追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜

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42. お母様が助けてくれました

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 私はひたすらジョーを心配しながら、オストワル辺境伯領へ向かった。乗っていた馬車にジョーを運び込み、必死で止血をした。涙を流し、ごめんねと謝りながら。
 ジョーの顔色はどんどん悪くなり、呼吸も弱くなってくる。やがて、そのわずかな呼吸すら消え、どこに触れても鼓動も感じない。
 私は、こうやって亡くなる騎士を見たことがある。まだ王宮で勤めていたころに、合戦で負傷して運び込まれた騎士たちだった。あの騎士たちを見送ったのも辛かったが、相手がジョーとなると、心に負うダメージは計り知れない。しかも、私のせいでジョーは傷を負ったのだから。

 私が、ポーレット侯爵領に戻るなんて言わなかったら良かったのだろう。ジョーを庇おうと、短剣を投げたのもいけなかったのかもしれない。あれからジョーは、私を抱きしめたまま戦っていた。
 あの時こうすれば良かったという、後悔だけが湧き起こる。だが、過ぎてしまった今、時間を巻き戻すことなんて出来るはずもない。

 私はひたすら自分の服を破って、包帯としてジョーに巻き、止血をする。薬師は神様ではないから、人を死の淵から連れ戻すことは出来ない。それが悔しかった。


 私はふと、馬車の中にある本に目が留まった。本にはこう書いてある。

『緊急時の蘇生法  元王宮薬師長 ガーネット・ポーレット』

 元王宮薬師長 ガーネット・ポーレット?まさか……
 
 思わずその本を手に取ると、青ざめた顔のお兄様が教えてくれた。

「お母様が生前執筆した本だよ。
 でも、それを見ても、ジョセフ様を救えるか分からないけど……」

 そういうお兄様も、かなりのダメージを負っているようだ。体を押さえ、肩で息をしている。お兄様も救わねばならない。でも、今はジョーだ。

 そしてそこには、私が知らない蘇生法が乗っていた。

『止血が完了したら、顎を上げ、肺までの気道を確保する。
 唇を合わせ、息を吹き込む。
 その後、一分間につき百二十回を目安に、胸部の圧迫をする』


 その手順通りにジョーの顎を上げ、唇を重ねた。

 重ねたジョーの唇はまだほんのり温かく、ジョーが生き返る希望を持つ。それとともに、今まで過ごしたジョーとの甘い時間を思い出した。
 ジョーは私を抱きしめ、こうやってそっとキスをしてくれた。ジョーにキスされると、顔が真っ赤になって幸せで、この時間が永遠に続けばいいのにと思った。
 こんなに甘くて優しくて、その身を犠牲にしても私を守ってくれたジョーを、失いたくない。

 ジョーの唇に、そっと息を吹き入れた。私の息はジョーの体の中へ入り、微かに胸が膨らむ。
 そして私は、本に記載してある通り、ジョーの胸部を圧迫する。

 どうか……生きて!
 お願い、ジョー!!

 何度も何度も繰り返した。諦めそうになるが、少しでも可能性があるのなら、私は止めない!



 馬車が治療院の前に着く頃……もう無理なのかと思い始めたその時……
 ジョーがとうとう息を吹き返したのだ。

 苦しく咳き込んだジョーは、うっすら目を開けて私を見た。ぼんやりと焦点の合わない目だが、その目を見るとまた涙が溢れてきた。私は泣いてばかりの弱虫だ。だけど……少しだけ、ジョーの役に立てたかな。

 ジョーは泣いている私の頬に、そっと手を伸ばす。そして嬉しそうに目を細めた。


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