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第八章 大戦。
軍議の前に。
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半世紀ぶりの対話を終えた我は起きていたエルフ女性達へ振り返る。
我を知っていた彼女達は最初怯えて動けなくなってしまう。今回はプルパら【大地の守り人】は連れてきていないので通信機を使いエルフェンに繋げた。
事情を伝え通信機を前に出してエルフェンからエルフ女性達に我が味方であるなどの言葉を掛けて宥めてもらうと半信半疑にまで落ち着いてくれた。
そこでだめ押し的に【異空間倉庫】からこの世界の果物をいくつか出して起きている者に手渡す。
ずっと眠らせれて魔力を奪われていたエルフ女性達は久しぶりの果物にかぶりつくように食べ始め涙を溢す。
先の中規模工場の時にも見たことがあるこの光景を前に我は一層カテジナとの決戦に向けて気持ちを改め繋いだままエルフェンに話した。
「エルフェン、つい先ほど我はカテジナと話した。」
『えっ!?あの子がそこにいたのか!』
通信機越しに伝えたことに驚くエルフェン。
本当はモニター越しに対話したのだけどもカテジナと話したことを伝えた。
『そう、か。もうカテジナは戻れないところまで堕ちたのだな。』
「うむ、故に我は覚悟を固めたぞ。対峙した時には一切の情を持たずにカテジナを討ち取る。」
『…わかった。でも頼みがある大魔将軍。その戦いには私も参加させてくれないか。』
エルフェンから出た参戦の意志に我はいいのかと聞き返す。
かつて共に魔王から世界を救う為に戦い抜いてきた仲間と対峙することに少なからず情が出てしまうことを懸念しての問いかけだったがエルフェンは間を作らずに言う。
「何十年あの勇者達と敵対してきたと思っている?カテジナが相手だろうとも私の矢に揺るぎはない…!」
意気込みを伝えてきたカテジナにいらぬ気遣いだったかと思えば我は無い鼻で笑ってからいいだろうと了承して通信を終え、次にシャッテンへと繋ぐ。
繋がったシャッテンに戦況を尋ねれば案の定被害は軽微の勝利を伝えてもらう。
敵兵士はほぼ壊滅、労働奴隷にされていた三種族の救出も成功し捕虜は工場本部前に集められていることをシャッテンは自慢気に語ってくれた。
『これもお前が何度も同じ指示をしてきたせいでありんす。おかげさまで無意識に行動してしまったわ。』
「それは上々ではないか。ちゃんと我の配下として成長している証だ。」
『ふん、そっちはどうだったんどす?ちゃんと魔血晶は見つけられたんかい?』
シャッテンの問いかけに特大サイズだぞと返してやれば彼女は喜んで分配の話をしてきた。
今回は我とシャッテンが同じところを攻めたとは言え大半は彼女が殲滅したので我が四のシャッテンが六で決定した。
分配を決めたところでシャッテンに大戦が待っていることを説明する。
『なんと!それはどれくらいの規模になると予想する大魔将軍!』
「うーむ、あのカテジナが豪語したのだ。単純な予想でもここの三倍から五倍はあると見た。」
何せカテジナが場所を指定した以上そこは最新鋭の防備が整っているはず。
対地だけでなく対空も用意され、さらに兵力も結集させるとあればお墨付きの堅牢な要塞になることだろう。
『くふふふ、それは行幸じゃな!その日はとても刺激的な一日となろうぞ!』
だがそんなことをシャッテンに伝えたら彼女は大層喜んでくれた。
シャッテンにとっては我以来の危機感覚える戦いが出来るという期待しか得られなかったのかもしれない。
…まあ、それは我も同じか。
