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堕ちる① ※
しおりを挟む「おやめください!」
なけなしの勇気を振りしぼり、叫んだ拒絶の言葉が消えていく。
ネグリジェのリボンが解かれ、前が肌けられ、肩があらわとなったシュミーズのみのあられもないエリザベスの姿が、ハインツの目には映っている事だろう。
しかも、今着ているシュミーズは前開きタイプだ。前のリボンを解けば簡単に、裸体がさらされてしまう。
心もとない姿に羞恥心をあおられ、胸元を隠すため動かしたエリザベスの手は、ハインツに掴まれ頭上へと固定されてしまった。
「ハ、ハインツ様。もう、やめて……」
「エリザベス、貴方が悪いのですよ。貴方の心に私はいないなどと、そんなひどい事を言うエリザベスが悪いのです」
「……ち、違う……」
「何が違うの? エリザベスの初恋は私だった。ウィリアム王子ではなかったと分かったはずなのに、私を拒絶したのはエリザベスだ。そんなひどい話ないでしょう」
「待って、待ってください。私は、ハインツ様を拒絶した訳ではないわ」
「では、私との婚約を了承すると」
「いえ……それは……」
「ほら、エリザベスは嘘つきだ。拒絶していないと言ったそばから、婚約は出来ないと言う」
「だってそれは……、初恋の君がハインツ様だとしても、婚約する理由にはならないわ」
「それこそ、おかしな話です。エリザベスは、初恋の君と結婚したかったのでしょう? だからウィリアム王子に執着していた。違いますか?」
「それは、そうだけど……」
堂々巡りを繰り返す押し問答に、焦りだけが募っていく。
ハインツに組み敷かれている状況では絶対的にエリザベスの方に分が悪い。
下手に彼を刺激する事だけは、絶対に避けなければならない。
貞操の危機が迫っているのだ。
「ハインツ様。人の気持ちは、そう簡単には変わりませんわ。たとえ初恋の君が貴方だと知っても、ウィリアム様に恋していた十年は消えないのです。あの方に、婚約破棄を言い渡され、私の初恋は終わりました。あの時に、初恋の君との恋は終わったのです。だから――」
「――だから、私の愛には応えられないと」
「え、えぇ……」
ブワッとふくれ上がったハインツの殺気に、背筋が凍る。
完全に悪手を取ってしまった事に気づいたが、時すでに遅かった。
ビリっという耳障りな音を響かせ、シュミーズが破かれると同時に、身体にまとわりついていたネグリジェの残骸で、エリザベスは両手の自由を奪われてしまった。
「エリザベスの気持ちは、よく分かりました。貴方にとっての私は、そこら辺に転がっている石ころと同じ、歯牙にも掛けない存在だと言う事が」
「い、いえ、違いま――」
「何が違うって言うんだ!!」
突然放たれたハインツの怒声に、ビクッと震えたエリザベスの身体は、次の瞬間恐怖で動かなくなる。
「あぁ、すまない、エリザベス。大声をあげて、怖かったね」
先ほどとは打って変わって、頬を撫でながら猫撫で声を出すハインツの変わりように、エリザベスの身体はますます恐怖で硬直していった。
「あぁぁ、泣かないで。君の瞳から流れる涙は、至高の宝石より美しいが……、止まらなくなりそうだ。ただ、止まらなくなってもいいのか、別に」
ハインツの投げやりとも取れる発言に、エリザベスは更なる恐怖の底へと突き落とされた。
「だって、エリザベスは私の求愛を拒否するような悪い子だからね。少しくらい泣かせても問題ないよね。始めから、既成事実を作るつもりだったし……」
逃げ出さなければと思えば思うほど、身体は言う事を聞かず焦りだけが募っていく。
「エリザベス。君を身体から堕としてあげるよ」
その言葉を最後に、エリザベスの唇はふさがれていた。
固く閉ざされた唇を優しく食まれ、わずかに空いた歯列の隙間をぬい侵入した舌先に口腔内を縦横無尽に犯されれば、恐怖で固まった身体が徐々に溶けていく。
「……はぁぁ、いっ……あぁぁ……」
唇からもれ聴こえる淫靡なリップ音と、くぐもった自身の声に、エリザベスの脳がしびれ、なにも考えられない。
逃げまどっていたはずの舌は、いつしか絡まり合い、与えられる愛撫を嬉々として受け入れるようになっていた。
「エリザベス……、キス好きなの?」
「へっ?」
「ほらっ、目がトロンっとしている。それに、ココ……、立ってる」
「ひっ……いやぁぁ…………」
突然襲ってきた強烈な刺激にエリザベスの腰がはねる。
円やかな乳房の頂きで自己主張し始めた紅い実をハインツの指先で弾かれたのだ。
「あぁ、すまない。刺激が強過ぎたようだ」
「はぁぁ、あぁぁぁぁ……」
ジンジンとしびれる紅い実を今度は優しく指先で摘まれ、転がされるが、その刺激も長くなれば、新たな快感を生み、身体の奥底に火を灯した。
(……何も考えられなくなってしまう)
ハインツの手管に翻弄され、丸め込まれるのだけは絶対に避けなければならない。
エリザベスは、なけなしの理性を総動員しハインツの悪戯な手をつかむ。しかし、それもまた、彼の手の内だった事を思い知らされるだけだった。
「どうしたの? エリザベス。あぁ……、そう言うことか。自分でいじりたいのか」
「ち、違う……イヤ、やぁめ……」
「よく見てて。こうするんだ」
伸ばしたエリザベスの手が大きな手で包まれ、指先を自身の胸の先端へと誘われる。
耳元でささやかれる誘惑の言葉と共に、紅く染まった頂の映像が目から入り脳髄を震わせ、更なる快感を期待するエリザベスの心を解放してしまった。
(あの紅い実をいじったらどうなってしまうの?)
勝手に指先が動き紅く染まった実に触れると、わずかにピリっとした刺激が走った。
(少し固くて、小さな紅い実。あれをつまんだら、どうなるの?)
誘惑に負けつまめば、ピリっとした刺激が、ジンっと身体の奥深くまで響いた。
はぁぁ、なにこれ……気持ちいい……
摘んだ指先を転がしてみたい。
あぁぁぁ、気持ちいぃ……
初めて知る快楽にエリザベスは溺れていった。
つまんで、引っ張って、転がして、欲望のまま動き出した指を止める事など出来なくなっていたエリザベスに悪魔のささやきが落された。
「――美しい……。快楽に貪欲で、可愛いエリザベス。もっと気持ちよくなる方法を教えてあげましょうか?」
耳元で響く、艶めいた低い声。
快感を追うことに夢中になっていたエリザベスには、ハインツの甘い誘惑に逆らうだけの理性は、もう残されていなかった。
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