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第一章
31.崩れつつある悪魔の策略③
しおりを挟む[ライモンド視点]
焼き菓子を心ゆくまで堪能したルシアは、残った菓子を包んでもらい、持ち帰ることにした。
随分と機嫌が浮上したようで、ライモンドも安堵する。
「あ、そういえば、この近くにお母様と私がよく利用する宝飾品店があるんです。そろそろ新作が発売されているはずなので、見に行っても良いですか?」
ルシアはニッコリと微笑み、ライモンドに訊ねる。
「ああ、構わない」
「やった! ありがとうございます、ライモンド様」
無邪気に喜ぶルシアの姿に、先程までの剣呑さはなくなっていた。
ライモンドは、どちらの姿を信じるべきか決めあぐねているものの、ひとまずこの時間はルシアに付き合う約束となっているため、決断を保留することにした。
そして、やって来た宝飾品店は、ライモンドは一度も訪れたことがない店である。
母親の付き添いで頻繁に訪れる店とは異なった印象だったので、ライモンドは店によってこんなにも雰囲気が変わるのかと感心した。
「あ、ありましたわ」
店の中央に設置された陳列台には、新作という掲示がされた宝飾品が並んでおり、ルシアが嬉しそうに寄っていく。
そこで、ふとライモンドの目を引いたのは、陳列台の端の方に置かれている一点物だという金の鎖のブレスレットであった。
アメジストとピンクサファイアが使われた上品な造りのブレスレットは、この店に置かれているには異質なもののように見えたが、一目見たライモンドにカトレアを連想させた。
(カトレア嬢によく似合いそうだ……)
無意識のうちに足を進めてブレスレットの前へ立つライモンドだったが、ブレスレットへ手を伸ばしかけたところでグイッと横から腕を引かれてハッとする。
「ライモンド様! 私はそのような質素な意匠のものは好きではありませんわ」
ルシアが不満気にそう言って、ライモンドをブレスレットの前から引き離した。
ブレスレットから最も遠い位置に移動すると、ルシアは再び品を見比べ始める。
ライモンドは後ろ髪引かれる思いでブレスレットが陳列されている方を見つめたが、一つ嘆息するとその未練を断ち切った。
(今更、あれを購入しても、もう俺にはカトレア嬢に贈る権利はない……)
そんなライモンドの様子を横目で窺っていたルシアは、不満気に眉を寄せ唇を尖らせたものの、特に何か言うでもなく商品の物色を再開した。
ライモンドからの贈り物としてカトレアに見せびらかすことと銀細工の髪留めのようにカトレアが壊したと偽装すること、そのどちらがよりカトレアにダメージを与えられるだろうかと考えながら――
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