追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜

文字の大きさ
44 / 58

44. 彼もお兄様も元気です

しおりを挟む

 ジョーの傷口の消毒をして一階に降りると、ソフィアさんが治療院の片付けをしていた。疫病の流行も完全に落ち着き、この街には平穏が訪れている。
 ソフィアさんは私に気付き、片付けの手を休めて笑顔で告げた。

「アンちゃんが戻ってきてくれて、嬉しいわ」

「私もです。ありがとうございます!」

 私はソフィアさんに迷惑をかけてばかりだ。今回だって、ポーレット領に帰ると言い出したり、お兄様やジョーを二階に泊めたり……こんな私の暴走を、ソフィアさんは受け止めてくれた。こんなに優しい人は、どこを探しても他には見つからないと思う。

「アンちゃんのお母様の本、凄いわね」

 目を輝かせるソフィアさんを見て、お母様のことを自慢に思った。

「はい。あの本は母の実験中の記録だったみたいで……書いてあることは、正式には認められていないのですが……」

 それでも、お母様はすごい。最年少で王宮薬師長になっただけの腕はあるのだ。そして、私ももっと頑張らねばと励みになった。
 今回の一件についても、お母様のおかげでジョーを助けることが出来た。きっと、お母様は天国で喜んでくださっているだろう。

「それにしても、お姫様のキスで目を覚ますなんて、素敵ね」

 それを聞いてかあっと血が顔に上る。治療中は必死で、そんな気にもならなかったのも事実だが。
 どちらにせよ、ジョーが生きていてくれて、本当に嬉しい。

「私はこのまま、オストワルに残ろうと思います。
 これからも、よろしくお願いします」

 頭を下げる私を見て、ソフィアさんは嬉しそうに笑ってくれた。
 私は、この地でお母様に負けないようなすごい薬師になろうと思う。そして、ジョーとともに幸せになるのだ。


 ソフィアさんと談笑していると、薬草園へ散歩に出かけて行ったお兄様が帰ってきた。手にはなぜか、大量の焼き菓子やらチョコレートやらを持っている。

「ど、どうされたのですか?」

 思わず聞くと、お兄様は嬉しそうに教えてくれた。

「僕、どうやらこの地で人気者みたいで。
 ジョーを救ったアンの兄って言われて、たくさんお礼もらったんだよ」

 一番の人気者は、この街を守っているジョーなのかもしれないが……お兄様が嬉しそうなので、何も言わないでおくことにした。

「ジョーにあげたら喜ぶかな?」

「駄目です。チョコレートを食べると、痛み止めの効果が落ちてしまいますから」

 そうやってお兄様を嗜めながらも、幸せだなあと思った。こうやって、ジョーやお兄様が生きてくれているだけで、私はとても幸せだ。

「さあ、お兄様!二階に上がってください。
 明日からはリハビリとして、さらに動いてもらいますよ。
 ……ジョーが元気になったら、一緒に剣の練習をするのもいいですね」

「ジョーは駄目だよ。
 どうせ僕、ジョーにボコボコにやられるから」

 お兄様はそう言い残して、ジョーとお兄様のベッドのある二階へ上がっていった。私はお兄様が消えていった階段を見上げながら微笑んでいた。

 お兄様のことは好きだし、お兄様は危険を犯してまで私を守ってくれた。でも、私の心はジョーとともにある。
 こうやって、ジョーの近くにいて、その顔を見ているだけで幸せだと思う。私は、ジョーと一緒にいられて、すごくすごく幸せだ。

「アンちゃんも看病しっぱなしで疲れているでしょう。今日は早く帰ってゆっくり休んでね」

 ソフィアさんの心遣いは嬉しいが、私にはまだたくさん仕事が残っている。
 お兄様とともに戦ってくれたポーレット領の騎士たちの多くも、怪我を負っていた。私は薬師として、皆を元気にしたい。

「ありがとうございます。
 ですが、これから騎士団本部に行ってきます。
 騎士団の宿舎にいるポーレット領の騎士たちの様子も診てこないと!」

 私はソフィアさんに頭を下げ、騎士団本部に向かう。街を走る私を見て、人々が

「アンちゃん、お帰り!」

なんて嬉しい声をかけてくれた。
 ここが私の居場所なのだとしみじみ感じる。

「ただいま!これからも、よろしくお願いします!」

 私は元気に答えていた。
 

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

処理中です...