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54. 騎士や薬師たちにも謝られました

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 陛下の謁見を終えると、小さな部屋に通される。その部屋には私に剣を向け追放した騎士団長とその部隊がいて、胸がずきんとした。それとともに、あの時の恐怖が押し寄せてくる。

 私は騎士たちに近付かないようにジョーの陰に隠れたが……

「アン様」

 騎士団長が私の前に歩み寄り、跪いた。あの時は薬師アンと呼び捨てにされたのに、今はアン様となっている。その待遇の変化に戸惑うばかりだ。

「以前、私たちが貴女に剣を向けたこと、お許しください」

 そんな騎士団長に、

「と、とんでもございません!
 それがお仕事なのですから、当然のことです!」

なんて言い、さらにジョーの陰に隠れた。
 もう、そのことは無かったことにして欲しいくらいだ。思い出すだけで怖くなるし、あの時は本当に辛かったのだから。

 だが……その言葉にイラついたのは、私ではなくジョーだったのだ。
 私の前に庇うように立ちはだかり、

「……剣を向けた?」

低い声で騎士団長に聞く。その声には凄みがあり、聞いただけで逃げ出したくなる人だっているだろう。

「貴様は、俺の婚約者を殺そうとしたのか」

 ジョーは自らの腰に差した剣に、すでに手をかけている。ジョーの気持ちは嬉しいが、こんなところでトラブルを起こされたら厄介だ。そして、ジョーはさらに荒くれ者になってしまうだろう。
 実際、この騎士団長だって、怒りで爆発しそうなジョーを前に怯えた顔をしているのだ。

「ジョー!大丈夫だから!私、元気だから!!」

 必死にジョーを宥めるが、ジョーの怒りは治まらないらしい。

「俺は貴様ら全員を殺す腕も持っているし、アンのためになら命だって賭けられる。
 だが、アンが必死で止めるのだ。アンに免じて殺すのは止めてやろう」

 騎士団長は、ジョーを前に青ざめていた。そして申し訳ありませんと何度も頭を下げる。
 私の想像以上に、ジョーは恐ろしいと噂されているようだ。だが、本当のジョーは騎士団の部下にも優しく慕われている。そして、こんなジョーが好きだし、ジョーに甘やかされてとても幸せだ。



 この凍りつく空気の中、私は不意に廊下から部屋の中を見ている人たちに気付いた。先頭にいる彼を見て、私は思わず駆け出していた。

「師匠!!」

 師匠はジョーと騎士たちのやり取りに怯えながらも、私を見ると嬉しそうに顔を輝かせる。こんな師匠を見ると、涙さえ出てきそうになった。

「師匠!」

 師匠の前に辿り着き、私は涙を我慢して必死に告げる。

「色々、お世話になりました。
 疑いをかけられた時も、私を守ってくださってありがとうございました!」

 師匠のおかげで、私は殺されずに済んだ。

「師匠が私に色々教えてくださったので、私はジョセフ様やオストワルの人々を救うことが出来ました!」

 私の知識は紛れもなく師匠から受け継がれてきたものだ。師匠のおかげで今の私がいると言っても過言ではない。
 私は師匠にこんなにも助けられたのに、師匠に何一つ恩返しが出来ていない。

 師匠はその年老いた顔をくしゃくしゃにして、私に告げた。

「わしこそ、アンを守ってやれなかった。わしら全員からお詫び申し上げたい」

 師匠の後ろには、現在の薬師長をはじめとする薬師たちがずらっと並んでいる。みんな心配そうで、それでいて嬉しそうな顔をしている。

「ようやくガーネットの話も出来るのじゃ。
 わしらは、ガーネットの娘であるアンが、幸せになってくれてすごく嬉しい」

「お母様は、皆さんにとても慕われていたのですね」

 お母様の話を聞くたびに嬉しくなる。私も、そんなお母様みたいな大人になりたいと心から思う。

「ともあれ、婚約おめでとう、アン」

 師匠の言葉に、薬師の先輩たちも口々におめでとうと言う。

「アンがオストワル辺境伯領のジョセフ様と結婚すると聞いてびっくりしたわ!」

「どんな大男かと思っていたけど、実はスマートなイケメンだったのね!」

 祝福されてすごく嬉しいが……

「みなさん、彼のことを知っておられたのですね」

 私は複雑な気持ちでいっぱいだ。オストワル辺境伯領のことは知っていたが、ジョーの話なんて聞いたこともなかった。ジョーの名は、私の想像以上に知られているらしい。
 申し訳なさそうな師匠が教えてくれた。

「アンには、外の世界に興味を持たないようにと、極力何も言わないように言われていたのじゃ。
 アンが王宮治療院にいる限り、その身は守られるから」

「でも、アンはもう自由の身だものね。
 外の世界を存分に楽しんでらっしゃい!」

 私の知らないところで、こんなにも人々に守られていたことを思い知った。確かに王宮にいた頃は世間知らずだったが、こんなにも大切にされて幸せだった。
 そして、これからジョーとオストワル辺境伯領で幸せな時間を過ごしたい。

「皆さん、本当にありがとうございました!!」

 私は深々と頭を下げていた。


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