その傷を舐めさせて

先生は同性愛者

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　泣きそうな顔をしている夕映に気付いた旭は、チラリと視線を移す。

「なんで小柳さんがそんな顔をするの。大丈夫だよ。もう、慣れてる。むしろよく6年間も噂が広まらずにすんだと思うよ。俺も隠し方が上手くなったのかもね」

「……好きな気持ちを隠すのは苦しくないですか？」

「苦しいよ。でも俺は、小柳さんみたいに面と向かって想いを告げる勇気はない。相手が女性だったとしても、どうかな……。性別じゃない気がする。全く関係ないわけじゃないけど。だから、それは素直に尊敬する」

「尊敬なんて……私は、言えずに終わって後から後悔するより、無理でも可能性が低くてもやれるだけのことはやりたいんです。だって諦めたらそこで試合終了だって誰かが言ってました」

「名言だねぇ。……別に噂をされることはかまわない。今までもそうやって生きてきたし、他人に否定されても、医師という仕事を失うわけじゃないし。ただ……彼に迷惑がかかるのは避けたいんだよね」

　旭は左手を降ろし、右手の上に顎を乗せるとうーんと考えるような仕草を見せた。長い指が、その整った顔と絶妙にマッチしており、夕映はまるで絵画のようだと思った。

「……武内先生は迷惑だなんて思わないんじゃないでしょうか」

「なんでそう思うの？　武内に会ったことないでしょ」

「あったことはないですけど、荻乃先生が好きになった人じゃないですか。私に対して誠実だから嘘はつかないって言いましたよね。だったら、先生が好きになった人も誠実な人だと思ったので」

「……きみは探偵かなんかなの？　他人の気持ちに入り込んでくるのが随分上手いね」

　じとっと目を細める旭に、うっと体を仰け反らした夕映は「違いますが……人を好きになる気持ちだけは先生と一緒だと思っているので」と言った。