その傷を舐めさせて

雪村こはる

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近付く距離と遠ざかる距離

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「お前、夕映と出かけたろ?」

「……出かけたけど、それが?」

「アイツは本気でお前のことが好きみたいだな」

「……そうみたいだね」

「お前、男にしか恋愛感情湧かないんだろ? 可能性もゼロに近いって夕映に言ったみたいじゃねぇか」

「……彼女はそんなことまで夜天に話したの?」

 夕映のことを少なからず信用していた旭は、顔を歪めてそう尋ねた。

「まぁな。俺が誘導したようなもんだけど。お前、夕映のことを好きになれないならこれ以上深入りするのはやめておけ」

「……深入りって。別に手を出したわけでもないし、弄んだわけでもないのに」

「それでもアイツは舞い上がってるからな。お前からデートに誘ってくれたって。多少は期待してる」

「……そう」

「無理なら今の内から友達として傍にいるって断言するだとか、付き合うのは絶対に無理だってハッキリ断ってやれよ。じゃなきゃ期待するだけしてお前がその期待に添えなかったら、アイツが傷付くだろうが」

 真剣な眼差しで旭を見据える夜天。仕事に対して真面目な男だが、まさか女性関係でもこんな顔をするとは思わなかった。
 旭はようやく夜天がからかいにきたわけではないと悟り、軽く下唇を噛んだ。

「付き合うことについては何度も断ってる。……無理だとも言ってある」

「じゃあなんで誘ったんだよ」

「……夜天はどうなの? 都合よく友達って立場を利用して何度も会ってるでしょ」

 今度は反対に旭が核心を突く。昨日、友達を口実にその腕で夕映を抱きしめたことを思い出し、うっとたじろぐ。

「利用って言うなよ。俺はこれでもお前と夕映をくっつけようとしてたんだぞ」

「……何となくそんな気もした」

「お前が普通に女と付き合えるヤツだと思ってたから。もちろん友達として夕映の恋路を応援してやろうとしたわけだ」

「……悪かったね、ゲイで」

「だから、ゲイであることを責めてるんじゃねぇだろ。お前の軽はずみな言動が夕映を傷付けるって言ってんだよ」

「夜天こそ……妙に彼女を気にかけるんだね。そっちこそ契約だったんでしょ?」

 含み笑いを浮べる旭に、夜天は顔を強ばらせた。優位に立っていたのは自分だったはず。それなのに友達になった経緯が契約だということを知っている旭に驚きを隠せなかった。

「……アイツは本当に口が軽いな」

「何も気にしてない証拠でしょ。本当に友達になったのか今も契約中なのかは知らないけど、俺とどう付き合っていくかは彼女が決めることでしょ。俺はちゃんと断ったし、俺と出かけることも彼女が自分の意思で決めたことだよ。それでもつっかかってくるって、夜天は彼女のことが好きなの?」

 何となく夜天から夕映に対する好意を感じて問いかける。
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