その傷を舐めさせて

雪村こはる

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傷が疼く

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 夕映が旭とパジャマパーティーをする前日、夜天のもとへ夕映から電話があった。先週の電話以来、夕映の声を聞いていなかった。
 直接会って夕映から旭の話を聞くのも気が引けて、平日の夜に外来診察室にこもるのも避けてきた。

 連絡も夜天からはしなかった。彼氏ができたのに、いつまでも友達のフリをして気を引こうとするのは旭にも悪いと考えた。
 旭にはしっかりと宣戦布告をしたし、彼よりも先に行動を起こした。純粋無垢な夕映を欺き、ベッドの中にまで誘った。そこまでしたのにもかかわらず、夕映が旭を選んだのだ。
 結局のところ自分は夕映にとって最後まで友達だった。そう思ったら、それ以上の悪あがきは無駄だと感じた。

「夜天さん! あ、明日私は旭さんとパジャマパーティーをしてきます!」

 そう宣言されたら目眩がした。そんな報告、一々してくるなよと苛立った。付き合った時のことだって、本人はいつもより声のトーンを上げて、興奮気味に話した。
 パスタの話を時折混ぜながら、今度はお家に行くんですなんて言ってのけた。

 デートの先が夜天に対する旭の対抗心に思えたが、夕映が夜天に嬉しそうに話すこの状況を計算してのことならタチが悪いと頭を抱える。

「……よかったな」

 あの時はたった一言そう言って電話を切った。一緒になって喜んでやれるはずがなかった。

「パジャマパーティー、明日?」

「そうです! 旭さんがケーキを用意してくれるんですって!」

「ケーキって……んな、夜中に」

「明日だけ食べていい特別な日だよって」

 ふふっと嬉しそうな声。何度となくその声を目の前で聞いた。だから、今夕映がどんな表情をしているのかすぐに想像がつく。
 旭は男としか付き合ったことがない。だから女を抱いた経験もない。きっと明日に明日、手を出されることはないだろう。そうわかっていても、自分と同じように夕映を抱きしめて眠るくらいはするかもしれない。そう考えたら胸が張り裂けそうだった。

 あの夜、どんなに緊張したことか。どんなに我慢したことか。キスくらいしておけばよかったかな……なんてことまで考える。

「夜天さんと練習しておいてよかったです! いきなり旭さんとパジャマパーティーなんてしたら心臓止まっちゃう!」

「おい、俺は踏み台か……」

 自分で練習と題したものの、夕映から言われると納得がいかない。
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