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43. 彼と残ることになりそうです
しおりを挟むそれから、私は治療院で忙しい日々を過ごした。
お母様の本のおかげで、なんとかジョーは一命を取り留めた。だが、完全に回復するまでにはまだ時間がかかりそうだ。
そんなジョーの隣では、同じように傷付いたお兄様の治療も行われる。
治療といっても、山は乗り越えた二人だ。私特製の不味い薬や痛み止め、感染対策中心の治療となる。
「うっわー!!この薬をまた飲まないといけないなんて……」
お兄様は露骨に顔を歪めている。それを見て、隣に寝ているジョーが面白そうに告げた。
「よし。ヘンリーと俺、どちらが先に飲み切れるか勝負だ」
「うわっ!ジョーはこんなの飲めるの!?」
「飲める。アンが作ったものならなんでも」
治療をしていくなかで、お兄様とジョーは友達になってしまった。そして、お兄様は私といる時よりも、ジョーといるほうが楽しそうだ。これには、ジョーに嫉妬してしまうほどだ。
私の前で、苦い薬を我先にと一気飲みする二人。お兄様は案の定へたれたことを言い始め、飲めると言ったジョーですら、変な顔をしている。その顔を見て、あまりの苦さに涙を流しながら、お兄様が笑った。
「ほら!ジョーだって不味いって思ってる!!」
そんな二人を、私は腕を組んで睨みながら告げた。
「文句ばかり言わず、ちゃんと治療を受けてください。
薬を飲まずに膿だらけになって死んでしまっても、知りませんからね!」
私の言葉を聞き、お兄様は青ざめて残っている薬を一気に注ぎ込んだ。そんなお兄様を見て、ジョーは楽しそうに笑っている。こんなジョーの笑顔を見れて、幸せだと思った。こうして、またジョーといることが信じられないほどだ。
「お兄様。薬を飲んだら、リハビリとして薬草園を散歩なさってください」
私の言葉に、
「えぇー!?」
お兄様はまた音を上げる。
「僕の足、傷付いて動かないんだよぉ」
「いいえ。お兄様の足は負傷していません。
ずっとベッドの上で寝転がっていたから、筋肉が衰えているのでしょう」
そして私は付け加えた。
「もし、本当に歩けないと言うなら……
そうですね、とびきり苦い薬と、神経を繋ぐ痛い鍼治療を受けてもらいましょうか」
その言葉を聞き、お兄様は飛び上がった。そして、転げるようにドタドタと階下に降りていく。
ほら、お兄様、ちゃんと歩けるじゃないの!
「まったく、困る人ですね」
お兄様が消えた階下を見て笑っている私は、不意に
「アン」
ジョーに呼び止められた。
ジョーの声を聞くと、胸がきゅんと甘い音を立てる。薬師モードから、乙女モードへとぱちりと切り替わってしまう。
振り向くと、ベッドに入って上半身を起こしたジョーは、目を細めて嬉しそうに私に手を伸ばしている。そして、私はどきどきしながらも、やはりそれに気付いていないかのように振る舞う。
「ジョーも元気になって良かった」
ぽつりと告げると、
「また、アンに助けられた」
甘くて優しい声で告げられる。そんな甘い声を聞くと、胸がきゅんきゅん言って止まらなくなる。
こんなに必死な胸の内を知られないよう、ジョーから顔を背けて必死に平静を振る舞う。だけど、ジョーは許してくれない。
「アンがいないと、俺は生きられないんだな」
「何言ってるの」
ジョーはいつも、こうやってまっすぐ私に気持ちを伝えてくれる。これが心地よく、嬉しくなっていたのも事実だった。
それに比べ、私はいつもツンツンしてばかり。恥ずかしいが、もう少し素直にならないといけないのだろう。
「私こそ……いつもジョーに助けられる」
そう。オオカミの群れからも、山賊からも、黒い騎士たちからも守ってくれた。
「当然だ。忠誠を誓ったから」
ジョーを見ると、彼はまだ私に向かって両腕を伸ばしている。私がそこに収まらない限り、伸ばし続けるのだろうか。
そして、私が簡単には収まらないと分かると、ジョーは次の手に出る。
「おいで、アン」
酷く甘ったるい声で私を呼ぶのだ。
「ぎゅっとさせて」
そんな、子供みたいなことを言わないで欲しい。人々が恐れる最強の騎士ジョセフ様は、私の前では駄々っ子だというのか。
仕方なくジョーに近寄ると、そっと、だけど強く強く抱きしめられる。大好きなジョーの香りと、その強い体のせいで、私の頭はくらくらする。まるで麻薬でも使ったかのように、ジョーしか見えなくなる。
ジョーは私を抱きしめ、愛しそうに頬を合わせる。そして、耳元で囁いた。
「アン……もう一度、しっかりと言わせてくれ。
俺と、結婚してくれ」
胸が痛い。ドキドキが止まらない。
「せっかく再会出来たのに、ヘンリーには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
でも、アンがいなければ、俺は駄目だ。俺はアンを愛している。アンと共に生きたい」
この、まっすぐな言葉がぐいぐい突き刺さる。そして、幸せな気持ちでいっぱいになる。
もちろん、私の答えは決まっている。
「ありがとう!嬉しい!」
ジョーは目を細めて、嬉しそうに私を見た。そしてまたきつく抱きしめ、唇を重ねた。
ジョーを失ってよく分かった。私は、予想以上にジョーがいなきゃ駄目なのだと。お兄様は悲しむかもしれないが、きっと分かってくださるだろう。
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