襲われたら助けられるかどうかは別にしても、見殺しになんて出来ない。
 もう少し様子を見てからにするか。

「本当かしら。なら、一つ問題ね。その盗んだ商家で殺された人がいたの。誰がどんな死に方だった? 本人ならわかるわよね?」

「へへへっ、簡単だ。死んだのはその家の下働きかなんかのババアだ。俺達を見て、騒ぎやがったからな。めった刺しにしてやったんだよ」

「ついでに死体を部屋に吊るしてやったぜ。見つけた奴がすぐに追ってこれないようにな」

 クソ野郎がっ! なんて惨い事を!
 こいつらは絶対に見逃しちゃいけない奴等だ!
 待ってろよ!
 すぐにハウデルを呼んで……えっ?

「うぎゃあああああ!」

「な、なんだっ!?」

 突然、1人の男が断末魔の叫びを上げた。
 噴水のように空に向かって噴き出す血飛沫、反対にボタボタと地面に傾れ落ちていく臓物。
 男が崩れるようにゆっくり倒れ、女の人が血に濡れた小剣を持っているのが見えた。
 これは一体……

「この外道が。テメェらが殺ったのは、あの家の主人の母親だ。商売で成功した主人が、苦労をかけた母親を呼んで一緒に暮らし始めたところだったんだよ! それをテメェらはっ!」

「ひっ……お、お前だって、これを欲しがったじゃねぇか! だから、俺達はっ!?」

「まだわからねぇのか? それはお前達を釣るための餌だよ。手間が省けたぜ。持ってきた奴と、殺した奴が一緒でな!」

「げぶぁっ!」

 小剣が男の腹を貫く。
 うぇ……しかも、刺したままグリグリと捻ってるよ。
 あれは痛い。
 だって、捻られる度に男の身体がビクンビクンと跳ねているからな。
 絶対にやられたくないね。
 やがて、ジタバタと動いていた男が動かなくなると、女の人はゆっくり小剣を抜いた。
 力なく倒れる男は完全に死んでいる。
 ふぅ、とんでもない物を見てしまった。
 さて、どうしようかな?

「見たな?」

 ちょっと目を離した間に、血塗られた小剣を持った女の人が俺の後ろに立っていた。
 あっ、これはヤバいかも。
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