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第一章
エルフと男の娘とカミさん④
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チーズインオムライスのビーフシチューがけ。
オムライスにビーフシチューをかけただけなんだけど、オムライスもビーフシチューも無い異世界じゃ珍しいんだろうな。
ヴァイオレットもカイも、カミさんでさえ驚いてくれて、ちょっと嬉しい。
「艶やかな黄色のオムライスに、趣深い褐色のビーフシチューのコントラスト……美しい! そして、この芳しく食欲をかき立てる香り! これは堪らないよ!」
「お、美味しそう……そういえば私、昼から何も食べてなかったんだ。それなのに、こんなの目の前に出されちゃったら、もう我慢できないよぉ!」
「み、見たことない料理なのに美味しいってわかる! こんなの絶対美味しいに違いない! だ、誰が食べるの!? この一皿!」
いかん、3人とも目がヤバい……あれじゃあ、最初の一皿を取り合って戦いかねないぞ。
間違いなくカミさんが勝つだろうけど、家の中で暴れられるのは御免だ。
さっさと残りの3人分を作っちゃおっと。
チーズ入りの薄焼き卵を焼いて、ケチャップライスに乗せてから、ビーフシチューをかけていく。
俺のだけ少しお肉多めに……
「ちゃんと平等にしないと、本当に皿の奪い合いになるよ?」
ギクっ!
おのれ、カミさんめ。
こんな時まで心の中を読みやがって……
わかったよ、ちゃんと具も平等になるようにするよ!
「ほい。人数分のチーズインオムライスのビーフシチューがけだ。さぁ、運んで運んで」
みんなが自分の皿を持って、テーブルに運んでいったけど、飲み物はどうしよう?
流石に水ってのも味気ない。
ビーフシチューに合うのは赤ワインだけど、さっきかなり使っちゃったから残りが少ないしなぁ。
となると、【蒸留】で作ったアレを出すしかないか。
本当は秘蔵しときたかったんだけど。
「あああっ! リョウちゃん! それって、もしかしてっ!?」
「そうだよ。ワインの蒸留酒、特製ブランデーだよ」
「ぃやったぁあああああ! リョウちゃん大好き! 私の大好きなお酒まで出してくれるなんて! 愛だよね? これはもう愛だよね!?」
ブランデー愛?
そこまで酒が好きなのか?
ヴァイオレットの酒好きにも困ったもんだよ。
「お酒かぁ。僕も飲んでみようかな?」
「わ、私も! 見たことないお酒でちょっと怖いけど、エルフがこれだけ喜んでるんだもん! 絶対に美味しいはず!」
そういや、長寿であるエルフは美食家が多いって言うからな。
ヴァイオレットの喜びように恐怖心より好奇心が勝ったと見える。
「じゃあ、グラスにブランデーを注ぎ終わったところで、皆んなで食べよう。リョウ、いつもの号令を」
「号令ではないんだけど……まぁ、いいか。では、手を合わせて、いただきます」
「「いただきます!」」
「い、頂き……増す?」
『いただきます』を知らなかったカイは戸惑っていたけど、カミさんとヴァイオレットがスプーンを忙しく口に運んでいるのを見て、負けじと食べ始めた。
そして、三人の顔に満面の笑みが浮かび上がる。
「ああ、美味い! なんて美味しさだ! このチーズの濃厚な味が加わったトロッとした卵と、爽やかなと赤いライスが堪らない! そして、このビーフシチューがまた素晴らしいよ!」
「美味っ! お肉の美味しさと野菜の美味しさが一体となって、更に完璧に調和されているわ! こ、こんなの最高に美味に決まってるじゃないのぉ!」
「お、美味しい……美味しすぎる……さっきの揚げ鶏も美味しかったけど、もっと美味しい。特にこのアハト牛。口の中に入れると噛むまでもなく蕩けて、肉の旨みが全身に広がっていくよう……こ、こんなの私、虜になっちゃうよぉ!」
す、すげぇ勢いで食べてくれるなぁ。
美味いならいいんだけど。
俺も食うか。
……うん、美味いっ!
しっかり煮込まれたビーフシチューの濃厚な味わいが、チーズインオムライスと合っている。
そして、このブランデーだ。
赤ワインを使ったビーフシチューに、同じくワインから作られたブランデーが合わないわけが無い。
この幸せの循環が止まらないぞ!
と、思ってる間に三人もオムライスを平らげて、ブランデーを楽しみ始めたようだ。
「へぇ、このブランデーだっけ? 美味しいじゃないか。僕がこれまで飲んだお酒の中で一番美味しいよ」
神様認定の世界一のお酒っ!?
