その傷を舐めさせて

雪村こはる

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パーティーでは淑女を演じさせていただきます

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「そうでしたか。珍しいですね、夜天先生がこういったイベントに参加するの」

 旭は軽く目を閉じてそう言った。恐らく夜天に連れてきてもらったというのは嘘だろうと容易に想像がつくが、大勢の人が賑わう場所を嫌う夜天がこのパーティーに参加したことには旭も驚きだった。

「ど、同期ばかりだから今回は行くって言ってましたけど……」

「そう……。まあ、彼も単なる人見知りですかね」

「そ、それよりどうしてここに小柳さんがいるんですか?」

 旭に笑顔を向けつつ、夕映には一睨する。夕映は鋭い視線にしゃきんと背筋を伸ばした。2人の本来の目的はこの杏奈だ。ある事ないこと言いふらして回る軽い口を何とかしなければと夕映と共にやってきたのだから。

「パートナー同伴オッケーだったんで連れてきたんですよ。彼女が行ってみたいと言うものですから」

 杏奈が大人しくしているタイプではないとわかっていても、早速他の看護師にスマートフォンのロック画面について暴露されたのは面白くない。忙しい仕事中でもほんの一瞬保の顔が見られれば癒される。そんな思いで設定したのに、杏奈のせいでそれも初期設定に変えるはめになったのだ。
 恋が実らなくとも、勝手に片想いをしているだけで満足だったのに、それすらも邪魔をしようとしてくる杏奈のことを、旭は日を追う毎に嫌いになっていくのを自覚していた。

「だからって患者さんを連れていくんですね。なんか、意外でした」

「そうですか? 4月からうちの病院の看護師さんになりますから。橘さんも知ってましたよね?」

「え、えぇ……。知ってますけど、今はまだ患者さんじゃないですか」

 一定のトーンで淡々と繰り広げられる会話に、夕映はハラハラしながら見守った。余計なことは言うなと旭に止められている。保には思わず「私がしつこくお願いしたんです!」なんて言ってしまったが杏奈の場合、発言を間違えればたちまち揚げ足を取られそうだと下手なことも言えない。

「もう俺の患者さんじゃないので。術後の数値も安定しているし、今薬を飲んでいなくて正常値が保てているのでこのまま数値が乱れなければもう治療も必要ないねって話をしたんですよ。主治医も渕上先生に変わりましたが、かかりつけのクリニックで様子をみるだけでもよさそうです」

 旭がそう言って微笑むと、そういう問題じゃないじゃないと杏奈の目が言っていた。
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