236 / 253
傷が疼く
15
しおりを挟む
夜天はシャワーを浴びて、濡れた髪をフェイスタオルでゴシゴシと拭っていた。パーマをあてたミディアムヘアは、クルクルと綺麗な曲線を描いていた。
本日もギリギリまで仕事をしてきた。土曜日だというのに休日出勤までして。今頃旭と夕映が一緒に眠っているかと思ったら、余計なことを考えそうで早い帰宅などできなかった。
シャワーを浴びて寝るだけ。その態勢で帰宅した。明日の休日は何をして過ごそうかと考える。
洗面台には2本並んだ歯ブラシ。2週間前、夕映が泊まった時に置いていったもの。夕映がいた形跡が今も残っている。また使わせればいいと思って取っておいたのだ。しかし、夕映がそれを使うことはもうない。そうわかっていてもまだ処分できずにいた。
夕映は旭と明日1日ずっと一緒にいるつもりだろうかとふと考えて、大きく首を左右に振る。
ピチャッと髪についた水滴が腕や上半身裸の胸に飛び跳ねた。
目を細めてそれらをタオルで拭った時、部屋中に響く音でインターフォンが鳴った。ビクリと飛び上がる。誰だってこんな夜中に人が尋ねてくるとは思わない。
怪訝な顔をして画面を覗けば、自分の目を疑った。
パジャマ姿の夕映が立っていたのだ。行く家を間違えたのかと本気で思った。パジャマパーティーは旭の家でするはずだろっと顔をしかめた。
「……何してんの」
インターフォン越しにたったそれだけ言った。すぐに嗄れた声で「夜天さんにっ、会いたくて来ましたっ……」と答えた。
荒い画質のせいで鮮明には見えないが、声で明らかに泣いていることくらいはわかった。
「は!? お前、旭は?」
「……お別れしてきました」
「ちょ……マジかよ……。待ってろ」
夜天は慌ててTシャツを頭から被ると、濡れた髪もそのままに急いで部屋を出た。エレベーターを待つ時間がもどかしい。だからといって階段を降っていくには少々階数がありすぎた。
エントランスまで行くと、顔を涙でぐちゃぐちゃに濡らした夕映がちんまりと立っていた。つい今まで、寝ていましたと言わんばかりの姿に夜天は呆然とする。
「こんな格好で何してんだよ。旭と別れたってなんだ」
「夜天さんにっ、会いたくてっ……」
「あー……なら別れろって言ったの本気にしたのか? 嘘だって言ったろ? 旭の家まで送ってや」
「旭さんに送ってもらいました!」
「……は?」
夕映は、両手に下げていた荷物をその場にドサッと落とすと、そのまま夜天に抱きついた。
「おわっ……ちょ、夕映?」
ぎゅーっと胸の下辺りに頬を擦り寄せながら力強く腕を回した。夜天は置き場のない両手を軽く上げながら、その場で硬直した。
「旭さんのことは好きです……」
「うん、知ってる」
「でも、夜天さんに会えないのは嫌です」
「あのなぁ……だからってなにも旭と別れてこなくても」
「夜天さんの方が好きです……」
背中に回された手が、きゅっと夜天のTシャツを握りしめた。
本日もギリギリまで仕事をしてきた。土曜日だというのに休日出勤までして。今頃旭と夕映が一緒に眠っているかと思ったら、余計なことを考えそうで早い帰宅などできなかった。
シャワーを浴びて寝るだけ。その態勢で帰宅した。明日の休日は何をして過ごそうかと考える。
洗面台には2本並んだ歯ブラシ。2週間前、夕映が泊まった時に置いていったもの。夕映がいた形跡が今も残っている。また使わせればいいと思って取っておいたのだ。しかし、夕映がそれを使うことはもうない。そうわかっていてもまだ処分できずにいた。
夕映は旭と明日1日ずっと一緒にいるつもりだろうかとふと考えて、大きく首を左右に振る。
ピチャッと髪についた水滴が腕や上半身裸の胸に飛び跳ねた。
目を細めてそれらをタオルで拭った時、部屋中に響く音でインターフォンが鳴った。ビクリと飛び上がる。誰だってこんな夜中に人が尋ねてくるとは思わない。
怪訝な顔をして画面を覗けば、自分の目を疑った。
パジャマ姿の夕映が立っていたのだ。行く家を間違えたのかと本気で思った。パジャマパーティーは旭の家でするはずだろっと顔をしかめた。
「……何してんの」
インターフォン越しにたったそれだけ言った。すぐに嗄れた声で「夜天さんにっ、会いたくて来ましたっ……」と答えた。
荒い画質のせいで鮮明には見えないが、声で明らかに泣いていることくらいはわかった。
「は!? お前、旭は?」
「……お別れしてきました」
「ちょ……マジかよ……。待ってろ」
夜天は慌ててTシャツを頭から被ると、濡れた髪もそのままに急いで部屋を出た。エレベーターを待つ時間がもどかしい。だからといって階段を降っていくには少々階数がありすぎた。
エントランスまで行くと、顔を涙でぐちゃぐちゃに濡らした夕映がちんまりと立っていた。つい今まで、寝ていましたと言わんばかりの姿に夜天は呆然とする。
「こんな格好で何してんだよ。旭と別れたってなんだ」
「夜天さんにっ、会いたくてっ……」
「あー……なら別れろって言ったの本気にしたのか? 嘘だって言ったろ? 旭の家まで送ってや」
「旭さんに送ってもらいました!」
「……は?」
夕映は、両手に下げていた荷物をその場にドサッと落とすと、そのまま夜天に抱きついた。
「おわっ……ちょ、夕映?」
ぎゅーっと胸の下辺りに頬を擦り寄せながら力強く腕を回した。夜天は置き場のない両手を軽く上げながら、その場で硬直した。
「旭さんのことは好きです……」
「うん、知ってる」
「でも、夜天さんに会えないのは嫌です」
「あのなぁ……だからってなにも旭と別れてこなくても」
「夜天さんの方が好きです……」
背中に回された手が、きゅっと夜天のTシャツを握りしめた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
41
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる