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第二章

異世界人⑧

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 怒れる料理長は放っておいて、俺は使用人用の厨房へ案内してもらった。
 さっきの厨房に比べたら狭くて設備も古いけど、この世界の水準からすれば全然問題ないレベルだ。
 
「あの……頼まれた物をお持ちしましたけど、本当によろしいのですか?」

 後から来た使用人が俺の頼んだ食材を持ってきてくれたけど、その顔は心配って書いてあるかのように不安そうにしていた。
 どうやら、さっきの話が気になってるみたいだな。
 
「構わないよ。それより、伯爵様は本当にに馬鈴薯カルトッフェルを食べた事がないのか?」

「いえ、付け合わせ程度でしたらテーブルに上がる事はありますので。ですが、メインとなると聞いたことがありません。それに馬鈴薯カルトッフェルを使った料理自体、聞いたことがありません」

 やっぱりね。
 今の話で確信したけど、美味い芋料理がこの世界には広まってないせいで、救荒作物って認識しかないんだ。
 勿体無い話だよ。

「まぁ、俺は俺の料理を作るだけだ。さっさと終わらせて帰らせてもらおう」

 俺は不安な顔をした使用人に厨房から出ていってもらってから、料理に取り掛かった。
 先ずは豚鬼オーク肉を薄切りにしていく。
 使うのはフォルニゲシュから貰った【裁断者の右腕】だ。
 これは本当によく切れるし、何より俺が切りたいと思った形に切れる優れ物だ。
 マジで使いやすくてありがたいよ。
 それにしても、この豚鬼オーク肉は、本当に最上級品だな。
 あの料理長が嫌がらせで質の悪いのを寄越すんじゃないかと思ったけど、そこまで陰湿じゃなかったか。
 ちょっと反省。

「次は問題の馬鈴薯カルトッフェルだ。皮を剥いて一口大に切っていく。人参カロッテも同じく一口大に切って、玉葱ツヴィーベルは繊維に沿って1㎝幅に切る」

 そういや、どんくらいの量を作ればいいんだろ?
 うーん、とりあえず20人分くらいにしとくか。
 余ったら持ち帰ればいいしね。

「えっと、次は油だけど……植物油はあるけど、さすがに胡麻油はないか。仕方ない。ここは自前のを使おう」

 【収納】に入れておいた自家製の胡麻油を取り出した。
 なんせこの辺りだと料理に使う油は獣脂がほとんどで、他は高価なオリーブオイルしかないからね。
 なのでカミさんから貰った能力で胡麻油を作らせてもらいました。
 
「フライパンに胡麻油を引いて豚鬼オーク肉を火にかけて、ある程度火が入ったら鍋に移しておく。そして、空いたフライパンに一口大に切った馬鈴薯カルトッフェル人参カロッテを入れて炒めていく」

 この時にあんまりかき混ぜ過ぎると形が崩れるから、焦らずにじっくりやるのがポイントだ。
 さて、表面に焼き目が付いてきたら、豚鬼オーク肉の入った鍋に移して、今度はフライパンにこいつを入れる。
 
「遂に手に入れた日本酒の代用品、龍酒! いやぁ、本当に嬉しい! うーん、この香りが堪らないね!」

 空いたフライパンに龍酒を注いで沸騰させる。
 こうする事で肉と野菜から出た旨みが酒に移るらしい。
 沸騰したら鍋に移して、そこに玉葱ツヴィーベルを入れてから砂糖と、醤油の代わりの黒墨樹こくぼくじゅの実を加える。
 水はさっきの龍酒だけで、他は一切加えない。
 野菜から出る水分だけで作る方が美味いものができるからな。
 
「落とし蓋の代わりに薄く切った木を上に被せて、更に鍋に蓋をする事で煮汁を逃さないようにする。あとは【調整】で竈の火を弱火にして煮込んで【鑑定】で煮込み具合を見るだけだ」

 いやぁ、本当にカミさんから貰った能力のおかげで助かるわ。
 ただ、フォルニゲシュが言っていた事は気になる。
 俺はカミさんがくれた能力はこの世界に普通にある魔法だと思っていたけど、実際は世の中の法則からかけ離れた神の奇跡だったらしい。
 人間に神の力を与えるなんて、普通に考えればあり得ない事だ。
 カミさんには俺に話していない何か別の思惑があるのかもしれないな。

「まぁ、今考えても仕方ないか。そろそろ煮えてきたかな?」

 細い木の棒で馬鈴薯カルトッフェルを刺してみると抵抗なくスッと刺せた。
 よし、いい感じだ。
 あとは【収納】から取り出した隠元ボーネを上に乗せれば完成だ!
 ちょいと味見……こ、これはっ!?
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