その傷を舐めさせて

雪村こはる

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お付き合いすることになりまして

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「お酒、お父さんと飲んだんだ」

「はい! 初めて飲む酒は、よそ様に迷惑をかけると困るからまずは家で飲みなさいって言われました」

「しっかりしたお家だね」

 旭は感心しながらも、こんなに素直な夕映の性格はあの穏やかな母親と常識のある父親に大切に育てられたからだろうと思えた。

「そんなことないですよ。父はそんなこと言って、自分が飲みたいだけなんですから。毎日母と晩酌してます」

「へぇ……ご両親、仲良いんだ?」

「いいですよ。高校の同級生なんですって」

「え? それで今も仲良いの?」

「はい。それぞれ友達はいたけど、1番仲が良かったらしいです。大学がバラバラになってもよく一緒に遊んでて、いつの間にか付き合ってたって言ってました。今でも友達の名残があるって」

 夕映は自分で説明しながら、夜天との関係は自分の両親みたいだから違和感がないのかな、なんて思った。

 パスタが運ばれくると、夕映は目を輝かせてフォークを手に取った。クルクルと巻き付けて口に運ぶ。

「美味しいです!」

「ね。俺もここのパスタ好き」

 嬉しそうな夕映。たしか、嫌いなものは生の魚。好きなものはハンバーグと記憶を辿る旭。

「先週、夜天とはなにを食べに行ったの?」

「え? 先週ですか? ご飯は行ってないですよ」

「そうなの? でも、平日でしょ? 夜天は仕事の後だったんじゃないの?」

「そうです。でも、ご飯は食べに行ってません。お菓子をいっぱい持ってったんですよ」

「お菓子?」

「はい。結局全部は食べられなくて、ほとんど持って帰ってきちゃったんですけど」

 旭は、夕映の言葉に不思議そうに首を傾げた。仕事帰りの夜天がお菓子で満足するだなんてとても思えなかった。それよりも、持ってったって一体どこへ? 疑問は募る。

「お菓子、どこで食べたの?」

「あ、夜天さんのお家です」

「……え?」

 ピキンと場の空気が変わった気がした。何となくそれを感じ取った夕映は、「……え?」と旭と同じように聞き返した。

「家に行ったの? 夜天の」

「……行きました。あの、でも、友達ならお家に行くのは普通だって聞きました……」

 怪訝な表情を浮かべた旭に、夕映は弁解するかのようにそう言った。

「……まぁ、そうだね」

 本当に友達ならね。そう思いながら、旭は納得いかないながらも頷いた。けれど夕映は、たったそれだけのことで安堵した。
 旭の表情を見て、とんでもなく悪いことをしたような気持ちになったのだ。

 夜天にそれは普通だと言われた時にはそういうものだと思っていた。

「お母さん、今度夜天さんのお家に行くんだ」

「あら、荻乃先生の同期の?」

「うん。友達になったんだ」

「そうなの。お母さんも昔ね、見たいテレビがあったんだけど、おじいちゃんがうるさくて見せてくれなくてね。勉強するって嘘ついてお父さんのお家に行ってね、こっそり見せてもらってたのよ。好きなテレビが一緒でね。毎週日課だったのよ」

 母とそんな会話をした。夜天との電話を切った後、本当に行っても大丈夫なのかな? ふとそうも思ったけれど、父と母が楽しそうに昔話に花を咲かせていたし、その頃は2人とも友達だったと言っていた。
 だから夕映は安心して夜天の家に遊びに行ったのだ。
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