復活してからここまで人間族との戦闘は手合わせ程度で終わらせてきたのでどうも物足りなさを感じていたから次の大戦では五割ぐらいは出させるレベルであって欲しいものだ。
もちろん闇雲に工場へ突撃することはしない。
しっかりプルパ達【大地の守り人】とも協議して軍を編成するとしよう。
「だから次の会議は絶対参加せよシャッテン。たまには場に顔を出しなさい。」
『うぐ…わかったでありんす。今回は従うことにいたしやす。』
我の指示に渋々返事をするシャッテン。
どうも話し合いの場でヒト族側から視線を受けるのが嫌になって適当な理由で逃げられているからだ。
それでは後々連絡にヒトと時間を使ってしまうから次の軍議には絶対参加してもらうことにした。
でも子ども達に注目されるのは嫌じゃなくなっただけ心の成長と言えるだろう。
「では地上の後処理は任せる。我は魔血晶とエルフ族を連れ出す。」
『ハイハイ、任されたでありんす。』
シャッテンとの通信を終えた我は果物でお腹を多少満たしたエルフ女性達に声を掛け地上に出る為に指示して動かす。
その後で我は魔血晶を倉庫に収納してから地上へと出た。
工場本部の方に目を向けるとまるで蜘蛛が獲物を捕らえるよう糸まみれに変わり果てていた。
多分中にいる人間族はこれで出るに出られなくなっただろうから後で降伏を勧告しておくとして我はムラクモを呼んでみる。
三回くらい呼び掛けるとタンダンッ!という音がしてから左側にムラクモが着地して姿を見せる。
「お呼びでしょうか大魔将軍様。」
「うむ、このエルフ族を収容施設まで運ぶのを手伝ってくれ。」
今回救出したエルフ女性は十数名に登るし、【大地の守り人】いないので半分は我が運びもう半分をムラクモの手を借りることにした。
我の命令にムラクモは了承すると尾からクリーム色っぽい糸を出し両手でまるで編み物をするかのようにだが高速に動かしていく。
体感五分もかからない内に小舟サイズの入れ物を作ってみせた。
「これに乗せて運びますので皆さんどうぞ来て下さい。」
そう言ってムラクモは出来上がった入れ物を地面に置く。
言われたことにエルフ女性達は拒否権がないと思っているのか入れるだけ入って見せる。
余ってしまったエルフ女性五名は我が拡張させた大盾に乗せることで全員とし小舟を担ぐムラクモを後ろに収容施設へと移動する。
左右で煙が上がっている建物を見ながら収容施設に着くとカマエとシャッテンの姿が見えた。
二体のすぐ近くにはシャッテンの影で拘束された人間族達と不安感いっぱいの様子でなるべく固まっている収容者達がいた。
「はっ!だ、大魔将軍!?」
「そんな!噂は本当だったの!?」
エルフ女性達と一緒に着陸してすぐに我の姿を見たエルフ族とドワーフ族から悲鳴が上がってしまう。
うーむ、今回は実験的に魔族のみで制圧してみたがこうもどよめきが起きては時間が増えてしまうから二、三人くらいは説得役として【大地の守り人】関係者を連れてくるべきだな。
「静まれヒト族ども!我らが大魔将軍様の御前であるぞ!」
カマエの一言で収容者達は静かになってくれたので我は自己紹介からの現状を説明してあげることにした。
その際に倉庫から【大地の守り人】の証である旗を取り出して見せながら分かりやすく丁寧に語る。
「…ということなので、この工場は我々連合軍が完全に制圧した。君達はもう自由だ。」
最後にそう言ってから連れてきたエルフ女性の一人に近寄り首にある拘束の魔導倶を人差し指で触れて簡単に外してみせる。
エイムのおかげで拘束倶の簡単な取り外し方法が解明した。
首輪に付与された隷属の魔法を闇属性で無効化させる仕組みで今では我一体でも出来るようになれた。
