その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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 コートは、先程仲居が預かりハンガーにかけてくれた。淡いピンクのニットに黒のフレアスカート姿となった夕映は「失礼します」と断ってから腰掛けた。
 正面から見れば、やはりとても綺麗な顔をしていた。夕映はまるで希星のようだと思った。きっと渕上先生が男性だったらこんなふうに中性的な人だっただろうなと思いながら「あの……渕上先生とはどういったご関係でしょうか」と口を開いた。

「渕上先生って? 希星?」

「え、あ、はい」

「俺の姉貴だけど?」

「え!? は!? ご、ご姉弟きょうだいですか!?」

「そうだって。うるせぇな」

 大声を上げて大袈裟に驚いた夕映に、目の前の男は鬱陶しそうに呟いた。唸るような低い声に、夕映はビクリと肩を震わす。目付きの悪さからも、決して明るくはない話し方からも怖い印象が勝って小さくなる。

「あ、あの……どうして弟さんが……」

「それはこっちが聞きたい。あんた、旭の彼女なんだろ?」

「え!? あ、はい……まぁ……」

 渕上先生、そこまで言ったんだ。まぁ、彼氏がいるって言っておいてくれた方が説明しなくても済……

「本当に? まだ高校生くらいだろ? こんなところで何してんだよ」

 夕映の思考を遮るようにして割り込んできた言葉。夕映はうっと胸が抉られるような痛みを感じた。子供っぽいとは言われるが、高校生はいくらなんでも酷いんじゃないかとさすがに傷付く。

「ち、違います。これでも21歳で、渕上先生と同じ病院で看護師をしています」

「看護師? ふーん。あ……もしかしてパーティーにいたヤツか」

「え?」

「3月の。旭にくっついてたろ」

「あ、はい。あの……渕上さんもいたんですか?」

 相手の名前を知らない夕映は、姉弟なら苗字は同じだろうと思い、そう呼んだ。希星が結婚していて苗字が変わっているなどという考えはなかったが、幸いにも希星は独身だった。だから当然相手は軽く頷いた。
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