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第一章
エルフと男の娘とカミさん⑤
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「やぁ、良いお目覚めかな?」
「……寝起きにイケメンの笑顔なんて、俺にはとても良いお目覚めとは思えないです」
キラキラと後光が差すかのような最強の笑顔で俺を見下ろすカミさん。
これを世の女性達にすれば、大抵はイチコロだったろう。
そして、俺には一生かかっても出来ない芸当だ。
……そう思うと怒りさえ覚える。
まぁ、今更どうなりたいと思わないけど。
それにしても、押し倒されるとは思わなかったな。
酔った勢いってのは本当に怖いもんだよ。
「あの二人はどうしました?」
「あの二人なら、隣の部屋のベットに寝かせてあるよ。そういえば、君は一人暮らしなのに、何で二つベットがあるんだい?」
カミさんが不思議そうに聞いてきた。
確かに俺の家にはベットが二つある。
誰かといい事をしたいからってわけじゃない。
やむに止まれない事情があるのだ。
「たまに勝手に家に来て、飯を食った挙句に泥酔して帰らない奴がいるからです」
「えっ? じゃあ君は、招かれざる迷惑な奴のために、わざわざベットを用意してあげてるのかい?」
「そういう言い方は……まぁ、そうですけど。だって、放り出すわけにも、床に寝かせとくわけにもいかないじゃないですか」
「ぷっ! あはははははっ! なるほど! 本当に君らしい理由だ。納得いったよ! それにしても君は本当に面白い人間だ。つくづく君で良かったと思うよ」
流石に面白いって言われるのはカチンとくるな。
わかってるよ。
自分が底なしにお人好しなのは、自分でも時々虚しくなるくらいだ。
「悪かったな」
「別に悪くないさ。むしろ慈悲深いと思うよ。良く言えばだけどね」
「それは、どういう意味ですか?」
一瞬、カミさんの顔からいつもの笑顔が消えたのがわかった。
あんな真顔、というか無表情な顔を見たのは初めてだ。
「僕はね、君が大事なんだよ」
「オムライスを作れるのが俺だけだからですか?」
「それもあるよ。否定はしない。でも、本当の理由は別にある。僕の都合で異世界から転移させた君には、この世界で幸せになってもらいたいんだよ」
「だから、そのために色々な能力をくれたんですよね?」
「そうだよ。だけど、君は僕の予想を遥かに超えた人間だった。まさか、【自己防衛】がこんな形で起動するとはね」
自己防衛? なんだそれは?
そんな能力はもらってないと思うんだけど。
「能力【自己防衛】は、君の身体に危険が及んだ時だけ発動する能力なんだ。瞬間的に身体機能が極限まで向上して、無意識に障害を排除するんだよ」
「無意識って……あっ! 急に頭の中で何かが弾けたと思って、気がついた時にはすごい事になってた、アレ!? やっぱりカミさんのせいだったのかっ!?」
「そうだよ。君の身体機能はかなり向上させたけど、戦闘能力は皆無だ。本当の強者と対峙すれば勝ち目も、逃げる事もできない。だから、君の身を守るために僕は君に【自己防衛】を与えたんだ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 確かに身に覚えはあるんですけど、でも発動した条件が違いませんか? だって、さっきは……」
「そう。そこなんだよ。だから面白いって言ったのさ。【自己防衛】は君が危ないと感じた時に発動する。なのに、あの二人が争った時に発動した。それが何を意味するか。わかるかい?」
「えっと……巻き添えをくうかもと思った?」
「違うよ。君は二人が傷つく事と自分が傷つく事が同義だと思ってるって事さ。こんな事は初めてだよ」
「そ、そこまで俺はお人好しじゃ……」
「お人好しだよ、君は」
は、はっきり言われた。
いくら何でもそこまでとは思ってない。
俺が一人で過ごしたいと思ってるのは、紛れもなく本音だ。
それだけ日本にいた時に受けた傷は深い。
今だってその傷は癒えてはいない。
ふとした時に時々思い出して辛くなるんだから。
「君は一人になりたいんじゃないよ」
「えっ?」
「一人になりたくない。本当は誰かと一緒にいたい。そうだろ?」
「ち、違う! 俺は、俺は本当に一人に……っ!」
一人……一人でいたい。
一人なら、誰とも関わらないなら……
「傷つかなくていい。そんなとこだろ?」
「くっ……俺は……俺は……っ!」
「君は一人でいたいわけじゃない。誰かに裏切られるのが怖いんだ。一人が好きなわけじゃない。他者が嫌いなわけでもない。ただ、信じて裏切られるのが耐えられないんだ」
カミさんの言葉がグサッと刺さる。
心の底の底にあった俺の本心が曝け出される。
でも、嫌な気分にはならない。
いつかはバレるとわかっていたから。
「わかってます。来るなとか、帰れとか言っても結局誰かが来るのが嬉しかった。来て一緒に食事をするのも楽しかった。楽しんでもらえるように準備もしていた。でも、でも……」
「……でも?」
「怖かった! また裏切られるんじゃないかって! 良いように使われてるだけって言われてしまうんじゃないかって! だから、いつそうやって言われても良いように、毎日毎日自分には一人がいいって言い聞かせてた! それなら、いつ裏切られても傷が少なくて済むから……」
情けない告白だ。
心底自分を軽蔑する。
みんなに……申し訳ない。
ちくしょう、何で俺はこんな浅ましいんだよ!
