その傷を舐めさせて

雪村こはる

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お付き合いすることになりまして

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「もっと早く気付いてやればよかったな……」

「わ、私も看護師のくせに勉強不足だったから悪いんです! もうちょっと傷の経過について調べなきゃいけなかったのに……自分のことだし……」

 そう言いながらも眉を下げて泣きそうな顔をする。

「とりあえず治療するか。どこまで綺麗になるかわかんねぇけど」

「はい……でも……見えないところだから。首じゃなくてよかったです」

「見えなくてもお前が気になるんだろ? だったら治療すればいいから」

「……気持ち悪いですか? 私、鏡じゃないと見えないので……近くで見れないし」

 以前、好意をもっていた男に傷痕が残るのは気持ち悪いと言われたことを今でも気にしているのだと察した夜天は、ふっと息をつく。

「気持ち悪くねぇよ。完治させるためには必要だった傷だ。この程度の傷で治ったらいい方だろ。そもそも、そんなこというヤツとは関わるな」

 顔をしかめてそう言えば、夕映はようやくふっと笑った。

「仕事に行ったら希星先生に相談してみます。お薬出してもらう」

「そうだな」

「んー……でも、痒いですね」

 いいーっと口を固く結んで痒みに耐える。肩をぎゅっとすぼませて震えた。ケロイドが強い痒みを伴うことは夜天もよくわかっている。
 痛いのも辛いが、痒いのも辛いだろうと思うとやるせない思いが募る。

 夕映が堪らず手を伸ばすと、夜天は阻止するように手首を掴んだ。

「夜天さん、制限されると余計に痒いです……」

 掻きむしりたい程に傷が疼く。痛いくらいに掻いてしまえば少し楽になるのにともどかしい。
 夜天は、はだけた胸元に視線を落としながらその赤く腫れ上がった創部に指を這わせた。

「塞がってはいるな」

「もう、痛くはないです。ただ痒いだけで」

「そ……」

 夜天は身を沈めると、その傷跡にそっと舌を這わせた。ビクッと驚いて体を震わせる夕映。

「や、夜天さん!?」

「おとなしくしてろ。爪で引っ掻くのはダメだ」

 鎖骨の下でそう呟くと、もう1度ゆっくりと舐め上げた。舌のザラつきが痒みのある創部を撫で上げた。湿った感触と凹凸が少しずつ痒みを落ち着かせる。
 痛みはなく、むしろ気持ちがいいくらいだった。

「夜天さん……汚いですよ」

「もう塞がってるし、菌が入ることはねぇよ」

「じゃなくて、私の傷が……」

「風呂入ってきたんだろ?」

「そうですけど……」

「全然効果ない?」

「ちょっと……気持ちいです……」

 恥ずかしそうな夕映に、思わず夜天の口元が緩む。

 別にやましい気持ちがあるわけじゃねぇんだからな。放っておくとコイツが掻くから……。

 そんなふうに思いながらも、甘い香りに誘われるように舌先で肌をなぞった。そのまま、その下まで侵入するのはとても容易そうだった。

 しかし夜天は邪な思いをぐっと堪え、感傷に浸っている夕映を癒すことだけに集中した。
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