その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達だろ?

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「……それって夜天?」

「え!?」

 突拍子もない旭の言葉に夕映が飛び上がる。頭の中に夜天がいたのだから驚くのも当然だった。

「ち、違いますよ! 夜天さんはお友達ですから……」

 そう言いながらもかぁっと顔を赤らめる。何となく心を読まれたようでバツが悪かっただけなのだが、旭はそんな夕映の反応に息を飲んだ。

「じゃあもし……夜天がきみのことを好きになったら?」

「それはないです、絶対ないです」

 ないない。クソガキだのチビだのなんだのって言われてるのに。全く女性としてなんか見られてないし、私のことなんて近所の子供くらいに思ってるに違いない。

「絶対……?」

「絶対です。子供扱いならまだしも時々猫かなんかだと思ってるんですから」

「猫?」

「ペット扱いってことです」

「ああ。……ペット」

 そう言われてみれば、旭にも夕映が小さな動物に見えた。

 そりゃそうか……。夜天がこの子を女性として見ることなんてあるわけがない。院内恋愛なんて面倒臭いって言ってたし。ただ懐き始めたペットを可愛がっているようなものか。

 旭はようやくふっと頬を緩めた。

「私は……先生に告白できてよかったって思ってます。今まで好きな人ができても気持ちを伝えられないまま終わっちゃってたんで。向こうは私が好きだってことも知らないまま、今はどこかで生活してるんです。でも、先生には私が好きだってこと知ってもらえたんで。それだけで満足です」

 旭が口を開く前に夕映がそう言った。彼女は本当に満足そうだった。

「知ったけど……でも応えられなかった。それでも満足だって言うの?」

「だって知らなかったら先生、私の事ただの患者さんで治療が終わったらもう忘れちゃったでしょ? ここに勤めてもあの患者さん、看護師さんになったんだっていうくらいで」

「……まあ」

「でも、私が好きだって言ったから、契約したからこうやって今でも会ってくれるじゃないですか」

「うん……」

「先生の中で私はただの患者さんじゃなくて、先生のことを好きな人にレベルアップしたから」

「レベルアップ……」

 レベルアップかな……? でも、確かにこんなふうに押しかけてこられなければこの子について考えることもなかっただろうな……。

「告白して、その人の記憶に残ることは奇跡だと思うんです。言うのは自由だけど、興味がなければ忘れられてしまうことも多いから……。だから、私にとって付き合う、付き合わないよりも先生に気持ちを知ってもらう方が重要でした」

 夕映の言葉は重たく旭の胸に突き刺さった。しつこい、好きになられても困る。そんなふうに思ったこともあったが、色んなことを言い訳にして保に告白できない自分よりも遥かにしっかり現実を見ている気がした。
 そこの部分は尊敬するって前にも言ったけど……やっぱり俺にないものを持ってはいるんだよな……。

 旭は軽く息をつくと、凛とした表情の小さな体を真っ直ぐ見つめた。
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