外されて地面に落ちた拘束倶を見てそのエルフ女性は感動で泣き崩れるのを横目に並べていた別の者も外してあげる。
とりあえず魔血晶の資材にされていたエルフ女性全員の首輪を外してから収容者側へと送ってあげる。
「さて、これで少しは信頼に値するか?外されたい者は我の前に出よ。」
結果を見せつけてから言えば獣人族の方が先に並んでくれた。
一人ずつ丁寧に外してあげると次にドワーフ族最後にエルフ族が並び立つ。
百は越える収容者達の隷属の魔導倶を全て外してあげる間に三種族は自由への喜びを分かち合う。
「後日【大地の守り人】を連れてくるのでしばらくはここに滞在してもらうことを許せ。」
最後の一人の魔導倶を外してから収容者達にそう告げる。
辛い日々を送ってきたこの工場からすぐにでも出たい気持ちの者がほとんどだろうがこれだけの人数をオサカの町や他に転移させるのは後回しだ。
なのでここはストレス解消を提案してあげることにしよう。
「では残党がいないか少し見回ってくる。そこにいる人間族は置いていくからどうぞご自由に。」
ふわりと浮いて高度を上げながら収容者達に言うと血気盛んな者達は目の色を変えて拘束された人間族を見た。
その反応を見て我はシャッテンに見張りを命じカマエとムラクモを連れてその場を後にした。
軽く工場全体を見回すつもりで早歩きくらいの速度を維持しながら飛び顔を左右に動かす。
道路の所々に戦闘の跡と両軍の遺体が見えてくるとため息が漏れる。
わかってはいても戦闘の犠牲を見ると心が痛む。アンデッド系ならまだしもカマエとムラクモが率いてくれた昆虫系魔族は我の為に死を覚悟して攻め入ってくれたのだから感謝しかない。
昆虫系魔族の遺体は全て工場のすぐ近くに移動させてから埋葬すると決めているのでこれが済んだら取りかかるとしよう。
などと考えていれば工場本部近くまで着く。
ラディソンの死体はそのままでおりムラクモに捕らえられた女性神官らは首から下を糸でぐるぐる巻きにされて一ヶ所に集められている。
「中にいる人間族はいかが致しますか?」
「ふむ、そうだな。出入口の糸を取り除け。我が済ませてくる。」
ムラクモの問いかけにそう言って出入口を開かせると万が一を考えて二体を玄関前に待機させると我は中に侵入する。
入ってすぐに初級魔法の出迎えがあったが【漆黒の障壁】で防ぎすぐに反撃して警備兵を蹴散らす。
建物の構造はもう解析済みなので我は受付のところまで移動してから大盾を槍に変形させて真上に飛んだ。
迫る天井を槍で次々に破壊していき最上階の工場長の事務室まで昇ってみせる。
突然床下から現れたこちらに驚く数名の人間族を前に我は着地する。
「人間族よ、我は大魔将軍である。この工場は制圧した。潔く降伏せよ。さもなければ、全員虫の餌にしてやるぞ。」
魔力の揺らぎを見せつけ圧のある言い方で伝えてみて反応を待った。
その結果、たくさんの書類を詰め込んだ鞄を片手に我一体で建物から出るという形になった。
「中に入れる者を使って死体を出しておけ。建物は利用できるかもしれないからなるべく壊すな。」
カマエとムラクモにそう指示して現場の後始末を任せる。
自分で床を破壊しておいて言うのは矛盾を感じるがまあ勘弁してくれ。
工場本部の制圧を終えたし作業指示も終えたので向こうのプルパ達の現状が知りたくなったのでオガコに【念間話術】を使った。
『あ!どうしたんだい親分?』
「うむ、こっちは制圧したのでな、そちらの戦況を聞きたい。」
我の問いかけにオガコは笑って勝利を報告してくれた。
収容者も魔血晶も無事に獲得し敵は殲滅してオガコが自然の養分にしてくれたらしい。
おかげで工場には不釣り合いな林が生まれて緑が広がっているのだとか。
