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5日目 トキメキはBL本の中に!?
7ー2
しおりを挟む「おーい、颯~。開けてくれよ~」
そこに写っていたのは、全身真っ黒のスーツに身を包んだ翔が立っていた。
「アイツ、なんで……!」
咄嗟に後ろを振り返ると、悠人は肩を竦めて立ち上がり、玄関へ向かっていった。
颯も急いで後を追いかける。
「よぉ、悠人!」
「ども」
「翔、朝からどうしたんだ?」
昨夜の出来事は初めからなかったように振る舞う翔に困惑しつつ出迎えた。
そんな様子を気にもせず、翔はさっさと靴を脱ぎ捨て上がり込んだ。
「オイ、待てよ翔!」
「硬い事言うなよ。今日はちゃんとプレゼントも持ってきたんだぜ!」
「プレゼント?」
翔は片手にぶら下げていた茶色の紙袋を颯の胸に突きつけた。
颯の後ろから覗き込む悠人と共に袋を開いて中を見ると、入っていたのは手錠にムチ、目隠しと怪しい品物ばかりだった。
「お前ら刺激が足りないみたいだからさ、こうして俺がプレゼントを持ってきたんだぜ!どうだ、嬉しいだろ!」
胸を張って威張る翔と、コイツは何を言っているんだと引いた目で見る颯との温度差は明らかだ。
颯はテーブルに置いてあったスマホを取り、器用に片手で操作して画面を悠人に見せて言った。
「悠人ー、警察って110番?119番だっけ?」
「どっちも呼べばいいと思うよ」
「待て待て待てぃ!!!」
すかさず突っ込みを入れる翔は、颯の背を力強く叩いた。
「それで?朝から何の用なの?」
悠人は壁にもたれ掛かり確認した。
翔はそうだったと手を叩いて片手を出し、可愛さを狙ったのか小首を傾げて上目がちに悠人を見つめて言った。
「連絡先、教えて?」
昨夜に続き今日は朝からやって来た翔は本気だ。
ホスト人生がかかった大事な局面、絶対に引けないという強い意思を感じる瞳だった。
悠人と翔は暫く見つめ合い、室内はピリピリとした空気に包まれた。
最終的に折れたのは悠人で、自分の財布から一枚の紙を取り出して翔に渡した。
「これ、タカちゃんの名刺。勝手に連絡先は教えられないけど、店の名刺なら紹介って事で済むから」
名刺を受け取った翔は、目の高さまで上げて瞳を輝かせた。
大事そうに名刺を胸ポケットにしまい、朝からしっかりとセットされた髪を掻き上げて真っ白な歯を見せ笑う翔を、親友として何とも言えない気持ちで見ていた。
「ありがとな、悠人。じゃあ俺はこれで帰るぜ!この後は俺からのプレゼントで楽しんでくれよ。アディオス!」
貰うものを貰った翔は、もう用無しだとでも言うようにさっさと部屋を出ていった。
まるで嵐のように去って行った翔に残された二人はぽかんとしていたが、ふと目が合うと笑いが込み上げて、腹を抱えて笑ってしまった。
「翔に教えてよかったのか?」
大事な同伴がかかっている。翔は必ず貴史の店に行くと確信がある颯は、昨夜まで嫌がっていた悠人に真意を尋ねた。
腕を組んでうーんと唸った悠人だが、あっけらかんと明るい声で言った。
「昨日は暴走気味だったけど、タカちゃんはしっかりしてるから大丈夫だよ」
「翔を追いかけて尾行する手段もあるよ?」
「いいよ。翔先輩だっていい大人なんだし、そこは理解してるでしょ」
「だといいんだけどな……」
以前の翔なら問題ないが、急に変わってしまった親友が何を起こすか見当もつかない颯は、大丈夫だとは言い切れなかった。
それでも悠人がいいと言うなら、強引に押し通して尾行するわけにもいかない。
気が気でない颯は、窓ガラスに張りつきどこにも見えない翔の姿を探した。
「それより颯ちゃん。それ、いつまで持ってんの?」
悠人の声に振り向いて指を差す先を追いかけると、颯はギョッとした。
翔に押しつけられた怪しい道具が入った紙袋を持ったままだったからだ。
次会った時に必ず帰そうと、紙袋は玄関のシューズケースの上に置いた。
トキメキを探していてムチや目隠しとは、一体何をどう考えたらそうなるのかと思いながら、折角だからと買ったばかりのBL漫画をおまけとして紙袋に入れておく事にした。
リビングに戻り、壁掛け時計を確認する。
これから出掛けるには、遠出もまだ十分に出来る時間だ。
「悠人ー、今日はどうする?」
洗い物をしている悠人は水を止めてタオルで手を拭うと、ニヤニヤとしてダイニングテーブルに、ケースに入ったトランプを置いた。
「トランプ?」
首を傾げて椅子に腰掛けた。
「お家デートっていう素敵な文化があるんでしょ?今日はゆっくりしよ」
「それでトランプか!確かジェンガもあったよな?」
インドア派の颯は、待望のお家デートに弾んだ声で言った。
席を立って寝室のクローゼットを漁り、お目当てのジェンガを探し始める。
引っ越してきてから箱に入れてそのままになっていた。
ジェンガが入った箱はすっかり埃を被っていて、長い間使われていないものだと分かる。
「あった!今日はゲーム祭りだな!」
トランプとジェンガを並べて満足げな颯を見つめ、悠人は困ったように笑った。
「折角だから、賭けをしようよ」
「いいぞ!昼飯か?」
「今日はお家デートだから、外に出ない事で。夜のテレビ番組なんてどう?颯ちゃんはお笑いがいいんだろ?俺は事件・事故24時がいい!」
「よし、やるか!絶対負けねぇ!!」
こうして二人の負けられない暑苦しい闘いは、夕方まで続いたのだった。
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