「……寝起きにイケメンの笑顔なんて、俺にはとても良いお目覚めとは思えないです」
キラキラと後光が差すかのような最強の笑顔で俺を見下ろすカミさん。
これを世の女性達にすれば、大抵はイチコロだったろう。
そして、俺には一生かかっても出来ない芸当だ。
……そう思うと怒りさえ覚える。
まぁ、今更どうなりたいと思わないけど。
それにしても、押し倒されるとは思わなかったな。
酔った勢いってのは本当に怖いもんだよ。
「あの二人はどうしました?」
「あの二人なら、隣の部屋のベットに寝かせてあるよ。そういえば、君は一人暮らしなのに、何で二つベットがあるんだい?」
カミさんが不思議そうに聞いてきた。
確かに俺の家にはベットが二つある。
誰かといい事をしたいからってわけじゃない。
やむに止まれない事情があるのだ。
「たまに勝手に家に来て、飯を食った挙句に泥酔して帰らない奴がいるからです」
「えっ? じゃあ君は、招かれざる迷惑な奴のために、わざわざベットを用意してあげてるのかい?」
「そういう言い方は……まぁ、そうですけど。だって、放り出すわけにも、床に寝かせとくわけにもいかないじゃないですか」
「ぷっ! あはははははっ! なるほど! 本当に君らしい理由だ。納得いったよ! それにしても君は本当に面白い人間だ。つくづく君で良かったと思うよ」
流石に面白いって言われるのはカチンとくるな。
わかってるよ。
自分が底なしにお人好しなのは、自分でも時々虚しくなるくらいだ。
「悪かったな」
「別に悪くないさ。むしろ慈悲深いと思うよ。良く言えばだけどね」
「それは、どういう意味ですか?」
一瞬、カミさんの顔からいつもの笑顔が消えたのがわかった。
あんな真顔、というか無表情な顔を見たのは初めてだ。
「僕はね、君が大事なんだよ」
「オムライスを作れるのが俺だけだからですか?」
「それもあるよ。否定はしない。でも、本当の理由は別にある。僕の都合で異世界から転移させた君には、この世界で幸せになってもらいたいんだよ」
「だから、そのために色々な能力をくれたんですよね?」
「そうだよ。だけど、君は僕の予想を遥かに超えた人間だった。まさか、【自己防衛】がこんな形で起動するとはね」
自己防衛? なんだそれは?
そんな能力はもらってないと思うんだけど。
「能力【自己防衛】は、君の身体に危険が及んだ時だけ発動する能力なんだ。瞬間的に身体機能が極限まで向上して、無意識に障害を排除するんだよ」
「無意識って……あっ! 急に頭の中で何かが弾けたと思って、気がついた時にはすごい事になってた、アレ!? やっぱりカミさんのせいだったのかっ!?」
「そうだよ。君の身体機能はかなり向上させたけど、戦闘能力は皆無だ。本当の強者と対峙すれば勝ち目も、逃げる事もできない。だから、君の身を守るために僕は君に【自己防衛】を与えたんだ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 確かに身に覚えはあるんですけど、でも発動した条件が違いませんか? だって、さっきは……」
「そう。そこなんだよ。だから面白いって言ったのさ。【自己防衛】は君が危ないと感じた時に発動する。なのに、あの二人が争った時に発動した。それが何を意味するか。わかるかい?」
「えっと……巻き添えをくうかもと思った?」
「違うよ。君は二人が傷つく事と自分が傷つく事が同義だと思ってるって事さ。こんな事は初めてだよ」
「そ、そこまで俺はお人好しじゃ……」
「お人好しだよ、君は」
は、はっきり言われた。
いくら何でもそこまでとは思ってない。
俺が一人で過ごしたいと思ってるのは、紛れもなく本音だ。
それだけ日本にいた時に受けた傷は深い。
今だってその傷は癒えてはいない。
ふとした時に時々思い出して辛くなるんだから。
「君は一人になりたいんじゃないよ」
「えっ?」
「一人になりたくない。本当は誰かと一緒にいたい。そうだろ?」
「ち、違う! 俺は、俺は本当に一人に……っ!」
一人……一人でいたい。
一人なら、誰とも関わらないなら……
「傷つかなくていい。そんなとこだろ?」
「くっ……俺は……俺は……っ!」
「君は一人でいたいわけじゃない。誰かに裏切られるのが怖いんだ。一人が好きなわけじゃない。他者が嫌いなわけでもない。ただ、信じて裏切られるのが耐えられないんだ」
カミさんの言葉がグサッと刺さる。
心の底の底にあった俺の本心が曝け出される。
でも、嫌な気分にはならない。
いつかはバレるとわかっていたから。
「わかってます。来るなとか、帰れとか言っても結局誰かが来るのが嬉しかった。来て一緒に食事をするのも楽しかった。楽しんでもらえるように準備もしていた。でも、でも……」
「……でも?」
「怖かった! また裏切られるんじゃないかって! 良いように使われてるだけって言われてしまうんじゃないかって! だから、いつそうやって言われても良いように、毎日毎日自分には一人がいいって言い聞かせてた! それなら、いつ裏切られても傷が少なくて済むから……」
情けない告白だ。
心底自分を軽蔑する。
みんなに……申し訳ない。
ちくしょう、何で俺はこんな浅ましいんだよ!
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