『これから収容者達を腹いっぱい食わせてやるところでさ。食糧を探し回ってから祝杯するつもりだぜ!』
「そうかそうか。プルパらにもよくやったと伝えてくれ。後で我が向かうこともだ。」
勝利したことを誉めてあげてからプルパの伝言を頼むと通話を終えて横を見る。
我がぶっ飛ばしたカイという騎士が突っ込んだ小屋に視線を向けると何かを感じた気がした。
我はその何かを確かめる為に小屋へ歩み寄ると空いた穴から覗き見る。
しかしそこにあるはずのカイの死体が無かった。
鎧を破壊した手応えはあったから相当なダメージのはずなので後ろにいるカマエとムラクモに死体の回収をしたのか尋ねてみた。
答えはノーだ。ラディソンの死体が残っているし、捕獲した女性神官達もそのままなのでカイの死体も残っているはずだ。
でもカイの死体が無い。というか突っ込んだ跡だけを残して姿を消した。
「そういえば、少し前にそこで光が見えたと連絡がありました。」
ムラクモから出た報告、そして跡から僅かに感じる光属性の残照から一つの可能性が出来た。
この世界にある様々な消費系アイテムの中でも稀少価値のある短距離転移を可能とさせる石、[光の逃石]。
使用すると石は砕けて強い光を発して包まれその場から半径数キロメートルあたりの記憶している何処かへと転移するまさに緊急時に使われる為のアイテムだ。
まさか防衛に来ていたロサリオ騎士団が洞窟や遺跡に向かう冒険者の最終手段を持っていたとは予想してなかったが負傷した状態で使っても効果は薄い。
[光の逃石]は歩けるまでの軽傷までで使用するのが前提だ。
重傷の状態で使ったところで一時的に危険から逃げた程度にしかならない。
それとも我の攻撃を致命傷にさせないスキルを使っていたのだろうか?
ともかく逃げられたとしても遠くには行っていない。
「工場周辺に一人逃げた。手分けして探せ。ただし生きていたら捕らえてこい。」
振り返ってカマエとムラクモに命令してやれば返事をしてから素早く動き出した。
我を知っていた彼女達は最初怯えて動けなくなってしまう。今回はプルパら【大地の守り人】は連れてきていないので通信機を使いエルフェンに繋げた。
事情を伝え通信機を前に出してエルフェンからエルフ女性達に我が味方であるなどの言葉を掛けて宥めてもらうと半信半疑にまで落ち着いてくれた。
そこでだめ押し的に【異空間倉庫】からこの世界の果物をいくつか出して起きている者に手渡す。
ずっと眠らせれて魔力を奪われていたエルフ女性達は久しぶりの果物にかぶりつくように食べ始め涙を溢す。
先の中規模工場の時にも見たことがあるこの光景を前に我は一層カテジナとの決戦に向けて気持ちを改め繋いだままエルフェンに話した。
「エルフェン、つい先ほど我はカテジナと話した。」
『えっ!?あの子がそこにいたのか!』
通信機越しに伝えたことに驚くエルフェン。
本当はモニター越しに対話したのだけどもカテジナと話したことを伝えた。
『そう、か。もうカテジナは戻れないところまで堕ちたのだな。』
「うむ、故に我は覚悟を固めたぞ。対峙した時には一切の情を持たずにカテジナを討ち取る。」
『…わかった。でも頼みがある大魔将軍。その戦いには私も参加させてくれないか。』
エルフェンから出た参戦の意志に我はいいのかと聞き返す。
かつて共に魔王から世界を救う為に戦い抜いてきた仲間と対峙することに少なからず情が出てしまうことを懸念しての問いかけだったがエルフェンは間を作らずに言う。
「何十年あの勇者達と敵対してきたと思っている?カテジナが相手だろうとも私の矢に揺るぎはない…!」
意気込みを伝えてきたカテジナにいらぬ気遣いだったかと思えば我は無い鼻で笑ってからいいだろうと了承して通信を終え、次にシャッテンへと繋ぐ。
