267 / 667
おしろ、さん
しおりを挟む
雪兎の赤紫の瞳は微かに震えている。そんな目と高さを合わせ、顔を傾けて自分の耳を指差した。雪兎は男の方を不安そうに見上げた後、俺の耳に口を近付け、口元を手で隠して囁いた。
「車……違う」
「同じに見えますけど」
いつも乗っている車はどれも同じメーカーのものだ。傘下の会社のものらしいが詳しくは知らない。
「……うちに回してるの特別製だから、もっと窓とかドアとか分厚いの。ナンバープレートも分かりにくいけど印あるし……それに、あの人……徽章がない」
黒いスーツの男だとしか認識していなかった、徽章なんてあっただろうか。だが、不審だということは分かった。
立ち上がり、今度は男の目を見つめる。
「すいません、ユキ様歩いて帰りたいみたいで……」
「いけません、危険ですからお乗り下さい」
「ですってユキ様。さ、俺がだっこして乗せてあげますよー」
「……ポチ? ダ、ダメ! なんかっ……なんかおかしい!」
「なーんにもおかしくありません、お迎えの人にそんなこと言っちゃダメじゃないですか。すいませんねホント」
雪兎を無理矢理横抱きにし、男に軽い会釈をして微笑む。所謂お姫様抱っこにされた雪兎は俺の襟を引っ張って首を振っている。
「さ……乗りましょ」
「ええ、どうぞ雪兎様」
男の前に立ち、じっと目を合わせる。微笑みを返した男の脛を思いっ切り蹴り付け、踵を返して古城の方へ走った。
「ユキ様! 本っ当におかしいんでしょうね! 知りませんよ蹴っちゃいましたよ俺!」
「ポチ……信じてくれてたの?」
「もし誘拐とかだったらおかしいおかしい全面に出したら向こうも警戒するでしょ! ちゃんと考えて行動してんですよポチは!」
向こうは車だ、走って逃げることは出来ない。最悪轢かれる。だから車が入れない場所に、狭く人が多い古城の敷地内に入る。
『入場券を……』
「ごめん後で倍払う!」
『あっちょっと!』
受け付けを抜けて人混みに紛れれば警備員にも追われない。いや、警備員に保護を頼んだ方が良かったか?
「ユキ様、ぼーっとしてないでおっさんに電話してくださいよ」
「ぁ、う、うん……ポチ凄いね、僕だっこして走ってるのに……すごく速い……」
「ユキ様が軽いんですよ、一人で走ってる気分です。あ、後ろ見てくれません? 誰か来てます?」
「誰も来てないよ……うん、来てない」
俺の首にしっかりと腕を回し、必死に首を伸ばして背後を確認する雪兎は何だか可愛らしい。
「じゃ、この辺で一旦隠れますか」
古城には夜は開放されていない庭園がある。普通なら入ることは出来ないが、こっそりと見学の道を逸れて背の低い柵を二つ飛び越えれば容易に侵入が可能だ。
花を折り花を散らし、茂みの中に身を隠す。雪兎の白い髪は夜も目立つ、俺はパーカーを脱いで雪兎に頭から被せた。
「紺色なら少しはマシでしょ」
「……ありがと、ポチ。寒くない?」
「肌着は着てますし、走りましたから暑いくらいですよ」
嘘だ、かなり寒い。ただでさえ昨晩びしょ濡れのまま放置されたり冷水を浴びせられたり入れられたりで風邪気味なのに……帰国までには確実に風邪をひく。
申し訳なさそうに俺を見上げる雪兎を抱き寄せ、暖を取った。
「車……違う」
「同じに見えますけど」
いつも乗っている車はどれも同じメーカーのものだ。傘下の会社のものらしいが詳しくは知らない。
「……うちに回してるの特別製だから、もっと窓とかドアとか分厚いの。ナンバープレートも分かりにくいけど印あるし……それに、あの人……徽章がない」
黒いスーツの男だとしか認識していなかった、徽章なんてあっただろうか。だが、不審だということは分かった。
立ち上がり、今度は男の目を見つめる。
「すいません、ユキ様歩いて帰りたいみたいで……」
「いけません、危険ですからお乗り下さい」
「ですってユキ様。さ、俺がだっこして乗せてあげますよー」
「……ポチ? ダ、ダメ! なんかっ……なんかおかしい!」
「なーんにもおかしくありません、お迎えの人にそんなこと言っちゃダメじゃないですか。すいませんねホント」
雪兎を無理矢理横抱きにし、男に軽い会釈をして微笑む。所謂お姫様抱っこにされた雪兎は俺の襟を引っ張って首を振っている。
「さ……乗りましょ」
「ええ、どうぞ雪兎様」
男の前に立ち、じっと目を合わせる。微笑みを返した男の脛を思いっ切り蹴り付け、踵を返して古城の方へ走った。
「ユキ様! 本っ当におかしいんでしょうね! 知りませんよ蹴っちゃいましたよ俺!」
「ポチ……信じてくれてたの?」
「もし誘拐とかだったらおかしいおかしい全面に出したら向こうも警戒するでしょ! ちゃんと考えて行動してんですよポチは!」
向こうは車だ、走って逃げることは出来ない。最悪轢かれる。だから車が入れない場所に、狭く人が多い古城の敷地内に入る。
『入場券を……』
「ごめん後で倍払う!」
『あっちょっと!』
受け付けを抜けて人混みに紛れれば警備員にも追われない。いや、警備員に保護を頼んだ方が良かったか?
「ユキ様、ぼーっとしてないでおっさんに電話してくださいよ」
「ぁ、う、うん……ポチ凄いね、僕だっこして走ってるのに……すごく速い……」
「ユキ様が軽いんですよ、一人で走ってる気分です。あ、後ろ見てくれません? 誰か来てます?」
「誰も来てないよ……うん、来てない」
俺の首にしっかりと腕を回し、必死に首を伸ばして背後を確認する雪兎は何だか可愛らしい。
「じゃ、この辺で一旦隠れますか」
古城には夜は開放されていない庭園がある。普通なら入ることは出来ないが、こっそりと見学の道を逸れて背の低い柵を二つ飛び越えれば容易に侵入が可能だ。
花を折り花を散らし、茂みの中に身を隠す。雪兎の白い髪は夜も目立つ、俺はパーカーを脱いで雪兎に頭から被せた。
「紺色なら少しはマシでしょ」
「……ありがと、ポチ。寒くない?」
「肌着は着てますし、走りましたから暑いくらいですよ」
嘘だ、かなり寒い。ただでさえ昨晩びしょ濡れのまま放置されたり冷水を浴びせられたり入れられたりで風邪気味なのに……帰国までには確実に風邪をひく。
申し訳なさそうに俺を見上げる雪兎を抱き寄せ、暖を取った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,376
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる