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しっと、いち
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ただ喉仏を押さえるだけの小さな手に縄が絡まった手を重ね、もう片方の手で涙に濡れた頬を撫でる。
「………………ポチのバカ」
雪兎は一瞬目を見開いて驚き、可愛らしい罵倒を呟いて手を離した。
「……手を外そうとしたら、また後でロープで絞めてやるつもりだったのになぁ」
自嘲気味に独り言るとベッドに飛び乗り、手足を震えさせながら起き上がる俺を眺める。
「ゆきっ……げほっ、ぅ……ぇほっ、ちょっとすいませっ………………ユキ様」
「…………なーに?」
「……まず、ごめんなさい」
「………………いーよ」
両手を広げた雪兎を抱き締め、背を撫でて涙を舐め取る。
「……言い訳していいよ」
「じゃあ……まず、最初に俺の部屋に入ってきたのは叔父さんなんですよ」
「うん……」
「それで、後から雪風が来て……えっと、ちょっと揉めて」
雪兎が動画を見ていたら状況説明なんて必要無い。しかし雪兎が自分から「見た」と言うのは俺が全てを白状し終えた時だけだ。
だから可能な限り俺の不手際を隠しながら事実に近いものを作って話すしかない。
「雪風が……その、泣いてしまって。叔父さんは出てったんですけど雪風は部屋を出る気配がなくて、やっぱり泣いてるのは気になるし、軽く抱き締めて慰めたんですよ」
「うん……」
「…………そのですね、ユキ様に、似てまして。泣いてて……俺に甘えてきて……キスねだられたら、断りようがないってのは分かっていただけ……?」
「ません」
「ませんねー……まぁ、ちょっと溜まってたってのもあって軽い気持ちでヤっちゃったんですよねはははごめんなさい殺していいですよ」
「……ポチをどうするかは僕が決めるの」
動物愛護は俺には適用されないのだろうか……されないな。事実に沿えば俺の罪を軽くすることなんて不可能なのだ。
「…………まぁ、その日一回だけなんだよね? 他の日も来た? 断ったよね?」
「叔父さんは来て雑談して帰っていきましたけど、雪風は来てません」
「……初犯じゃないけど最初のは雪風が悪いんだし……まぁ初犯扱いで許してあげる」
「天使?」
「ポチのそういうとこ好きだよ」
許す……というか、キレ散らかしてどうでもよくなった……というか、まぁそれは雪兎のことだからハッキリとは言えないけれど。
「……雪風が家に居るのは明日までだし、雪風が呼んだり家に帰ってくるって時は事前にポチを限界まで絞っちゃえばいいんだよね?」
「…………是非メイドコスを」
「調子乗ってきたね、ポチはすぐに調子乗るよ。今日はもう疲れたけど、明日一日かけて躾なおしてあげるからね。犬ってこと自覚させてあげるから」
犬、か。
初めにそう言われた時は戸惑ったけれど、思えば最初からそう嫌がってはいなかった気がする。人間をやめてしまえば両親を忘れられると思っていて、それを望んでいて、でも忘れたくない気持ちがどこかにあったから雪風に真尋と呼ばれて人間に戻ってしまうのだ。
「……わん」
「…………ふふっ、本当、調子いいんだから」
犬は、ペットは、何も考えなくていい。楽だ。主人の言いなりになっていればいい。そうすれば気持ちよくしてもらえるし、人並み以上の衣食住が手に入る。
あまり人間に戻らない方がいい、殺されかねない。
俺は床に突き立ったままの鋏を横目に雪兎と唇を重ね、彼の手でならいつ死んでもいいやと思考を捨てた。
「………………ポチのバカ」
雪兎は一瞬目を見開いて驚き、可愛らしい罵倒を呟いて手を離した。
「……手を外そうとしたら、また後でロープで絞めてやるつもりだったのになぁ」
自嘲気味に独り言るとベッドに飛び乗り、手足を震えさせながら起き上がる俺を眺める。
「ゆきっ……げほっ、ぅ……ぇほっ、ちょっとすいませっ………………ユキ様」
「…………なーに?」
「……まず、ごめんなさい」
「………………いーよ」
両手を広げた雪兎を抱き締め、背を撫でて涙を舐め取る。
「……言い訳していいよ」
「じゃあ……まず、最初に俺の部屋に入ってきたのは叔父さんなんですよ」
「うん……」
「それで、後から雪風が来て……えっと、ちょっと揉めて」
雪兎が動画を見ていたら状況説明なんて必要無い。しかし雪兎が自分から「見た」と言うのは俺が全てを白状し終えた時だけだ。
だから可能な限り俺の不手際を隠しながら事実に近いものを作って話すしかない。
「雪風が……その、泣いてしまって。叔父さんは出てったんですけど雪風は部屋を出る気配がなくて、やっぱり泣いてるのは気になるし、軽く抱き締めて慰めたんですよ」
「うん……」
「…………そのですね、ユキ様に、似てまして。泣いてて……俺に甘えてきて……キスねだられたら、断りようがないってのは分かっていただけ……?」
「ません」
「ませんねー……まぁ、ちょっと溜まってたってのもあって軽い気持ちでヤっちゃったんですよねはははごめんなさい殺していいですよ」
「……ポチをどうするかは僕が決めるの」
動物愛護は俺には適用されないのだろうか……されないな。事実に沿えば俺の罪を軽くすることなんて不可能なのだ。
「…………まぁ、その日一回だけなんだよね? 他の日も来た? 断ったよね?」
「叔父さんは来て雑談して帰っていきましたけど、雪風は来てません」
「……初犯じゃないけど最初のは雪風が悪いんだし……まぁ初犯扱いで許してあげる」
「天使?」
「ポチのそういうとこ好きだよ」
許す……というか、キレ散らかしてどうでもよくなった……というか、まぁそれは雪兎のことだからハッキリとは言えないけれど。
「……雪風が家に居るのは明日までだし、雪風が呼んだり家に帰ってくるって時は事前にポチを限界まで絞っちゃえばいいんだよね?」
「…………是非メイドコスを」
「調子乗ってきたね、ポチはすぐに調子乗るよ。今日はもう疲れたけど、明日一日かけて躾なおしてあげるからね。犬ってこと自覚させてあげるから」
犬、か。
初めにそう言われた時は戸惑ったけれど、思えば最初からそう嫌がってはいなかった気がする。人間をやめてしまえば両親を忘れられると思っていて、それを望んでいて、でも忘れたくない気持ちがどこかにあったから雪風に真尋と呼ばれて人間に戻ってしまうのだ。
「……わん」
「…………ふふっ、本当、調子いいんだから」
犬は、ペットは、何も考えなくていい。楽だ。主人の言いなりになっていればいい。そうすれば気持ちよくしてもらえるし、人並み以上の衣食住が手に入る。
あまり人間に戻らない方がいい、殺されかねない。
俺は床に突き立ったままの鋏を横目に雪兎と唇を重ね、彼の手でならいつ死んでもいいやと思考を捨てた。
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