その傷を舐めさせて

雪村こはる

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近付く距離と遠ざかる距離

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 じんわりと涙が溜まる。鼻の奥がツンと痛くなった。
 泣きそうな夕映の顔を見て、夜天は膝に肘を置いた状態で顔を手で覆う。

 泣かせるために呼び出したわけじゃない。旭に会う度に嬉しそうにする夕映が旭と上手くいけばいいと思った。だからほんの少し刺激するくらい面白いと思えたし、焦る旭を見て笑うこともできた。

 ただ、旭の反応は夜天が思っていたものとは違った。きっと夕映に対して恋愛感情はないものの、自分のことを好きだと言っていた女が離れていく気がして何となく引き止めたかっただけだと気付いた。

 いっその事、俺みたいに友達としてって割り切ればよかったんだ。下手に誘って期待させてどうすんだよ。これで武内を諦めて他の男に目移りでもしたらこんなに浮かれてるコイツはどうなんだよ。
 限りなくゼロに近いとか言っておきながら、なんで中途半端なことするかな……。バッサリ振ってやるのも優しさだと思うけど。

「やっぱり……諦めた方がいいですか?」

「……諦められないからこの前だって外来の前で待ってたんだろ?」

「そうですね……。私、何で上手くいかない人ばかり好きになっちゃうんですかね。夜天さんが前に言ったみたいに、私のことを好きになってくれた人がいたら、その人のことがわかればいいのに……。いつも友達を好きになる人か、全然私に興味ない人しか好きにならないんですよ……」

 そう言いながら、夕映の頬をポロッと涙が伝った。黄色がかった蛍光灯が涙に反射してキラリと光る。
 夜天はじっとその涙を見つめた。無意識に手を伸ばすと、指先でそれをすくい頬を撫でる。夕映は1度ゆっくり瞬きをすると、目で追うようにして夜天の視線にたどり着く。
 視線が交わった瞬間、夜天はその小さな体を自分の腕の中に閉じ込めた。胸板に押し付けられた顔にとくとくと鼓動を感じた夕映は、驚いて目を見開くがじっと大人しく抱き締められていた。

「あ、あの……夜天さん……」

 疑問を訴えそうな夕映に、夜天は更なる力を腕に込める。すっぽりと収まった体は、思っていたよりもずっと小さかった。夕映の髪に頬を寄せ、肩を越える。背中を優しく手で擦ると「いいから。大人しくしてろ」と低い声で囁いた。

「で、でも……」

 こういうのは好きな人同士でするんじゃないのかな……。ドキドキと脈拍が速まる中、ピタリと涙を止めて頬を赤く染める夕映は、漫画やドラマで見る男女の抱擁を思い出した。
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