繋がったシャッテンに戦況を尋ねれば案の定被害は軽微の勝利を伝えてもらう。
敵兵士はほぼ壊滅、労働奴隷にされていた三種族の救出も成功し捕虜は工場本部前に集められていることをシャッテンは自慢気に語ってくれた。
『これもお前が何度も同じ指示をしてきたせいでありんす。おかげさまで無意識に行動してしまったわ。』
「それは上々ではないか。ちゃんと我の配下として成長している証だ。」
『ふん、そっちはどうだったんどす?ちゃんと魔血晶は見つけられたんかい?』
シャッテンの問いかけに特大サイズだぞと返してやれば彼女は喜んで分配の話をしてきた。
今回は我とシャッテンが同じところを攻めたとは言え大半は彼女が殲滅したので我が四のシャッテンが六で決定した。
分配を決めたところでシャッテンに大戦が待っていることを説明する。
『なんと!それはどれくらいの規模になると予想する大魔将軍!』
「うーむ、あのカテジナが豪語したのだ。単純な予想でもここの三倍から五倍はあると見た。」
何せカテジナが場所を指定した以上そこは最新鋭の防備が整っているはず。
対地だけでなく対空も用意され、さらに兵力も結集させるとあればお墨付きの堅牢な要塞になることだろう。
『くふふふ、それは行幸じゃな!その日はとても刺激的な一日となろうぞ!』
だがそんなことをシャッテンに伝えたら彼女は大層喜んでくれた。
シャッテンにとっては我以来の危機感覚える戦いが出来るという期待しか得られなかったのかもしれない。
…まあ、それは我も同じか。
復活してからここまで人間族との戦闘は手合わせ程度で終わらせてきたのでどうも物足りなさを感じていたから次の大戦では五割ぐらいは出させるレベルであって欲しいものだ。
もちろん闇雲に工場へ突撃することはしない。
しっかりプルパ達【大地の守り人】とも協議して軍を編成するとしよう。
「だから次の会議は絶対参加せよシャッテン。たまには場に顔を出しなさい。」
『うぐ…わかったでありんす。今回は従うことにいたしやす。』
我の指示に渋々返事をするシャッテン。
どうも話し合いの場でヒト族側から視線を受けるのが嫌になって適当な理由で逃げられているからだ。
それでは後々連絡にヒトと時間を使ってしまうから次の軍議には絶対参加してもらうことにした。
でも子ども達に注目されるのは嫌じゃなくなっただけ心の成長と言えるだろう。
「では地上の後処理は任せる。我は魔血晶とエルフ族を連れ出す。」
『ハイハイ、任されたでありんす。』
シャッテンとの通信を終えた我は果物でお腹を多少満たしたエルフ女性達に声を掛け地上に出る為に指示して動かす。
その後で我は魔血晶を倉庫に収納してから地上へと出た。
工場本部の方に目を向けるとまるで蜘蛛が獲物を捕らえるよう糸まみれに変わり果てていた。
多分中にいる人間族はこれで出るに出られなくなっただろうから後で降伏を勧告しておくとして我はムラクモを呼んでみる。
三回くらい呼び掛けるとタンダンッ!という音がしてから左側にムラクモが着地して姿を見せる。
「お呼びでしょうか大魔将軍様。」
「うむ、このエルフ族を収容施設まで運ぶのを手伝ってくれ。」
今回救出したエルフ女性は十数名に登るし、【大地の守り人】いないので半分は我が運びもう半分をムラクモの手を借りることにした。
我の命令にムラクモは了承すると尾からクリーム色っぽい糸を出し両手でまるで編み物をするかのようにだが高速に動かしていく。
体感五分もかからない内に小舟サイズの入れ物を作ってみせた。
「これに乗せて運びますので皆さんどうぞ来て下さい。」
そう言ってムラクモは出来上がった入れ物を地面に置く。
