その傷を舐めさせて

雪村こはる

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お付き合いすることになりまして

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 旭は少し考えた。
 俺が同性愛者だから感覚が違うのかな……いや、そんなはずは。元彼アイツだってうちのアパートに女の子を連れ込んだ時には、体の関係に発展したわけだし。いや、その前からあったのかもしれないけど。って今はそこじゃなくて、男女同じベッドで眠るということは体を重ねることに同意したも同じこと。俺はそういう認識でいたけど……。男女で友情が成立するなんてほとんど聞いたことがないし。それに夜天は「夕映は俺がもらう」って言ってたし……あれはもちろん恋愛の類なんだよね?

 疑問は尽きない。しかし、いつまでも考えているわけにもいかず、顔を上げて夕映と視線を合わせた。

「それで、安全だったの……? 何もなかったなんてないよね?」

「な、なにもないですよ! や、夜天さんにも警戒心がないって言われちゃいましたけど……。でも、夜天さんはそんなことしません」

「……じゃあ、本当に一緒に眠っただけなの?」

「そうです。私は、荻乃先生が好きなので」

 はっきりとそう言った夕映。しかし、そうであるならば、なぜ他の男のところになんか行ったのかと余計に頭が混乱した。

「夕映ちゃんは、本当に夜天を友達だと思ってるの?」

「お、思ってますよ!」

「夜天は……?」

「もちろん、夜天さんもです」

「……好きだとか、言われなかった?」

「誰がですか? 夜天さんがですか?」

「うん」

「い、言いませんよ! 私たちは友達ですから! 荻乃先生の話だってするんですよ? 夜天さんが私のことを好きなはずがありません」

 夕映は、驚いたように胸の前で両手を左右に振る。そんな素振りはなかった。好きだと言われたこともなければ、女性として扱われたこともない。ただ、突然熱っぽい視線を向けられた時にだけ驚いた。それから、傷口を舐められた時も。しかし、さすがにそれは言えなかった。今の夕映なら旭の反応が良くない方向にいくことがわかるから。

 夕映の言葉に少しだけ息をつく。夜天が決定的なことを口にしてない事実を確認できただけでも良かった。夕映と会う約束をしたのが来週のままだったら、今夕映と会っていたのは夜天の方だったかもしれない。あと1回会うのが遅かったら、きっと確実に夜天は夕映に想いを伝えていただろうと思った。
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