その傷を舐めさせて

先生、お付き合いをしましょう！

18

　迷惑だと言うつもりはない。好意を抱いてもらうことは、嫌われるよりもずっといいことだと旭は思う。
　むしろ、こんなにも大勢の前でほとんど振られるとわかっている状態で思いを告げた勇気を凄いとすら思った。
　自分はあの少女が想うくらい好きな人がいても、告白だなんてとても無理だ。まして1度振られている相手に何度も告白するなんて……。無謀とも言える夕映の行動に呆れつつも、羨ましくもあった。

　相当勇気がいるだろうに……こんなふうに笑われているとも知らずに健気なことだな。

　旭は患者の電子カルテを見ながらそう思いつつ、だからといって夕映と付き合うつもりなど更々なかった。夕映は9つも年下の学生で、社会人経験のない子供だ。
　子供だからだめ、患者だからだめ。そうではないと言ってはみたが、それが原因であることは一理あった。

「先生も大変ですね。仕事だけじゃなくてプライベートまで干渉されて」

　片付けを終えた20代後半の看護師がそう言った。少し明るめの髪を緩いシニヨンでまとめていた。外来の医師達がこぞって可愛いと持て囃す、人気の高い女性だった。
　綺麗に化粧された肌は血色がよく、Aラインのナース服は、その細い腰のくびれを主張させていた。
　隷都総合病院のナース服は、この看護師が着ているような白のナース服と紺のスクラブとがある。ナース服3枚とスクラブ2枚を支給されており、好きな方を着ることができる。
　大体の外来看護師は、5枚を毎日順番に着る。対して病棟はいそいそと走り回ることが多いため、動きやすいスクラブを好んで着ているようだった。ナース服の比率が高い外来から病棟に上がれば、一気に紺色の看護師達で埋め尽くされているのを旭も気付いていた。
　しかし彼女はいつだって体のラインがよく出るナース服を好んで着ていた。