言われたことにエルフ女性達は拒否権がないと思っているのか入れるだけ入って見せる。
余ってしまったエルフ女性五名は我が拡張させた大盾に乗せることで全員とし小舟を担ぐムラクモを後ろに収容施設へと移動する。
左右で煙が上がっている建物を見ながら収容施設に着くとカマエとシャッテンの姿が見えた。
二体のすぐ近くにはシャッテンの影で拘束された人間族達と不安感いっぱいの様子でなるべく固まっている収容者達がいた。
「はっ!だ、大魔将軍!?」
「そんな!噂は本当だったの!?」
エルフ女性達と一緒に着陸してすぐに我の姿を見たエルフ族とドワーフ族から悲鳴が上がってしまう。
うーむ、今回は実験的に魔族のみで制圧してみたがこうもどよめきが起きては時間が増えてしまうから二、三人くらいは説得役として【大地の守り人】関係者を連れてくるべきだな。
「静まれヒト族ども!我らが大魔将軍様の御前であるぞ!」
カマエの一言で収容者達は静かになってくれたので我は自己紹介からの現状を説明してあげることにした。
その際に倉庫から【大地の守り人】の証である旗を取り出して見せながら分かりやすく丁寧に語る。
「…ということなので、この工場は我々連合軍が完全に制圧した。君達はもう自由だ。」
最後にそう言ってから連れてきたエルフ女性の一人に近寄り首にある拘束の魔導倶を人差し指で触れて簡単に外してみせる。
エイムのおかげで拘束倶の簡単な取り外し方法が解明した。
首輪に付与された隷属の魔法を闇属性で無効化させる仕組みで今では我一体でも出来るようになれた。
外されて地面に落ちた拘束倶を見てそのエルフ女性は感動で泣き崩れるのを横目に並べていた別の者も外してあげる。
とりあえず魔血晶の資材にされていたエルフ女性全員の首輪を外してから収容者側へと送ってあげる。
「さて、これで少しは信頼に値するか?外されたい者は我の前に出よ。」
結果を見せつけてから言えば獣人族の方が先に並んでくれた。
一人ずつ丁寧に外してあげると次にドワーフ族最後にエルフ族が並び立つ。
百は越える収容者達の隷属の魔導倶を全て外してあげる間に三種族は自由への喜びを分かち合う。
「後日【大地の守り人】を連れてくるのでしばらくはここに滞在してもらうことを許せ。」
最後の一人の魔導倶を外してから収容者達にそう告げる。
辛い日々を送ってきたこの工場からすぐにでも出たい気持ちの者がほとんどだろうがこれだけの人数をオサカの町や他に転移させるのは後回しだ。
なのでここはストレス解消を提案してあげることにしよう。
「では残党がいないか少し見回ってくる。そこにいる人間族は置いていくからどうぞご自由に。」
ふわりと浮いて高度を上げながら収容者達に言うと血気盛んな者達は目の色を変えて拘束された人間族を見た。
その反応を見て我はシャッテンに見張りを命じカマエとムラクモを連れてその場を後にした。
軽く工場全体を見回すつもりで早歩きくらいの速度を維持しながら飛び顔を左右に動かす。
道路の所々に戦闘の跡と両軍の遺体が見えてくるとため息が漏れる。
わかってはいても戦闘の犠牲を見ると心が痛む。アンデッド系ならまだしもカマエとムラクモが率いてくれた昆虫系魔族は我の為に死を覚悟して攻め入ってくれたのだから感謝しかない。
昆虫系魔族の遺体は全て工場のすぐ近くに移動させてから埋葬すると決めているのでこれが済んだら取りかかるとしよう。
などと考えていれば工場本部近くまで着く。
ラディソンの死体はそのままでおりムラクモに捕らえられた女性神官らは首から下を糸でぐるぐる巻きにされて一ヶ所に集められている。
「中にいる人間族はいかが致しますか?」
「ふむ、そうだな。出入口の糸を取り除け。我が済ませてくる。」
