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第二章

討伐隊と超魔物⑥

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 女性に対して真摯で紳士なフォルニゲシュには好感が持てる。
 少なくとも粗野で欲望しかない魔物ではないのは間違いない。

「すまない。失言だった」

「うむ、分かれば良い」

 王というだけあって、器が広いのかフォルニゲシュはすぐに怒りをおさめてくれた。
 こういうさっぱりしたところが更に大物って感じがするな。
 今だって葉巻を咥えて火を付ける姿がサマになって……って、葉巻!?
 龍種って葉巻なんか吸うの!?
 さっきの女性に対する見識といい、なんか俗っぽいというか人間っぽい龍種だなぁ。
 待てよ。
 だったら、アレにも興味持つかも。
 気に入ってもらえればこの場を無事に切り抜けれらる可能性も高くなる!
 やってみるさ!

「本当にすまなかった。お詫びと言ってはなんだけど、お酒はどうかな?」

「むっ……酒か。我はエールは好まんぞ? ワインであれば貰おう」

 選り好みするなんて益々人間っぽい。
 だけど、それは味がわかるって事だからな。
 こっちにすれば好都合だ。

「ワインもあるけど、ブランデーはどうだ?」

「ブランデー? 聞いたことのない酒だな。面白い。話の種に呑んでやろう」

 俺は【収納】からブランデーとグラスを取り出し、ブランデーを注いでからフォルニゲシュに渡した。
 初めて見る酒に興味津々のようだ。
 
「琥珀の美しい色に芳醇な香り、このように気品が漂う酒は初めてだ。どれ、味はどうかな?」

 フォルニゲシュは器用に尖った口先でグラスからブランデーを口に含んだ。
 そして口をモゴモゴするように動かしながら静かに目を閉じたまま動かない。
 気に入らなかったか?
 そう思った時、フォルニゲシュの目がカッと見開いた。

「素晴らしい! なんと素晴らしい酒だ! 絹ような滑らかさに重厚な味わい! こんな酒は初めてだ! ブランデーとやら実に見事なり!」

 フォルニゲシュはブランデーがよほど気に入ったのか、我が生涯に一片の悔い無しと言わんばかりに天に向かってグラスを突き出した。
 見た目がそれなりにかっこいいから絵になっているのが悔しい!

「リョウ! このブランデーとやらは素晴らしい! 何処で売られているのだ!?」

「売り物じゃないよ。これは俺が個人的に作ってる酒だからね。この先売る気もないし」

「なにぃいいい!? こんな美味い酒を味わわせておいて、それは苛虐かぎゃくではないか!」

「そう言われても、作るのにも限りがあるし」

「そこをなんとか融通してくれ!」

 めっちゃ頼んでくるな。
 それにしても意外だ。
 普通、龍種と言えば凶暴で残忍、欲しいものがあれば力づくで奪っていくと思っていた。
 現に他の地域では龍種の亜種であるワイバーンによる家畜被害が問題になってたしね。
 うーん、気になるから聞いてみたいけど、さっきにみたいに正論で返されるのも嫌だしなぁ。

「とりあえずこの一本はお近づきの印に進呈するよ。っていうか、手持ちはそれしかないんだ」

「感謝する! では、この一本は大切に城に持ち帰ろう。妻達にも飲ませてやらねばならんからな」

「うん? 妻達に飲ませる?」

「当然であろう。美味いものは家族で分け合いたいからな」

 こ、こいつ……
 俺の心にグサッと響く言葉を言いやがって!
 ぐぬぬ……
 言っちゃダメだ! 言っちゃダメだ!
 言っちゃダメだ! 言っちゃダメだ!
 言っちゃダメだ! 言っちゃダメだ!
 言っちゃダメだぁああああああああ!

「ツヴァイ近くの山に俺の家がある。そこに来てくれたら少しは融通出来なくもないよ」

 俺のばかぁああああああ!
 言っちゃダメだって思ってたのに、何で言っちゃうんだよ!
 美味しいものを分け合いたいって言葉に心打たれたからでしょ!?
 知ってるよ! わかってるよ!
 でも、俺のばかぁああああああああ!
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