そんな大袈裟な……でも、嬉しいかも。
「……ぷっはぁああああっ! 美味しい! やっぱり、このブランデーは最高だよ! お料理も最高で、お酒も最高! もう私、ここに住んじゃおうかなぁ!」
また酔った勢いでテキトーな事を言ってるよ。
全く酒癖の悪い……ん!?
「うぉい! ヴァイオレット! 何でお前がブランデーの酒瓶を持ってるんだよ!」
いつの間にか俺の前に置いていた酒瓶をヴァイオレットが抱え込んで飲んでいた。
一体どうやって盗ったんだよ!
盗賊もビックリする技術だぞ!?
こいつ、この前もこうやって独り占めして全部飲んだんだ!
早く回収しないと……って、何だ?
カイ? 何で俺の腕を抱きしめてるんだ?
「リョウさぁん? さっきはこぉんなお酒出してくれなかったじゃないのぉ~? こぉんなに美味しいお酒を隠していたなぁんてひどぉいじゃないですかぁ~? い・じ・わ・るですぅ。そんな人にはお仕置きですよぉ~」
「カ、カイ! お前はもう酔ってんのか!? おいっ! やめろ! 服を脱ぐな! 絡みついてくるな! かおに唇を寄せてくるんじゃなぁい!」
カイのやつ、お酒に弱かったのか!
しかも絡み酒とは厄介なっ!
それに妙に色っぽくてヤバい!
とにかく逃げないと……
「うぉらぁああ! この小娘! いや、男だから、えっと……とにかくリョウちゃんから離れろぉおお!」
「ば、ばかっ! ヴァイオレットまで突っ込んで来るんじゃねぇ! もがっ! か、顔に胸が……い、息が……」
「リョウちゃんは私のものぉおお! 絶対渡さないんだからぁああ!」
「リョウさぁん、私といっしょに新しい扉を開きましょぉおおお」
ぐはっ!
後ろから抱きつかれて、しかもなんて力だ……せ、背骨が折れる……ミシミシって音が聞こえる……
「あはははっ! リョウって、モテモテなんだね。うんうん、君が楽しそうで僕も嬉しいよ」
なに笑ってんだよっ!
こっちは死にかけ……あっ、意識が……
俺の意識はそのまま深い闇の中へと堕ちていった。
オムライスにビーフシチューをかけただけなんだけど、オムライスもビーフシチューも無い異世界じゃ珍しいんだろうな。
ヴァイオレットもカイも、カミさんでさえ驚いてくれて、ちょっと嬉しい。
「艶やかな黄色のオムライスに、趣深い褐色のビーフシチューのコントラスト……美しい! そして、この芳しく食欲をかき立てる香り! これは堪らないよ!」
「お、美味しそう……そういえば私、昼から何も食べてなかったんだ。それなのに、こんなの目の前に出されちゃったら、もう我慢できないよぉ!」
「み、見たことない料理なのに美味しいってわかる! こんなの絶対美味しいに違いない! だ、誰が食べるの!? この一皿!」
いかん、3人とも目がヤバい……あれじゃあ、最初の一皿を取り合って戦いかねないぞ。
間違いなくカミさんが勝つだろうけど、家の中で暴れられるのは御免だ。
さっさと残りの3人分を作っちゃおっと。
チーズ入りの薄焼き卵を焼いて、ケチャップライスに乗せてから、ビーフシチューをかけていく。
俺のだけ少しお肉多めに……
「ちゃんと平等にしないと、本当に皿の奪い合いになるよ?」
ギクっ!
おのれ、カミさんめ。
こんな時まで心の中を読みやがって……
わかったよ、ちゃんと具も平等になるようにするよ!
「ほい。人数分のチーズインオムライスのビーフシチューがけだ。さぁ、運んで運んで」
みんなが自分の皿を持って、テーブルに運んでいったけど、飲み物はどうしよう?
流石に水ってのも味気ない。
ビーフシチューに合うのは赤ワインだけど、さっきかなり使っちゃったから残りが少ないしなぁ。
となると、【蒸留】で作ったアレを出すしかないか。
本当は秘蔵しときたかったんだけど。
「あああっ! リョウちゃん! それって、もしかしてっ!?」
「そうだよ。ワインの蒸留酒、特製ブランデーだよ」
「ぃやったぁあああああ! リョウちゃん大好き! 私の大好きなお酒まで出してくれるなんて! 愛だよね? これはもう愛だよね!?」
ブランデー愛?
そこまで酒が好きなのか?