ムラクモの問いかけにそう言って出入口を開かせると万が一を考えて二体を玄関前に待機させると我は中に侵入する。
入ってすぐに初級魔法の出迎えがあったが【漆黒の障壁】で防ぎすぐに反撃して警備兵を蹴散らす。
建物の構造はもう解析済みなので我は受付のところまで移動してから大盾を槍に変形させて真上に飛んだ。
迫る天井を槍で次々に破壊していき最上階の工場長の事務室まで昇ってみせる。
突然床下から現れたこちらに驚く数名の人間族を前に我は着地する。
「人間族よ、我は大魔将軍である。この工場は制圧した。潔く降伏せよ。さもなければ、全員虫の餌にしてやるぞ。」
魔力の揺らぎを見せつけ圧のある言い方で伝えてみて反応を待った。
その結果、たくさんの書類を詰め込んだ鞄を片手に我一体で建物から出るという形になった。
「中に入れる者を使って死体を出しておけ。建物は利用できるかもしれないからなるべく壊すな。」
カマエとムラクモにそう指示して現場の後始末を任せる。
自分で床を破壊しておいて言うのは矛盾を感じるがまあ勘弁してくれ。
工場本部の制圧を終えたし作業指示も終えたので向こうのプルパ達の現状が知りたくなったのでオガコに【念間話術】を使った。
『あ!どうしたんだい親分?』
「うむ、こっちは制圧したのでな、そちらの戦況を聞きたい。」
我の問いかけにオガコは笑って勝利を報告してくれた。
収容者も魔血晶も無事に獲得し敵は殲滅してオガコが自然の養分にしてくれたらしい。
おかげで工場には不釣り合いな林が生まれて緑が広がっているのだとか。
『これから収容者達を腹いっぱい食わせてやるところでさ。食糧を探し回ってから祝杯するつもりだぜ!』
「そうかそうか。プルパらにもよくやったと伝えてくれ。後で我が向かうこともだ。」
勝利したことを誉めてあげてからプルパの伝言を頼むと通話を終えて横を見る。
我がぶっ飛ばしたカイという騎士が突っ込んだ小屋に視線を向けると何かを感じた気がした。
我はその何かを確かめる為に小屋へ歩み寄ると空いた穴から覗き見る。
しかしそこにあるはずのカイの死体が無かった。
鎧を破壊した手応えはあったから相当なダメージのはずなので後ろにいるカマエとムラクモに死体の回収をしたのか尋ねてみた。
答えはノーだ。ラディソンの死体が残っているし、捕獲した女性神官達もそのままなのでカイの死体も残っているはずだ。
でもカイの死体が無い。というか突っ込んだ跡だけを残して姿を消した。
「そういえば、少し前にそこで光が見えたと連絡がありました。」
ムラクモから出た報告、そして跡から僅かに感じる光属性の残照から一つの可能性が出来た。
この世界にある様々な消費系アイテムの中でも稀少価値のある短距離転移を可能とさせる石、[光の逃石]。
使用すると石は砕けて強い光を発して包まれその場から半径数キロメートルあたりの記憶している何処かへと転移するまさに緊急時に使われる為のアイテムだ。
まさか防衛に来ていたロサリオ騎士団が洞窟や遺跡に向かう冒険者の最終手段を持っていたとは予想してなかったが負傷した状態で使っても効果は薄い。
[光の逃石]は歩けるまでの軽傷までで使用するのが前提だ。
重傷の状態で使ったところで一時的に危険から逃げた程度にしかならない。
それとも我の攻撃を致命傷にさせないスキルを使っていたのだろうか?
ともかく逃げられたとしても遠くには行っていない。
「工場周辺に一人逃げた。手分けして探せ。ただし生きていたら捕らえてこい。」
振り返ってカマエとムラクモに命令してやれば返事をしてから素早く動き出した。
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