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12. 実は私、すごいのかもしれません
しおりを挟むそれからは、大忙しだった。
ソフィアさんの使用している薬で、効果がありそうなものを選んで飲ませる。だが、その処方は王都としてはとても古いものだ。そして、内服薬だけでなくあらゆる手段で治療をする。
足が動かない老人には、足のツボに薬用の灸を据えた。
高熱の患者の額には、冷却効果のある湿布。そして、手足が動かなくなる合併症対策に、早期から手足の治療も開始する。
比較的元気な人には、体力を増強するハーブと薬湯。
私を信じていない患者たちだが、みんな私の指示を聞いてくれた。これも、ソフィアさんみたいに一人一人に寄り添ったからかもしれない。
こんな私を、ソフィアさんは驚いたように見ていた。私の治療はきっと、ソフィアさんの思いもよらない方法なのだろう。王宮での当然が、ここでは当然ではないのだから。
ソフィアさんは、私の治療に対して不信感すら覚えているかもしれない。それでも私を信じて味方をしてくれるソフィアさんの存在が、とても心強かった。
昼過ぎになり、ようやく患者が途切れた。こんなにたくさんの患者を観たのは、合戦時の治療に呼ばれた時以来だ。あの時はへとへとだったが、今は意外にも元気だ。数日間、ジョーと歩きっぱなしの旅をしていたからかもしれない。
ジョーか。今ごろ、ジョーは何をしているのだろう。私のこと、覚えてくれているかな。
ジョーのことを考えると、急に胸がどきんと甘く鳴った。ジョーのことで、頭がいっぱいになってしまう。だけどいけないと首を振る。何より今は、治療だ。
「ソフィアさん!今のうちに、薬草を取りに行ってきますね!!」
そう告げて、ようやく裏にある薬草園へと向かったのだ。
治療院の薬草園は、王宮薬草園ほどではないが、とても大きかった。そこに様々な薬草が植わっている。状態がいいものもあるし、萎れているものもある。萎れているものは、きっと水のあげすぎだろう。
薬草のいい香りを嗅ぐと、王宮薬草園を思い出してしまった。
師匠、元気にされているかな。師匠からいただいたたくさんの知識が、今ここで役立っていることに改めて気付く。
そして、師匠の薬草園に近付くためには、この薬草園に足りないものがまだまだたくさんある。
私は急いで薬草を摘み、治療院へ戻る。そしてそれを洗い、皮を剥いたり切ったり煮たり。
ソフィアさんは、こんな私をずっと興味深そうに見ている。
ある薬草の根の土を落とし、屋根先に吊るしていると、
「その薬草、根は使えないんじゃないの?」
ついにソフィアさんが聞いたのだ。だから私は答える。
「確かに根に栄養はありません。
ですが、これを干して粉にしたものは、子供でも飲みやすい甘い解熱剤になります」
「そうなんだ!」
ソフィアさんは、目をキラキラさせて私の話を聞いている。新入りの私を拒絶することだって出来るのに、こうやって認めてくれているのだ。
「アンちゃん。そこの小鍋のものは?」
「あれは精神安定剤のブレンドです。
あれを飲むと心が落ち着き、ぐっすり眠れます」
「じゃあ、この汁は?」
「筋肉弛緩剤です。
針に付けて動かない手や足に刺すと、筋肉を緩めて動くのを助けてくれます」
「すごいね、アンちゃんって!私の知らないことばっかりで!!」
もちろん、自分の技術を自慢するわけではない。だが、こうも褒められると嬉しいのも事実だ。私のほうが年下で、新入り薬師なのに!
「ありがとうございます!」
満面の笑みでソフィアさんに礼を言っていた。
「でも、ソフィアさんを見て、私も気付かされることがありました」
「えっ?」
驚いたように、彼女は私を見る。
そう、何よりも大切なことは、ソフィアさんの患者に寄り添う姿勢だ。ソフィアさんは技術は最新のものではないが、その人柄から人々に慕われているのだ。
「私も、ソフィアさんみたいに、みんなから信頼される薬師になりたいです」
「何を言ってるの、アンちゃん」
からかっているの?なんて言いたそうなソフィアさん。こうやって私さえも認めてくれる人柄は、私は持っていない。私がソフィアさんみたいな人だったら、ジョーももっと好きになってくれたのかな。ジョーのことを思うと、胸がずきんと痛むのだった。
「さあ、アンちゃん。午後の部ももうすぐだわ。
そろそろお昼にしましょう!」
「はい!」
お昼と聞くと、急にお腹が空いてきた。怒涛の午前中だった。だが、たくさんのことを考えさせられた午前中だった。午後も、初心に返って頑張らなきゃ。
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