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第二章

異世界人⑤

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 アルメリア・ヴェルサイーユ女伯爵。
 伯爵の夫人ではなく、彼女自身が伯爵家の当主で、ここツヴァイの領主でもある。
 今は鎧姿だけど、才色兼備でドレスを着れば社交界でも注目の的になるらしい。
 だけど、彼女はドレスではなく、鎧を好んでいる。
 理由は簡単。
 彼女自身が勇敢な王の騎士だからだ。
 先代の伯爵の時代には、彼女自身が先頭に立って盗賊や魔物を討伐を行なっていた女傑だ。
 そんな彼女だから武勇に優れた者が好きだと聞いたけど、まさか金級とはいえ冒険者に自分から会いに来るとは思わなかった。
 なんせさっきのバリー君みたいに貴族は平民を見下してるから。

「勇者達よ! 超魔物ズーの討伐大義であった! 無事の帰還、見事である!」

「ありがとうございます。ヴェルサイーユ閣下」

 前に出て慣れた仕草で礼を述べたのは【千里眼】のリーダー、マルコだ。
 金級冒険者ともなれば、貴族からの依頼もあるだろうから慣れてるのかな?

「汝らの功績は王国に対して多大なものである! よって、卿らに私から勲章を与える事にした! 私の屋敷に来るがいい!」

「あ、ありがとうございます!」

「か、感激でございますです!」

 領主の言葉に皆んな喜んでいるなぁ。
 まぁ、冒険者にとって貴族との繋がりが持てる事は何より嬉しい事だから仕方ないか。
 貴族からすれば冒険者俺たちなんかゴロツキと同じだけど、冒険者は貴族と繋がりが持ちたいからね。
 気に入られれば貴族関連の高額報酬依頼が指名で受けられるようになるし、腕を見込まれて貴族の私兵になれたら、安全で安定した生活できるようになる。
 だから、今回の招待はみんなにとってはめちゃくちゃ嬉しい事なんだろうけど、俺にとっては厄介な事この上ない。
 【貴族の屋敷に招待された冒険者】って肩書は目立ってしょうがない。
 他の冒険者がおこぼれとか紹介を狙って、付き纏ったりする事もあるって話だからな。
 かと言って断る事は出来ない。
 下手に断って不敬罪とか言われたら首が飛ぶ。
 だから貴族とは関わりになりたくなかったのに。

「ん? そこの者。浮かない顔をしておるが怪我でもしているのか?」

「えっ? あ、いえ! 大丈夫です! その……緊張してしまって、お見苦しいところをお見せしまして申し訳ありません」

「そうか。しかし、緊張する事はないぞ。卿らは確かに誇るべき偉業を成したのだ。堂々と胸を張るがいい」

 堂々と胸を張りたくないから困ってるんですよ!
 ん? 待てよ……そうだ!
 この手があった!

「あ、あの……領主様」

「なんだ?」

「わ、私は他の者と違ってズーとの戦闘に参加したわけでもなく、あくまでただの雑用係として参加したのです。その私が他の者と同様に称されるのはどうかと……称されるのは命懸けで戦った者だけで、私は外れた方が良いのではないかと……」

「そうなのか? うーん、確かにそういう事であれば卿は……」

 よし! うまくいったぞ!
 これで俺は領主様の屋敷に行かなくて済……

「お待ちください!」

 俺の【雑用係は対象外作戦】に待ったをかけたのは、ヴェルサイーユ女伯爵ではなく、ジョルダンだった。
 うわぁ、機嫌悪そうな顔してるよ。

「閣下! 確かにこの者は直接の戦闘には参加しておりません! しかし、この者は道中の我々の旅を支えてきたのです! 此度の偉業はこの者の存在無くして達成し得なかったと存じます!」

「私も同意見です、閣下。彼は索敵の眼も素晴らしく、道中は彼のおかげで無駄に体力を消費する事もなかったのです」

「そうです! この者は我々の胃袋を支える大任を果たしました! 万全の体勢でズーと戦えたのも彼のおかげです!」

「それにズーとの戦いで俺達が危ない時には、非戦闘員でありながら助けに来てくれたんだ! おかげで体勢を立て直せたんです! だから、こいつは一緒に戦った仲間なんです! どうか、こいつを除け者にしないでくだせえ!」

 こ、こいつら……
 ジョルダンだけじゃなくて、マルコやウルド、ラッセルまでもが俺を庇い始めやがった。
 嬉しいような悲しいような……複雑な気分だよ! ちくしょう! そして、ありがとう!

「なんだ、卿は後方支援として立派に責務を全うしているじゃないか」

「し、しかし……やはり前線で戦っておる者と同様に扱うのは……」

「それは違う。後方がしっかりしているからこそ、安心して前線で戦うことが出来るのだ。まして、遠征ともなればその存在は極めて大きい。卿の働きは見事、誇ってよいぞ!」

 誇りたくねぇから言ってるんですよ!
 なんだ、この空間は?
 なんで全員が俺をこんなに褒めてくれるんだよ?
 ここだけ優しい世界なのか!?

「では、全員揃って我が屋敷に来るが良い。歓迎の準備は整えてある! 道中は簡素な食事だけであったろう? 久しぶりに美味い食事を堪能してくれ!」

「お心遣い感謝致します。しかし、此度の道中はそこまで簡素でもなかったのです」

「ほぅ、それはどういう事だ?」
 
「それこそあの者、リョウのおかげです。彼が道中、美味しい食事を用意してくれたのです」

 あっ! 馬鹿っ! ジョルダン!
 いらん事を言うんじゃない!
 そんな事言ったら……

「旅の道中でも美味しい食事とは興味深い。うむ。リョウと言ったな? 私にもその食事を味わわせてくれないか?」

 やっぱり予想通りの嫌な展開になったぁあああああああ!

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