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近付く距離と遠ざかる距離
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「6年って長いよね、本当。その間、誰とも付き合わなかったの?」
保の問いかけにこくんと旭は頷く。保は旭の腰に腕を回したまま「そっか。気付いてやれなくてごめんね」と言った。
「ちが……俺が勝手に……」
「うん。こんなに泣かせるくらいなら、和泉と出会う前に出会えてればよかったね」
「……え?」
ばっと顔を上げた旭と見下ろした保との視線が至近距離で交わった。綺麗な瞳に目を奪われた旭だったが「って言っても俺ノンケだけどね」と悪気なく保は笑う。
いつも通りの保に、ついふふっと旭はつられて笑った。
「俺、生まれ変わっても今の奥さんと結婚するって決めてるの」
「……うん」
いいなぁ……愛されてて。旭は羨ましそうに目を伏せた。
「来世で旭が女の子に生まれてきたら、結婚はできないけど1番最初の彼女にしてあげてもいいよ」
そんな言葉に瞳を揺らす。上から目線な言い方なのにもかかわらず、どうしようもなく嬉しく感じてしまうのは、惚れた弱味なんだと旭は思う。
「……武内だって女の子に生まれるかもしれないよ」
照れ隠しをするかのように旭がそう言えば「あ、本当だ。そしたらまたややこしいね」そう言って保がぶっと吹き出した。
「ねぇ、旭」
「……うん?」
「俺に対する恋愛感情は忘れてよ」
「……努力する」
「頼むね。……そしたら、今度は友達として一緒にどっか遊びに行こうか」
「え!?」
「……不満?」
目を細める保にぶるぶると勢よく首を左右に振る旭。
「……好きだって言ったら嫌われるって思ってたから」
「なんで?」
「だ、だって気持ち悪いでしょ……」
「そう? なんで?」
本当にわけがわからないといったように首を傾げる保。同性を好きになったら気持ちが悪い。そんな概念など最初から保にはなかった。
……こういう人間だったから好きになったんだっけ……。
旭は忘れていた感情を思い出せた気がした。
「男が男を好きになったら変だよ……」
「旭がそれを言ったら世の中のLGBTの人達は誰も報われないよ」
「っ……」
「日本は先進国なのにね。未だに男女差別はあるし、同性愛に対してだって、今のところパートナーシップ制度が限界だ」
「そうだね……」
「でも、俺達医者にとって年齢性別関係なく患者は患者であるように、恋愛対象が同性であれ異性であれ同じ人間だよ。何もおかしなことじゃないし、気持ち悪いことでもない」
「……そっか」
「まぁ、だからといってその気持ちに添えない俺が言っても説得力ないけどね」
「そんなことっ……」
「だから、旭はおかしくなんかないよ。先に言ったでしょ。自分を責めるなって」
「うん……」
旭がそっと微笑んで深く頷くと、保はその顎を指先で押し上げ、上を向かせた。それから軽く頬にキスを落とした。
「な!? なーっ!」
ぼんっと一気に顔を紅潮させた旭は、触れられた頬を手で押さえて飛び上がる。混乱して保の腕の中でもがき、口をパクパクとさせた。
「期待させるのは悪趣味だと思うから、口にはしないよ。できるけど」
「で、でででできるの!?」
「できるよ。でも、したら旭諦められなくなっちゃうでしょ?」
い、今でも十分諦められなくなりそうだけど!
狼狽する旭の体をそっと離した保は「せめてもの餞別ってことで。これから、友達としてよろしくー」そう言って無邪気に笑った。
保の問いかけにこくんと旭は頷く。保は旭の腰に腕を回したまま「そっか。気付いてやれなくてごめんね」と言った。
「ちが……俺が勝手に……」
「うん。こんなに泣かせるくらいなら、和泉と出会う前に出会えてればよかったね」
「……え?」
ばっと顔を上げた旭と見下ろした保との視線が至近距離で交わった。綺麗な瞳に目を奪われた旭だったが「って言っても俺ノンケだけどね」と悪気なく保は笑う。
いつも通りの保に、ついふふっと旭はつられて笑った。
「俺、生まれ変わっても今の奥さんと結婚するって決めてるの」
「……うん」
いいなぁ……愛されてて。旭は羨ましそうに目を伏せた。
「来世で旭が女の子に生まれてきたら、結婚はできないけど1番最初の彼女にしてあげてもいいよ」
そんな言葉に瞳を揺らす。上から目線な言い方なのにもかかわらず、どうしようもなく嬉しく感じてしまうのは、惚れた弱味なんだと旭は思う。
「……武内だって女の子に生まれるかもしれないよ」
照れ隠しをするかのように旭がそう言えば「あ、本当だ。そしたらまたややこしいね」そう言って保がぶっと吹き出した。
「ねぇ、旭」
「……うん?」
「俺に対する恋愛感情は忘れてよ」
「……努力する」
「頼むね。……そしたら、今度は友達として一緒にどっか遊びに行こうか」
「え!?」
「……不満?」
目を細める保にぶるぶると勢よく首を左右に振る旭。
「……好きだって言ったら嫌われるって思ってたから」
「なんで?」
「だ、だって気持ち悪いでしょ……」
「そう? なんで?」
本当にわけがわからないといったように首を傾げる保。同性を好きになったら気持ちが悪い。そんな概念など最初から保にはなかった。
……こういう人間だったから好きになったんだっけ……。
旭は忘れていた感情を思い出せた気がした。
「男が男を好きになったら変だよ……」
「旭がそれを言ったら世の中のLGBTの人達は誰も報われないよ」
「っ……」
「日本は先進国なのにね。未だに男女差別はあるし、同性愛に対してだって、今のところパートナーシップ制度が限界だ」
「そうだね……」
「でも、俺達医者にとって年齢性別関係なく患者は患者であるように、恋愛対象が同性であれ異性であれ同じ人間だよ。何もおかしなことじゃないし、気持ち悪いことでもない」
「……そっか」
「まぁ、だからといってその気持ちに添えない俺が言っても説得力ないけどね」
「そんなことっ……」
「だから、旭はおかしくなんかないよ。先に言ったでしょ。自分を責めるなって」
「うん……」
旭がそっと微笑んで深く頷くと、保はその顎を指先で押し上げ、上を向かせた。それから軽く頬にキスを落とした。
「な!? なーっ!」
ぼんっと一気に顔を紅潮させた旭は、触れられた頬を手で押さえて飛び上がる。混乱して保の腕の中でもがき、口をパクパクとさせた。
「期待させるのは悪趣味だと思うから、口にはしないよ。できるけど」
「で、でででできるの!?」
「できるよ。でも、したら旭諦められなくなっちゃうでしょ?」
い、今でも十分諦められなくなりそうだけど!
狼狽する旭の体をそっと離した保は「せめてもの餞別ってことで。これから、友達としてよろしくー」そう言って無邪気に笑った。
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