追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜

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48. なぜか同居することになりました

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 こうして、私の置かれる環境は、再び目まぐるしく変わっていった。

 私はすぐにオストワル辺境伯領騎士団の宿舎の隣にある、騎士団長邸に居を移した。
 騎士団長邸は立派な一軒家で、多くの部屋と多くの侍女が揃っている。ジョーは今まで一人でこの大きな一軒家に住んでいたのだろうか。そして、騎士団長がいかに身分が高い者なのか実感した。

 私が騎士団長邸に足を踏み入れると、

「奥様、お待ちしておりました」

侍女が一斉に頭を下げる。その中には治療院で診たことがある人もいるし……奥様!?その言葉に飛び上がった。まだ結婚もしていないし、今までのように薬師のアンちゃんのほうがずっとマシだ。
 私はずっと平民として暮らしてきたから、こういう特別扱いは苦手だ。

「よ、よろしくお願いします」

 引き攣った顔を必死に笑顔にして、頭を下げた。

 そして……

「アン!」

奥の扉が開き、ジョーが現れる。
 ジョーは勤務中なのだろうか、いつもの見慣れた隊服姿をしていた。いつものことながら、ジョーがすごく嬉しそうに甘く微笑むから、顔が真っ赤になってしまう。そして、相変わらずかっこいいと思う。
 こんなにかっこよくて強いジョーと……結婚するんだ。今まで実感がなかったが、この家に来てから少しずつその状況を理解し始めた。

「アン、俺はすごく嬉しい」

 そんな子供みたいな笑顔で言わなくてもいいのに。そんな無邪気な顔をするから、私は何も反論出来なくなってしまう。
 ジョーは私に駆け寄り、ぎゅっと手を握る。不意に握られるものだから、どぎまぎして真っ赤になる。

「アンの部屋は、俺の部屋でいいな?」

 ……えっ!?と驚いたのも束の間……

「団長……それは駄目です」

 部屋の奥から騎士が現れ、ため息混じりにそう告げた。その言葉を聞いてホッとしたのも事実だ。ジョーと同じ部屋で過ごすなんてとんでもない。心の準備もまだ出来ていないのに。

 ジョーは騎士を不服そうに見るが、騎士も強かった。

「ジョセフ団長、アン様の名誉を守ってあげてください。
 それに私は、セドリック様から団長が暴走しないように見張っているよう、命じられています」

 セドリック様はチャラチャラしていると思ったが、意外とジョーよりもまともなのかもしれない。
 そして、オストワル辺境伯領随一の凄腕ジョーだが、騎士団の中では和気藹々とやっているのだろう。ジョーはこの騎士から、意外にも酷い言葉を浴びせられていた。
 そんな様子を見て、なんだかおかしくて笑ってしまう。

 ジョーは不服そうに私を見て、拗ねた子供みたいに告げた。

「俺が暴走するはずなんてない」

 いや、ジョーは始終暴走していると思うが。だけど、それにも負けないくらい、私だって暴走しているのかもしれない。

「さあ、アン。引っ越しも済んだし、明日からは治療院に行くのだろう。今日はこの家でゆっくり休んだらどうだ?
 ……俺は夕方には帰るから、一緒に食事でもしよう」

 ジョーは私の前に跪いて、手に唇を当てる。こうやって、いちいち騎士みたいに振る舞うのも罪だ。隊服を着ているのもあり、ジョーがさらにかっこよく見えるから。

 こうやって騎士の振る舞いをするのに、次の瞬間、

「良かったら、一緒に寝るか?」

なんて、あり得ないことを言い始める。だから私も、

「ねっ、寝るはずないでしょう!!」

なんて抗戦することしかできない。
 こうやって必死に抵抗しながらも、もうジョーから離れられないことは知っている。だから、おとなしくジョーの妻となるしかないのだろう。

「行ってきます、アン」

 ジョーは眩しい笑顔で立ち上がり、私を抱きしめ頬にキスをする。例外なく顔が熱くなって、胸がドキドキした。
 私はもうすでに、身も心もジョーのものだ。



 ジョーが出て行った扉を見ながらもドキドキしている私は、まだジョーの余韻に浸っている。こんな私に、ジョーとともに入ってきた騎士が告げる。

「今日は第一騎士団の訓練の日です。
 もしよろしければ、アン様も第一騎士団の訓練を見学されますか?
 ジョセフ団長の訓練を見れば、惚れ直されること間違いないでしょう」

 惚れ直すも何も、ジョーが戦っているところは何度も見たことがある。そして、問答無用で強かった。これ以上ジョーに惚れられないほど惚れているのも事実だが、かっこいいジョーをもっと見たいと思ってしまう。

「ありがとうございます」

 私は騎士に告げる。そして、

「ですが、ジョセフ様はまだ怪我が完治されていません。訓練をされても、大丈夫でしょうか」

気になっていたことを聞いた。
 そう、ジョーの傷はもちろん治っていないし、今も一日に一回消毒とガーゼ交換をしている。あの傷に剣が当たったら、また出血してしまうに違いない。

「恐らく大丈夫でしょう。
 誰も団長にダメージを負わせることが出来る人はいませんから」

 そうなんだ……国内最強のオストワル辺境伯領騎士団の中でも、ジョーは極めて強いのだと改めて分かった。
 話を聞く私に、彼は続けて告げる。

「ジョセフ団長は、今まで騎士団に全てを捧げてこられました。騎士団のことを第一に考え、危険な任務でも必ず遂行する。私たちも、団長に何度も命を助けられました。
 団長はこれまで、浮ついた話も一切ありませんでした。そんな団長がアン様に初めて狂っておられるのです。
 私たちは、アン様が団長のことをもっと好きになって欲しいと願うばかりです」

 ジョーは幸せだろう、こんなにも周りの人に愛されて。街の外に出ればジョーは怖い人になってしまうが、本当は誰よりも優しくて誰よりも正義感が強い。私は、こんなジョーに愛されて、幸せで仕方がない。そして、もっと好きになれないほど、十分にジョーが大好きだ。

「ありがとうございます」

 私は騎士に告げる。

「私も彼が幸せになれるよう、頑張ります」

 幸せは一人では成り立たないから……だから、ジョーが私にしてくれたみたいに、私もジョーに愛を返したい。だけど、何かと恥ずかしくなって素直になれない自分もいるのだ。

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