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じぇっと
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俺達は屋外へ出た後敷地内を移動するための車に乗り込む。車と言ってもゴルフ場を回るためのような小さなものだ。この大きさと形なら俺は何も思い出さない。
「うわ、噴水あるじゃないですか。この間散歩した庭ってなんだったんですか? この綺麗な庭園をなんで見せてくれなかったんですか」
美しい噴水にとりどりの花達、苦手な爬虫類などよりこちらを見たかった。
「……ワニの方見せたかったんだもん。餌やりとかしたいかなって。ほら、ポチ昔飼育委員だったんでしょ?」
「中学の頃をなんで知ってるんですか、とはもう聞きませんよ。あれで世話してたの兎と鶏です、ワニなんか生で見たこともありませんでしたよ」
他愛ない話をしていると知らぬ間に庭を抜ける。途端に道に凹凸が増え、俺はタイヤからシートに伝わった振動にローターを揺らされ、会話を途切れさせた。
「……ポチ? どうしたの? 酔った?」
「揺れでっ……中の、コツコツしてて……」
「あぁ、動かす?」
俺は口を閉ざし、雪兎の両手を握り締めた。雪兎は頬を薄紅に染め、俺の膝の上に乗る。リモコンは鞄の中だしローターをどうこうよりも俺に甘える方を優先しているしで俺が危惧している状況にはなりそうもないが、雪兎が膝の上に居るというのも中々に刺激的だ。
雪兎を抱き締めて髪や耳の後ろの匂いを堪能していると不意に車が止まる。目的地に着いたらしい。
「……は?」
扉のない車を降り、顔を上げると目の前には飛行機があった。と言っても旅客機ほどの大きさではない、しかし軽飛行機ほど小さくもない。
「なんですか、これ」
「雪風のビジネスジェット。年号変わったとかでしばらく国内の仕事ばっかりだって貸してくれたんだ」
「えっ年号変わったんですか? 持ち飛行機ってことですか!? 家の!? えっちょっ……新年号なんですか!?」
「その顔が見たかったんだ。ほら、乗って乗って」
雪兎は困惑する俺を置いてタラップを登る。その後を追って機内に入る……広い、感想はそれ以外出てこない。
「……何人乗れるんですか?」
「十六人……だっけ?」
雪兎はいつの間にか背後に立っていた男に視線をやる。
「はい、私共を含めまして十八人」
「乗るの久しぶりだなぁ。今日と二週間後、よろしくね」
「はい、責任を持ってお送りさせていただきます」
パイロットだろうか……男は扉をくぐって運転席らしき場所に移った。
「ほらほら、座って座って。シートベルト締めて。あ、荷物は適当に置いて。安定したら拾うから」
雪兎に言われるがままに席に座り、足元に鞄を置いて持ち手に足を通した。
「おっけーでーす。どうぞー」
向かいに座った雪兎は壁に取り付けられていたマイクにそう声をかけた。
「…………うわ、動いてる動いてる動いてるっ!」
「飛行機くらい乗ったことあるでしょ?」
窓の外を見て騒ぐ俺に対し、雪兎は冷静に席の間に設置された冷蔵庫を漁りながらそう言った。
「いや旅客機しか乗ったことありませんし……」
景色が傾く。地面を離れたのだ。
「あっみかん! みかんーっ!」
冷蔵庫の中身、冷凍みかんが床を転がる。
「みかん……」
「安定するまでそういうのは我慢するもんじゃないんですか?」
「僕の、みかん……」
「拾えばいいじゃないですか。皮剥きますし食べれますよ」
「みかん……」
みかん数個で放心する奴なんて見た事がない。俺はぼーっとみかんを眺める雪兎を慰めるのを諦め、開きっぱなしの冷蔵庫の扉を閉じた。
「うわ、噴水あるじゃないですか。この間散歩した庭ってなんだったんですか? この綺麗な庭園をなんで見せてくれなかったんですか」
美しい噴水にとりどりの花達、苦手な爬虫類などよりこちらを見たかった。
「……ワニの方見せたかったんだもん。餌やりとかしたいかなって。ほら、ポチ昔飼育委員だったんでしょ?」
「中学の頃をなんで知ってるんですか、とはもう聞きませんよ。あれで世話してたの兎と鶏です、ワニなんか生で見たこともありませんでしたよ」
他愛ない話をしていると知らぬ間に庭を抜ける。途端に道に凹凸が増え、俺はタイヤからシートに伝わった振動にローターを揺らされ、会話を途切れさせた。
「……ポチ? どうしたの? 酔った?」
「揺れでっ……中の、コツコツしてて……」
「あぁ、動かす?」
俺は口を閉ざし、雪兎の両手を握り締めた。雪兎は頬を薄紅に染め、俺の膝の上に乗る。リモコンは鞄の中だしローターをどうこうよりも俺に甘える方を優先しているしで俺が危惧している状況にはなりそうもないが、雪兎が膝の上に居るというのも中々に刺激的だ。
雪兎を抱き締めて髪や耳の後ろの匂いを堪能していると不意に車が止まる。目的地に着いたらしい。
「……は?」
扉のない車を降り、顔を上げると目の前には飛行機があった。と言っても旅客機ほどの大きさではない、しかし軽飛行機ほど小さくもない。
「なんですか、これ」
「雪風のビジネスジェット。年号変わったとかでしばらく国内の仕事ばっかりだって貸してくれたんだ」
「えっ年号変わったんですか? 持ち飛行機ってことですか!? 家の!? えっちょっ……新年号なんですか!?」
「その顔が見たかったんだ。ほら、乗って乗って」
雪兎は困惑する俺を置いてタラップを登る。その後を追って機内に入る……広い、感想はそれ以外出てこない。
「……何人乗れるんですか?」
「十六人……だっけ?」
雪兎はいつの間にか背後に立っていた男に視線をやる。
「はい、私共を含めまして十八人」
「乗るの久しぶりだなぁ。今日と二週間後、よろしくね」
「はい、責任を持ってお送りさせていただきます」
パイロットだろうか……男は扉をくぐって運転席らしき場所に移った。
「ほらほら、座って座って。シートベルト締めて。あ、荷物は適当に置いて。安定したら拾うから」
雪兎に言われるがままに席に座り、足元に鞄を置いて持ち手に足を通した。
「おっけーでーす。どうぞー」
向かいに座った雪兎は壁に取り付けられていたマイクにそう声をかけた。
「…………うわ、動いてる動いてる動いてるっ!」
「飛行機くらい乗ったことあるでしょ?」
窓の外を見て騒ぐ俺に対し、雪兎は冷静に席の間に設置された冷蔵庫を漁りながらそう言った。
「いや旅客機しか乗ったことありませんし……」
景色が傾く。地面を離れたのだ。
「あっみかん! みかんーっ!」
冷蔵庫の中身、冷凍みかんが床を転がる。
「みかん……」
「安定するまでそういうのは我慢するもんじゃないんですか?」
「僕の、みかん……」
「拾えばいいじゃないですか。皮剥きますし食べれますよ」
「みかん……」
みかん数個で放心する奴なんて見た事がない。俺はぼーっとみかんを眺める雪兎を慰めるのを諦め、開きっぱなしの冷蔵庫の扉を閉じた。
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