ヴァイオレットの酒好きにも困ったもんだよ。
「お酒かぁ。僕も飲んでみようかな?」
「わ、私も! 見たことないお酒でちょっと怖いけど、エルフがこれだけ喜んでるんだもん! 絶対に美味しいはず!」
そういや、長寿であるエルフは美食家が多いって言うからな。
ヴァイオレットの喜びように恐怖心より好奇心が勝ったと見える。
「じゃあ、グラスにブランデーを注ぎ終わったところで、皆んなで食べよう。リョウ、いつもの号令を」
「号令ではないんだけど……まぁ、いいか。では、手を合わせて、いただきます」
「「いただきます!」」
「い、頂き……増す?」
『いただきます』を知らなかったカイは戸惑っていたけど、カミさんとヴァイオレットがスプーンを忙しく口に運んでいるのを見て、負けじと食べ始めた。
そして、三人の顔に満面の笑みが浮かび上がる。
「ああ、美味い! なんて美味しさだ! このチーズの濃厚な味が加わったトロッとした卵と、爽やかなと赤いライスが堪らない! そして、このビーフシチューがまた素晴らしいよ!」
「美味っ! お肉の美味しさと野菜の美味しさが一体となって、更に完璧に調和されているわ! こ、こんなの最高に美味に決まってるじゃないのぉ!」
「お、美味しい……美味しすぎる……さっきの揚げ鶏も美味しかったけど、もっと美味しい。特にこのアハト牛。口の中に入れると噛むまでもなく蕩けて、肉の旨みが全身に広がっていくよう……こ、こんなの私、虜になっちゃうよぉ!」
す、すげぇ勢いで食べてくれるなぁ。
美味いならいいんだけど。
俺も食うか。
……うん、美味いっ!
しっかり煮込まれたビーフシチューの濃厚な味わいが、チーズインオムライスと合っている。
そして、このブランデーだ。
赤ワインを使ったビーフシチューに、同じくワインから作られたブランデーが合わないわけが無い。
この幸せの循環が止まらないぞ!
と、思ってる間に三人もオムライスを平らげて、ブランデーを楽しみ始めたようだ。
「へぇ、このブランデーだっけ? 美味しいじゃないか。僕がこれまで飲んだお酒の中で一番美味しいよ」
神様認定の世界一のお酒っ!?
そんな大袈裟な……でも、嬉しいかも。
「……ぷっはぁああああっ! 美味しい! やっぱり、このブランデーは最高だよ! お料理も最高で、お酒も最高! もう私、ここに住んじゃおうかなぁ!」
また酔った勢いでテキトーな事を言ってるよ。
全く酒癖の悪い……ん!?
「うぉい! ヴァイオレット! 何でお前がブランデーの酒瓶を持ってるんだよ!」
いつの間にか俺の前に置いていた酒瓶をヴァイオレットが抱え込んで飲んでいた。
一体どうやって盗ったんだよ!
盗賊もビックリする技術だぞ!?
こいつ、この前もこうやって独り占めして全部飲んだんだ!
早く回収しないと……って、何だ?
カイ? 何で俺の腕を抱きしめてるんだ?
「リョウさぁん? さっきはこぉんなお酒出してくれなかったじゃないのぉ~? こぉんなに美味しいお酒を隠していたなぁんてひどぉいじゃないですかぁ~? い・じ・わ・るですぅ。そんな人にはお仕置きですよぉ~」
「カ、カイ! お前はもう酔ってんのか!? おいっ! やめろ! 服を脱ぐな! 絡みついてくるな! かおに唇を寄せてくるんじゃなぁい!」
カイのやつ、お酒に弱かったのか!
しかも絡み酒とは厄介なっ!
それに妙に色っぽくてヤバい!
とにかく逃げないと……
「うぉらぁああ! この小娘! いや、男だから、えっと……とにかくリョウちゃんから離れろぉおお!」
「ば、ばかっ! ヴァイオレットまで突っ込んで来るんじゃねぇ! もがっ! か、顔に胸が……い、息が……」
「リョウちゃんは私のものぉおお! 絶対渡さないんだからぁああ!」
「リョウさぁん、私といっしょに新しい扉を開きましょぉおおお」
ぐはっ!
後ろから抱きつかれて、しかもなんて力だ……せ、背骨が折れる……ミシミシって音が聞こえる……
「あはははっ! リョウって、モテモテなんだね。うんうん、君が楽しそうで僕も嬉しいよ」
なに笑ってんだよっ!
こっちは死にかけ……あっ、意識が……
俺の意識はそのまま深い闇の中へと堕ちていった。
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